#6.トン吉爺さんの修業
「いいか翔太朗、こうやってな。」
トン吉爺さんは、口寄せの術を見せる。
僕を受け入れてくれる人はもうトン吉爺さんしかいなかった。
彼は亡くなった祖父の弟。つまり大叔父に当たる人物だ。
トン吉爺さんは口寄せの術を見ると、そこには大きな鷲が現れた。
トン吉爺さんの鷲は、黒い翼を広げていた。そして、顔はよぼよぼのようだった。
「ワシ之信よ。翔太朗の忍者学校の卒業試験の修業の相手を一緒にするぞ。また落ちたらしくてな。」
「そうなのか、翔太朗。」
黒い大きな鷲が話しかけてくる。名前は鷲山ワシ之信。
このように、鷲でも忍術が使える鷲であれば、人間の言葉を話すことができるらしい。
ちなみに、鷲も術が使えるので、変化の術の逆バージョンで、人間に変身もできるらしい。あまり見たことはないが。
しかしながら、幼いころから、みんな鷲と話すところを見ていたのを覚えている。
このワシ之信という大きな黒い鷲は、どうやら顔や声からして、かなりの年だ。
「そりゃそうさ。わしが子供のころから一緒なのだから。」
トン吉爺さんはそのように言っていた。
「さあ、今日も卒業試験の修業をするぞい。」
トン吉爺さんと、ワシ之信の声によって、修業を開始する。
トン吉爺さんはいろんな話をしてくれる。僕も、トン吉爺さんのように、新しい術の開発にか かわりたいと思い、本をたくさん読んでいたのが始まりだった。
忍者学校の成績、特に実技科目の成績が最下位なのをきいて、将来は、得意な学術をもっとスキルアップしないと。と思うようになった。不思議なことに。
しかし、今は忍者学校卒業が最優先。学術試験だけでは合格できないのがこの試験だ。
このままだと一生一族の奴隷にされてしまう。
ただでさえ、今も忙しいのに、家事、料理、掃除。
そして、一族の任務に伴う、常備薬の選定と調合。
これも、トン吉爺さんや、吉田一族で、医療卿を務めた人物の日記から学び、任務に行かない、僕が選定していた。
そして、料理もみんなに栄養のあるものを取るようにと努力していた。
これらのことを学ぶのは楽しかった。
いっそ、こういった学びだけで、試験があればいいのに、なんで実技科目なんかあるのだろう。
さらに、現在は忍者学校卒業が最優先のため、新しい術の修業などは後回しだ。
トン吉爺さんの修業はさすが吉田一族の人であり、厳しいものが続く。
隠居という二文字はどこへやら。
「まずは、手裏剣の修業。右手でもって、こう投げる。」
トン吉爺さんは、手裏剣を持ち、的の真ん中に投げた。
僕も、同じようにやってみるが、的まで届かなかった。
「うーむ。持ち方がなっとらんのう。こう持つんだが。それに力も入ってない。」
トン吉爺さんの持ち方だと持ちづらい。
それに投げるときに、右肩はどうも力が入らない。
左肩や左手の方が器用に動かせそうだが、やらせてもらえない。
忍具の扱いは、右手、右腕の方がいいようだ。そのように合わせて作ってある忍具もある。
だから、右手に持つように教えられる。
幸い、箸や筆はかろうじて右手に持てたのだが。
やはり、そのような意味でも、幼少の食事のマナーや文字の読み書きからも龍太朗の方が上達が早かった。
忍具も、そんなものなのか。と思っていた。
忍具の修業が終わると、術の修業、体術の修業と続く。
分身の術、変化の術と復習し、体術の訓練だ。
これで、日も暮れたころ。
余った少しの時間で、吉田一族の術の訓練をする。
両親は早く習得してくれとトン吉爺さんに頼んだようだが、トン吉爺さんだけは違った。
「いいか、まずは忍者学校を卒業するのだ。術の会得には個人差がある。」
トン吉爺さんは、そういってここからは優しくいつものトン吉爺さん節で教えてくれた。
ワシ之信もそれを見守る。
「鷲と口寄せ契約することだって、難しい。その鷲と相性が合わないといけないのだから、俺にはワシ之信がいるが、半蔵と、龍太朗の鷲をよく見てみろ。体格や羽の色も違う。そして性格も少々厄介だから、俺でさえもあの二頭の背中に乗せてもらえない。」
確かにそうだった。父には鷲野サイゾウという、茶色の大きな鷲と契約している。
サイゾウは鷲野という鷲一族のリーダー格のようで、殿様と一匹狼を足して二で割った性格だ。
だから、半蔵と民子以外、サイゾウの背中に乗ったことのある人物はいない。ほかの吉田一族の人間でさえもだ。
兄、龍太朗には鷲田ワシノリという鷲と口寄せ契約をしている。このワシノリという鷲も、厄介な性格で、不良っぽく、上からの命令は嫌いで龍太朗はどちらかというと話の合う相棒ということのようだ。
ただ、ワシノリの体格はかなり大きい。
「そうじゃろ。だから、翔太朗。お前さんにもきっと君をパートナーにしたいという鷲がきっと現れるのだ。その日を待つがいい。」
トン吉爺さんと、ワシ之信が笑顔で言った。
口寄せの術の話が終わると、鷲眼の術の会得に入る。
吉田家に代々伝わる、忍術だ。
遠くまで見渡せるように、思い浮かべて。
印を結ぶ。
術の印を結ぶのも、僕にとっては大変だった。なぜ早く印を結べるのだろうか。
どうしても、手の組方で問題が起きている。
どちらかの手が前かわからなくなってしまう時があるのだ。
鷲眼の術。
やはり遠くまで見渡すことはできなさそうである。
あきらめずに何度もやってみるが、失敗だ。
「まあ、きっかけをつかむのが問題なんじゃろう。これも個人差があるからの。わしだって、これを会得したのは里の下忍になってからだし。」
トン吉爺さんはそう言って、僕の肩をポンポンと叩く。
「それにしてもあいつらはのう・・・・。翔太朗には翔太朗の良さがあるのにな・・・・。」
トン吉爺さんはつぶやいた。
空の色がさらに赤味を増したころ、今日の修業は終わった。
早く家に帰らないと、最近は家の家事はすべて僕がやっている。
トン吉爺さんと別れて、帰路についた。
そして、家に帰るとすぐに、料理はじめ、洗濯物を取り込んだ。
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