#5.トン吉爺さんの大予言
14年前。吉田トン吉は走っていた。
吉田一族の一人、吉田トン吉。
今日は、兄の孫の出産予定日だ。兄貴にとっては三番目の孫だ。しかし、とても楽しみだろう。
トン吉の甥、半蔵には、半蔵の弟、長治がおり、半蔵よりも先に、喜助と治美という名の、子供を設けており、本家からの跡継ぎは生まれないのかと心配していたが、今回の半蔵の妻、民子氏のご懐妊の報を受け、事なきを得たのだ。
吉田トン吉、彼もまた吉田一族の一人だった。
吉田一族の一人の忍者として、那ノ国の上忍まで上り詰め、外国の偵察任務を多く経験し、そのまま外交官、外務卿まで上り詰めた人物だ。
現在は、出張が多かったせいか、体調を崩し隠居している。
だが、彼は少々変わった人物でもあり、オタク体質だった。
外国で見聞きした術はすぐに自分も使えるように会得しようとしたり、実際にそれを試そうとした。
ゆえに、彼は、新しい術を編み出すのを得意としていたのだった。
彼の会得している、人物鑑定術や予言術、占い術関連もその一つ。
外国で会得し、実際に使えるようになった。
しかもそれは外れたことがない。となれば那ノ国や風ノ里の方々から、頼られることも当然だ。
しかしながら、彼は隠居の身。時より、外交官時代に出張した場所に出かけることはあっても、大方の予言術の依頼はすべて、風ノ里に依頼者が訪問する形で実施していた。
甥の半蔵と、民子の依頼か。子供が生まれるからということか。
トン吉爺さんは、甥夫婦の依頼を聞いて、何をしてほしいかすぐに察した。
トン吉爺さんは、民子の入院している病院へ走っていった。
風ノ里の病院へ着き、病院の玄関をくぐると、看護師が出迎えた。
「ああ。トン吉さん、おめでとうございます!! さあ、病室はこちらですよ。」
看護師の一人に案内される。
「本当にかわいい双子の男の子でして。」
看護師からそのことを聞いた瞬間にトン吉爺さんは目を見開いた。
双子・・・・・。もしかすると・・・・・。
トン吉爺さんは知っていた。吉田一族の人間なので、知っていて当然といえば当然だが。
もしや烈風の双子が生まれたのでは・・・・・。
代々、吉田家に伝わる数百年に一度生まれてくる、双子の男児の言い伝え。それをトン吉は確信していた。
病室に案内され、看護師が病室の扉を開ける。
そこには、半蔵と民子の姿、そして兄の姿があった。
「おじさん、ありがとうございます。さあ、ご覧になってください。」
半蔵が言って、双子をトン吉爺さんに差し出した。
「双子の長男、龍太朗です。」
民子が言って渡す。
トン吉爺さんは、人物鑑定の術と予言の術を使用しているようで、生まれたばかりの龍太朗の腹部に手を当てる。
トン吉爺さんは、龍太朗から流れる。普通の那ノ国の上忍以上に流れる、膨大なチャクラ量を読み取った。
目の色を変えてうなずく。
「双子の次男、翔太朗です。」
同じように、トン吉爺さんは、翔太朗の腹部に手を当てた。
トン吉爺さんは、龍太朗と同じく、翔太朗の方にも、普通の那ノ国の上忍以上に流れる、いや、普通の忍者より数百倍の流れるチャクラの量を同じく、翔太朗からも感じ取った。
しかも、翔太朗の場合は、それだけではなかった。
むむむ。トン吉爺さんは、何かを感じた。
翔太朗のチャクラの質が違ったのだ。特別なチャクラだ。澄んだチャクラ。何も混ざらない純粋なチャクラだ。
つぎにトン吉爺さんは、翔太朗のその澄んだチャクラの故か、予言術において、翔太朗が旗を持ち、龍太朗の手を取り合い、二人が手をつないでいる場面を見た。周りにいた人々は歓喜の声を上げている。
この風景にあった、周りの家は少し壊れていたものがほとんどだった。おそらく、何か戦争や災害が起きたのだろう。
その時、翔太朗がリーダーとなって、龍太朗はサブリーダーとなって、まとめ上げているのだろう。とトン吉爺さんは確信した。
だが、トン吉は少し腑に落ちない場面があった。
翔太朗の掲げていた旗に違和感を覚えた。
この旗に見覚えがなかったのである。
周りの人々も雰囲気が違うような人が混じっていたが、これは時代の流れなのだろう。
トン吉はそういうことにして、その腑に落ちない場面を納得した。
生まれたばかりだ。今後成長するにしたがって、予言は変わることがある。
現にそういう例をいくつも見てきた。
以上の結果から、この双子にとって、悪いことは起きないと想定した。
そして、半蔵と、民子、兄にこう告げた。
「二人とも、膨大なチャクラを感じ取れる。しかも翔太朗の方は特別に澄んだチャクラが流れている。この双子の男児こそ、吉田家代々に伝わる『烈風の双子』と見て間違いない。そして、おそらく戦争か天災か何かつらいことを経験することになるが、二人はこの時のリーダーになり、やがて風ノ里の、那ノ国の英雄になっていくだろうな。」
半蔵と、民子、彼の兄は安心したかの表情と、涙であふれていた。
やがて、14年の時が過ぎた。
翔太朗の術の会得は思ったより進まず、忍者学校の成績も最下位を独走。
たいして龍太朗は忍者学校を首席で卒業し、今や中忍。重要任務に赴いている。
その間にも、トン吉爺さんの予言が外れることが多くなった。
この翔太朗の一件も、予言が外れてしまった。
トン吉爺さんは、外国で会得した術なので、予言は外れることもあるし、特に子供の場合は方向が変わっていく場合もある。そこを承知して、頼るべきなのに。と前々から話していたが、ほぼすべての人が、100パーセントその予言を信じて、外れた場合は思いっきり当たるようになった。
やがてトン吉爺さんは、
「申し訳ないことをした。今後は、予言の術を使わずに隠居して、生きていきます。」
と、苦渋の謝罪をして、予言の術を使わなくなってしまった。
「吉田一族のおいぼれ」、「吉田一族のほら吹き爺さん」とうわさはあったが、彼の、外務卿としての功績や吉田一族のブランドがそれを上回っており、うわさはすぐに鎮火した。
しかし、半蔵や兄、民子などの本家の人間は翔太朗の一件もあり、トン吉をよく思っていなかった。
だが、それでも翔太朗のことを誰よりも心配しており、成績が悪いこともあって、この度、翔太朗の修業の相手として、抜擢されたのだった。
しかし、予言の術など外国で会得した術の修業は禁止。
吉田一族に伝わる、
『鷲眼の術』と『鷲の変化の術』そして、鷲と主従契約し『口寄せの術』をのみ会得させること。
忍者学校を卒業させること。
この二つのこと以外の修業は禁止という制約をしての条件付きだった。
そう、トン吉爺さんも、吉田一族の秘伝の術は使えるのだから。
そして、翔太朗が最初の卒業試験落第後、トン吉爺さんとの修業を開始して、二年。
いまだに、翔太朗は吉田の秘伝の術の会得、さらには卒業試験を突破できずにいた。
読んでいただきありがとうございます。冒険はまだまだ続きます。
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