#48.ミランダの誕生日
僕たちは、学級の仲間と別れた後、モナリオ家の屋敷に戻った。
学級の級長になった。とても緊張する。
「大丈夫ですよ。翔太朗様。」
ミランダが優しく声をかける。
「ああ、きっとできるさ、翔太朗殿。」
カミラさんが、いろいろと、フォローしてくれる。
「緊張しているかもしれないが、景気づけに明日は楽しもうか。」
「明日。明日というと。」
カミラさんが、表情を切り替えて、僕に言ってきた。
「ああ、言い忘れていたな。ミラ様の誕生日が9月の初旬で、もうすぐだ。というわけで、明日は誕生日会ということで、屋敷で少し豪華に料理で楽しもうかということだ。」
カミラさんが笑っている。
「あ、そうでしたわね。翔太朗様には、私の誕生日を言っていませんでしたね。」
ミランダが頬を赤くしながら言った。
誕生日かあ。
プレゼントを用意しなくてはいけないな。
風ノ里に居たときも、誕生日のプレゼントを贈ったよな。
正確には、誕生日のプレゼントを無理やり強要された。という話になるのだが。
かといって、自分の誕生日には何一つプレゼントはなかった。
新品で高級そうな、プレゼントは、全て一緒に誕生日を迎えることになる、双子の兄、龍太朗の物だ。
そして、僕がもらったのは、父親が使っていた、穴の開いた靴下だったり、シミの付いたハンカチなど、誰かが使い古して、壊れたものがプレゼントだった。
最初は、兄に対して嫉妬したが、年を重ねるにつれて、感情が消えていた。どうせ、何ももらえないと。
人の誕生日の時は、無理やり強要されて、お小遣いをすべて使われる羽目になるし・・・。
だから、誰かの誕生日に対して、あまりいい感情を持てずにいた。
だが、今回の場合は話は別だ。
ミランダ。こんな僕をセントアリアに連れてきてくれた優しい仲間。
プレゼントを無理やりではなく、初めて、自分から進んで何か贈りたいと思った。
幸いにも、ギルドの仕事で僕の小遣いは、風ノ里に居たときより貯まっている。
風ノ里に居たときは、僕の小遣いというのは、ほぼすべて、僕の‘元’家族たちにそのようなプレゼントを貢いだり、任務に使う薬代や薬草代、家族の食事代にほぼすべて消えていた。
この貯金の額であれば、何も節約しなくてもいいものが買えるのでは、と思った。
よし、明日、買い物に出かけてみよう。
翌日、僕は王都へ出かけた。
9月の初旬の日曜日。昨日学級の仲間たちと、いろいろ散策した王都。1回覚えてしまえば、すぐに散策できる。
「お出かけしてきます。」
僕は、カミラさんやメイドさんたちにそう伝えた。
「おお、気をつけて行ってくるのだぞ。」
カミラさんたちは、僕にそういって送り出してくれた。
幸い、日曜日、そして、昨日、模擬戦闘ではあったが、ドラゴンと戦ったというので、カミラさんとミランダとの修業の鍛錬の時間は少し短く終わった。
たっぷりと時間がある。
「あの、ご主人様、どこへ行かれるのですか。」
「あの、私も付いていきます。」
シロンとユキナは、相変わらず、僕についてきてくれるようだ。
僕は、理由を話し、シロンとユキナと一緒に王都へ行くことにした。
「すごいですご主人様。」
「いいなぁ、ミランダさん。」
「ご主人様、私たちの誕生日にもほしいです~。いけませんかぁ」
二人は真剣なまなざしで、僕を見つめてくる。
「あ、うん。いいよ。」
二人は、五月の中旬の日付を言った。
「日付ドンピシャじゃなくていいですので。近くなったら一緒に買い物とかいろいろな場所に行きたいです。」
なるほどね。そういうことなら、お出かけすることにしよう。
「わかった。覚えていたらね。僕、あんまり誕生日覚えないんだよね。嫌な思い出の方が多いからさ。」
「どうしたんですか。誕生日に何かあったんですか。」
僕は、自分の誕生日のこと、今までもらったプレゼントのこと。
その分、風ノ里の‘元’家族の誕生日のプレゼントを強要されていたこと。
その他、‘元’家族のこと。
そして、ミランダやシロン、ユキナ、初めて誕生日を祝う気に素直になれたことを話した。
「本当は、こういう人にプレゼントを贈るべきなんだよね。きっと。」
僕は、その言葉でまとめた。
「はい。その通りです。ご主人様。」
「ごじゅじんざま、がわいぞう。うえーん。」
ユキナ、シロンは当然の反応をする。
「「ご主人様の誕生日はいつですか。」」
シロン、ユキナは、前のめりの格好で、僕に聞いてきた。
「えっと・・・・・。」
秋、11月の中旬の日付を伝えた。
「今、覚えました。絶対忘れません!!」
「絶対、私たちとお祝いしましょうね!!」
「はは、覚えててくれなくても大丈夫だよ。」
「忘れないです!!」
「はい。翔太朗様のお誕生日はちょうど、この国のいたるところで、収穫感謝祭が開かれている1週間に該当します。日付が多少ずれても、収穫感謝祭期間中にお祝いすれば、問題ありません。」
なるほど、感謝祭か。ユキナは頭もいいし、覚えているかもしれないなあ。
「それでも、忘れる人は忘れるよ。だから大丈夫だから。」
そう、風ノ里に居たときも、僕の誕生日は面倒くさそうだった。
優秀な双子の兄がいたから、辛うじて、悪い意味で覚えられていた程度だ。
もしも、僕が双子でなかったら、忘れられていただろう。
だから僕は、覚えていなくても大丈夫だった。そんなのは慣れているから。
シロン、ユキナとともに、王都の貴族街の坂を下り、中央広場へとやってきた。
そういえば、二人は昨日、親睦会には参加せず、模擬戦の時に僕に召喚されて出てきたんだよな。ということを思い出した。
「二人は、王都をゆっくり回るのは初めてだよね。」
「「はい!!」」
「うん。一緒に各所を回りながら買い物しようか。」
「はい!!」
「わーい!!やったー!!」
シロンと、ユキナも女の子だった。
庶民街の方へ向かい、昨日通りがかった、スイーツのお店を通りがかかると目の色をキラキラしていた。
「ご主人様ぁ~。期間限定クレープ食べたいです!!」
「わ、私もそれ、欲しいです。」
期間限定クレープ二人分を注文する。
「ご主人様は食べないんですか。」
「これ、おいしいですよ。」
「ああ、僕は、大丈夫。それより、こっちの店の方が気になる。」
それは、期間限定クレープの向かいにあるお店だった。
『ジュース屋、タピオカトッピング無料』と看板に記載されている。
実は、昨日の親睦会から気になっていたのだ。
甘いスイーツよりは、甘い飲み物派の僕だった。
昨日クレープを購入し、店を出たときに、向かいの店の看板に目に入ったので、失敗したと思った。
「ああ、ジュースの方がいいんですね。」
「うん。あまりおやつとかの間食はしないタイプで、甘いものが欲しいと思ったときは真っ先にジュース頼む人。」
僕は、向かいのお店に行って、ジュースを一つ注文する。
桃と、マンゴーのミックスを頼む。風ノ里に居たときも、フルーツ系は大好きだった。
「タピオカ無料ですけど。」
店員に聞かれた。
「タピオカお勧めしますよ~。ご主人様。」
「はい。かなりもちもちした食感で良いですよ。」
タピオカ。噂では聞いたことがある。人気らしい。
「じゃ、お願いします。」
僕は、タピオカのトッピングを頼んだ。
出されたジュースは最高だった。
タピオカの食感は、もちもちした感じで、最高だった。
これくらいであれば、間食、つまりおやつでも食べられるな。
また来よう。
僕は、そう思った。
「最高の笑顔ですね。ご主人様。」
「はい。笑顔がいいです。」
なるほど、僕のご満悦した表情は2人にもすでにお見通しだったということだ。
スイーツを食べ終え、飲み終えた僕たちは、その足で、アンソニーのお店。
『バローズ商会』に向かった。
店のドアを開ける。
すると、アンソニーの母親とアンソニーが出迎えてくれた。
「おお、翔太朗君。それに、シロンとユキナまで。いらっしゃい。」
「おやおや、昨日のアンソニーのクラスの友達じゃないか。」
アンソニーの母親は、シロンとユキナを見るや。
「おお、翔太朗君は可愛い彼女を二人もお持ちですね。」
「違うよ母ちゃん。この二人は翔太朗君の従魔、双子のホワイトイーグルだよ。」
シロンとユキナは一瞬アンソニーを睨む。
「ふふふ。アンソニーももう少し、女の子の気持ちを理解しようか。ホワイトイーグルか。翔太朗君と息がぴったり。翔太朗君になついているね。いい感じだよ。」
シロンとユキナが照れた顔になる。
「どうしたんだい。今日は。」
アンソニーが言ってくる。
「ああ、ミランダの誕生日会を今日屋敷でやることになって。それで、何かプレゼントでもと・・・・。でも、ここのお店は流石に迷うな。」
「へえ、そうなんだ、ミランダの誕生日なんだ。」
アンソニーは同情した。
「さすがは翔太朗君は紳士だね。この二人がなつくのは当然だね。でも、見たところ、同じ年の女の子の誕生日にプレゼントを贈った感じはしなさそうだね。」
僕は、うなずいた。
「ミランダって、昨日一緒に来ていた貴族の子だよね。あるよ。きっと貴族の女の子に送るピッタリの物が。」
アンソニーの母親はメモ用紙を取り出し、地図を書いてくれた。
「ほい。これが、その店の地図。そして、ここに書いてあるメモを見せてごらん。後はお店の人がやってくれるからね。」
母親が差し出してくれたメモには、お店の行き方。
そして、『フローラルブーケ、パルファム強め、誕生日プレゼント用』と書いてある。
「店員にこのメモを見せれば伝わるよ。大丈夫。」
「はい。ありがとうございます。」
僕は、母親に頭を下げた。
「はいよ。今夜のパーティー楽しんでね。」
アンソニーとアンソニーの母親に見送られた。
行き方に記載されているように道をたどっていき、お目当てのお店にたどり着いた。
落ち着いた感じのお店。店頭にはスプレーのような瓶がずらりと並んでいる。
お店に入ってみる。
「いらっしゃいませ。」
女性の店員が迎えてくれた。上品な女性の店員だった。
「あの、この店初めてで、その、こちらのメモを見せれば対応していただけると。」
女性の定員にメモを渡した。
「なるほど、お誕生日のプレゼント用ですね。このお店は女性に人気の香水を扱ってます。最近は男性のお客様もいらっしゃいます。」
女性は、スプレーの瓶を手に取り、シューッとあたりに吹きかける。
いい香りが広がる。きれいな香りだ。
「このように香りが広がります。これを体の服の上にかけると。」
女性店員は瓶の液体を自分の体に吹きかけた。
「こうやって、いい香りを自分から発せられるようになるのです。どのような女性に贈られるのですか。」
女性店員が聞いてきたので、つかさず答えた。
「貴族の方です。貴族の屋敷に養子として、僕も住んでいまして。」
「なるほど、ピッタリですね。こちらのメモの内容でおつくりしますので、2時間ほどお待ちいただけますか。通常だと、1週間ほどかかりますが、当店は魔法で工程を短縮できますので・・・・・。そこが皆様にご好評頂けている理由にもなるのですが。」
「はい。お願いします。」
「あの、ご予算的に問題がなければ。もう一つおつくりしましょうか。違う香りで、例えば、シトラス系のこんな感じで。」
女性店員は別の瓶を取り出してあたり一面に香りが広がる。
フルーツの香り。僕はこっちの方が好きだ。
「はい。シトラス系でしたっけ。こっちの香りの方が僕は好きなのでお願いします。」
「はい、その方がいいと思います。こういった商品は、香りとか内容とか、人によって合う、合わないがとても激しいものなので。」
そして、お値段が伝えられる。小金貨で2枚、2万マネー程だそうだ。
「はい。大丈夫です。お願いします。」
少し高いかもしれないが、ギルドの仕事で、かなりお金を持っていたので、お願いすることにした。
「オーダーメイドなんで少し高めなんですね。すみません。」
女性店員は頭を下げながら、言った。
「では、おつくりしますので、2時間ほどお待ちください。引換券を渡しますので、外を散策しても大丈夫ですよ。」
そういわれたので、シロンとユキナと一緒に再び外を散策することにした。
昼食がまだだったので、昼食を済ませることにした。
といっても、夜は誕生日パーティー。夜はかなり豪華になりそうなので、昼食は軽めに済ませた。
生の魚が好物な僕はカルパッチョを一皿頼んだ。
那ノ国の料理だけはおいしかったな。といっても僕が作っていたのだけれど。
刺身、寿司、そういうお店があればいいのだけれど。
シロンとユキナは、生の魚はそこまで好きではなさそうだ。
「ご主人様。渋いですね。」
そう言っていた。
味の好き嫌いか。醤油とかで味わうと最高なんだけどな。
シロンとユキナは、先ほどクレープを食べたからだろうか。パンとサラダの小盛を注文していた。
さすがに二人も夜はかなり豪華になることを想定済みなのか、軽めの昼食だ。
少し、王都を散策して、2時間が経過。
香水を受け取った。
誕生日プレゼント用ということもあり、きれいにラッピングしてくれていた。
「ありがとうございました。」
店員に見送られ、貴族の屋敷の方に帰っていく。
王都はやっぱり住みやすい。
夜。ミランダの誕生日を兼ねた夕食会だ。
「「「ミランダ、お誕生日おめでとう!!」」」
ポールさん、アルベルトさん、パメラさんが祝福する。
「「おめでとうございます。ミラ様。」」
僕も、カミラさんもともに祝福する。
カミラさんは食事の配膳も兼ねているので、相変わらずメイド服を恥ずかしそうに着ている。
「ありがとうございます。お爺様。お父様、お母様。」
ミランダは笑顔だ。
「そして、翔太朗様もありがとうございます。料理のパーティーですが楽しんでくださいね。」
普段も豪華な食事が並べられるが、この日は一段と豪華だった。
ミランダの好物がこれでもか、これでもかと食卓に並べられている。
「「「乾杯!!」」」
みんなで声をそろえて乾杯をした。
最高のジュースをいただく。大人たち、ポールさん、アルベルトさん、パメラさんはワインを楽しんでいるようだ。
酒類に関しては那ノ国の法律と同じような感じで、僕とミランダはまだ飲めない年齢だ。
オードブル、フライドチキン、マッシュポテト、魚のグリル焼きに、パスタ、ピザ。チーズの料理。
たくさんのたくさんの料理を食べた。
そして、食べ終わったころ。
大きなケーキが出てきた。
ろうそくが立っている。ミランダはケーキのろうそくを吹き消すと、拍手が起こる。
ミランダ好みのチョコレートのケーキ。
丁寧にカットされ、みんなのお皿に盛りつけられる。
屋敷の人全員がお祝いしている。
素敵な誕生日会だった。
やがて、一人一人がミランダにプレゼントを贈る。
僕の番がやってきた。
「ミラ様の趣味に合わなかったらすみません。お誕生日おめでとうございます。」
今日、僕と、シロンとユキナで選んだプレゼントは丁寧にラッピングされていた。
「きれい。翔太朗様のプレゼントが一番かもしれませんわ。」
ミランダは照れたようにこちらに視線を送る。
丁寧に、丁寧にラッピングを外していく。
リボンを取って、包み紙をきれいにはがしていく。
「うわぁ。素敵。翔太朗様、よくこんなの思いつきましたね。」
「は、はい。正確にはバローズ商会。アンソニーのお店に勧められまして。」
「それでも素晴らしいですわ。」
ミランダは香水の入った瓶を取り出し、シューッと吹きかけてみる。
「香りも素敵です。」
「よかったわね。ミランダ。」
パメラさんが微笑みかける。
「ああ。翔太朗殿はセンスがいいな。まあ、バローズ商会の手助けもあったかもしれないが。」
カミラさんが頷く。
喜んでもらえてよかった。
というか、一番喜んでいる。
今までプレゼントを渡した人、風ノ里の‘元’家族は、喜んでおらず。プレゼントもけなしていた。
ああ、よかった。
「ありがとう。翔太朗様。」
ミランダは特別な微笑みで僕に視線を送ってくれた。
誕生日会は、素晴らしかった。
ミランダも喜んでもらえてよかった。
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