#31.崖を登る
大きな崖だ。やはり近くで見ると壮観だ。
この崖が、数キロに渡って広がっており、最終的には王都まで続いているのだ。
シロンとユキナに案内され、僕たちは崖の下まで来ていた。
崖の中腹に洞穴があって、そこから巣に行けるらしい。
夕べ、シロンとユキナは久しぶりにおなか一杯食べたようだった。
そして、ぐっすり眠っていた。
そのこともあってか、二人はとても元気だ。
ホワイトイーグルの双子。性格は違うようだが、お互いそれをフォローしあっている。
「ここから先は、私たちが連れて行くわね。さあ、背中に乗って。」
シロンと、ユキナは人間に変身した姿から、本来のホワイトイーグル、純白の鷲の姿へと戻った。
カミラさんがシロン。ミランダと僕が、ユキナの背中に乗る。
二人は、空を飛んでいった。
このままの速さなら一瞬で崖の上につきそうなそんな勢いだ。
二頭のホワイトイーグルは、僕たちを背中に乗せて、崖の中腹までやってきた。
言われた通り、崖の中腹に、洞穴がある。
その洞穴に二頭のホワイトイーグルは入っていった。
「ここからは、歩けるよ。こっち。」
僕たちは、彼女たちの背中から降りて、そして、彼女たちももう一度、女の子の姿に変身して、洞穴の奥へと進んだ。
洞穴の先は空洞になっていて、この空洞から空が見渡せる。
つまり光が差し込める穴が、上から空いているようだ。
その空洞にたどり着くと、彼女たちの巣が存在した。
彼女たちの父、母、と思われる、純白の鷲と、のちに彼らの兄弟となるであろう、卵がそこにある。
「シロン、ユキナ。」
彼女たちの両親は涙を流す。しかし。
「おっと、いけませんな勝手な判断は。」
この巣には、やはりいてはいけない存在が複数いた。
グリフォン。しかも上位種のグリフォンが出そろっている。
「さ~て、皆様食べ物をもってきていただけましたでしょうかな。持ってこないと、どうなるかわかりますよね。手始めに、あなたたちを・・・・。」
「食べ物ならここにあるわよ。持ってきなさいよ。」
シロンが、言ったタイミングとほぼ同じで、カミラさんは背負っていた荷物をおろす。
中には、畑の野菜があふれていた。
今朝、クルレの村の畑からとれた、新鮮な野菜だ。村長が協力して、荷物を詰めてくれた。
「どうぞ。」
「おお、うまそうだな。ヒック!!」
グリフォンたちは、その野菜を食べ始めた。
よし。成功だ。
数分後。
グリフォンたちがうとうとし始める。そして・・・・。
バッタン!!
野菜を食べたすべてのグリフォンたちがその場に倒れこんでしまった。
「き、貴様ら、何をした。」
ものすごい低い声で、グリフォンたちを率いていたボス、『キンググリフォン』が怒鳴ってきた。
「眠り薬と、下剤を混ぜておいたのよ。そこにいる翔太朗様が作ってくれたのよ。」
僕は、カミラさんの作戦を聞いて、薬を調合していた。
「すべてのグリフォンを倒すのは、さすがにランクAの私でもきつい。あらかじめ食べ物をもっていって、そこに眠り薬や、下剤を仕込めないか?」
僕はやってみると返事をして、今に至るわけだ。
睡眠薬と下剤は、すぐに作れることができた。
「何してくれるのだ、貴様ぁぁぁ。」
キンググリフォンは狂ったような叫びをあげている。
「まあまあ、落ち着け。彼らは生きているよ。どうやら、私も参加しないといけませんなあ。」
キンググリフォンの背後から、布を被った男が現れた。
「おお、モナリオ侯爵家のミランダ様ではありませんか。それに護衛隊長のカミラ様まで、これは布を被る必要はありませんな。」
男は布を取った。整った容姿だが、いかにも悪役そのものの顔立ちの男だった。
「き、貴様は、ギエル=ロドバンド」
「まさか、あなたと会うなんて・・・・。」
ギエル=ロドバンド。一体どのような人物なのだろうか。
ミランダとカミラさんの表情を見るとただ者ではなさそうだ。
「翔太朗殿は、初めてだったな。最悪だ。こいつが出てきたということはおそらくこの任務関連は最低でもAAランク。全員Aランクのパーティーでないと参加できない任務になる。」
僕は息をのんだ。
「そんなにやばい奴なんですか?」
「ああ、奴はギエル=ロドバンド。セントアリア王国の超重要指名手配犯だ。他国に国際指名手配もしている。暗殺、略奪・・・・・。いろいろと重要事件を繰り返しているな。
多様なグリフォンがいると話を聞いて、もしかするとそのグリフォンたちは誰かから召喚されてここへ来たのではないかという可能性があったのだが、まさか、こんな重要指名手配犯によって召喚されていたとはな。」
間違いない。本物の悪い奴だ。
しかも、グリフォンを何頭も召喚している。恐ろしい魔導士ともいえる。
「許せません。間違いなく、許せない人です。侯爵家として、国としてあなたをとらえます。」
ミランダも恐ろしい声色に代わっている。
「おい、貴様の目的はなんだ。村を襲って何をする気だ。」
一瞬の沈黙。
ギエルがにやりと笑う。
「さすがは、侯爵家の方々。私を知っていただき光栄です。ですが、私との出会いはこれで、最後。私の目的は知らなくていいのでは。」
甲高い声で笑っている。
さらにギエルはニヤニヤし始め。
「あいつらを食っちまいなさい。遠慮しなくていいですよ。」
ギエルは、自分の召喚した、グリフォンに命令して、僕たちに襲い掛かってきた。
このグリフォンの親玉。『キンググリフォン』が襲い掛かってくる。
僕たちはジャンプしてかわす。
ホワイトイーグルの双子の姉妹も、鷲に変身して空を飛んで攻撃をかわす。
こうしてみると、双子の姉妹も、両親とよく似ている。
双子の両親も卵を守っている。
「まずい。少なくとも、あの卵だけは絶対に近づかないようにしないと。」
僕は、攻撃を受けながら、僕の背後にシロンとユキナの両親と卵がある形の場所まで移動する。
当然、肉体強化の速さの魔法を使ってだ。
これで、卵は守れるだろう。
シロンとユキナも同じ形で、僕の上に来てくれた。
ミランダもやっとの思いで、僕と同じ側にやってくる。
「翔太朗殿、その調子で、グリフォンたちの攻撃を防いでくれ。私は、ギエルを狙う。」
「はい。わかりました。」
カミラさんが動き出す。
ギエルを狙うようだ。炎のカミラさんの拳と、ギエルの魔法合戦。
さっきから、カミラさんの炎の拳が空を切っている。
ギエルはそれを水の防御魔法で防いでいるようだ。炎を水、水の方が当然相性はいい。
僕らは、グリフォンの相手だ。
「グリフォンウィザード」はその名の通り、魔法を得意とするグリフォンだ。
詠唱中に、シロンとユキナがタックルを仕掛けて倒してくれる。
ブラックグリフォンたちは、ミランダが氷の弓矢で圧倒。シロンとユキナの両親も応戦してくれる。
そうなると僕は、グリフォンを率いている一番の親玉、『キンググリフォン』の相手だ。
キンググリフォンはカミラさんにも攻撃をしようとしているため、僕が割り込んで入っていく。
「肉体強化~速さ~」
絶対に負けない。卵を守るんだ。
キンググリフォンの攻撃を迎撃する。
キンググリフォンが体当たりしてきた。
僕はつかさずジャンプして上を取り、短剣を構える。
しかし、キンググリフォンにはかわされる。
もう一度体当たり。
今度は、風魔法で追いかける。
しかし、今度も風魔法がすべてかわされ、体当たり攻撃を食らってしまう。
すぐに立ち上がり、次の攻撃に備える。
キンググリフォンは羽を羽ばたかせ、羽を矢のようにして、スコールを振らせてきた。
もう一度肉体強化、速さの魔法を使い、かわして移動していく。
移動しながら、キンググリフォンの正面に来た。
「『トルネードカッター』」
僕は、魔法陣を発動させた。キンググリフォンが吹き飛ばされたが、すぐに立ち直り、こっちにやってきた。
「ふへへ、小僧。やるじゃねえか。だがまだまだだね。」
キンググリフォンの甲高い声。
それとともに、攻撃の激しさが増してきている。。
「翔太朗殿。」
「「「翔太朗様。」」」
みんなが、心配している。ここは、耐えないと・・・・。
何とか耐えて、攻撃のチャンスがうかがえる。
キンググリフォンに一瞬のスキができる。
「よし、行くぞ皆。」
僕、シロン、ユキナ、ミランダとともに、キンググリフォンに突撃しようとした。その時。
ゴロゴロゴロゴロ!!
雷魔法が、ミランダの上に命中。それを見て護衛に入った、シロンの翼にも命中。
ミランダもシロンも立てなかった。
「まずい。ユキナ。カミラさん。」
「わかった。」
ダメージを受けていない、ユキナとカミラさんが、つかさずフォローに入る。
僕は後ろに下がり、ミランダとシロンに、『メガヒール』をかける。
「おーほっほっほー」
「お疲れさまでした。侯爵令嬢ミランダ=モナリオ様、キンググリフォンやブラックグリフォンに意識を集中していましたな。グリフォンウィザードに気を付けなくては・・・・・。」
なんと、キンググリフォンを討とうとして、みんなが突撃したのが落ちだった。
グリフォンウィザードの呪文詠唱が成功してしまった。
「少年よ。メガヒールを使っても無駄ですよ。あなたたちももうすぐ同じ運命なのですから。
残念ですが、これで終わりですね。
残りの人も食ってしまいなさい。生かす必要はありませんよ。」
許せない。
優しくて素敵で僕を受け入れてくれたミランダを・・・・・。
表上は、少しとがって、気が強いけど、本当の心はとても優しくて、人を襲うことを決してしなかったシロンを・・・・・・。
そして、まだ見ぬ生まれてくる命、ホワイトイーグルの卵を狙うなんて。
ギエル=ロドバンドと悪逆グリフォンの群れ・・・・・。お前たちだけは・・・・・。
あいつを倒したい。
僕は、メガヒールをかけて、薬を飲ませた。
おそらく、僕が見たところ、ミランダとシロンは、すぐに命にかかわるような状態ではなさそうだ。そういうことなら、まずは・・・・・。
僕は、立ち上がり、ギエルと、キンググリフォンのもとへ歩みを進めた。
「翔太朗様。危険です。」
「だめよ。翔太朗様。」
ミランダとシロンが、おそらく、もうろうとする意識の中だろう止めようとする、声がする。
だが、僕は、押さえきれなかった。
「仲間を笑いやがって。俺がぶっ倒す。覚悟しろ、ギエル=ロドバンド!!」
「俺が絶対止めてやる。僕を受け入れてくれた、みんなのために。絶対に、俺はあきらめない!!」
僕は走り出した。ギエルに向かって走り出した。
「ひゃーはははは。何度やっても無駄ですよ。いいでしょう、キンググリフォンよ、こいつから食べ・・・・。」
「・・・・・・・・!!」
「「「・・・・・・・・!!」」
突然、僕の視界が開けた。
何もかもが止まって見える。
グリフォンたちが次の瞬間声をそろえた。
「「ま、まさか。」」
「翔太朗様。もしかして。」
「「こんなすごい人を私の娘たちは連れてきたというのか・・・・・・。」」
「・・・・・初めて見ます。すごい。・・・・・。」
ホワイトイーグル達も、驚いている。
ギエル、そしてカミラさんも、驚いて、こっちを見ていた。
「聞いたことがある。すべての鳥獣の魔物を従魔契約し、召喚できる魔導士に与えられる古の伝説魔法。」
「「「「鷲眼の術」」」」」
読んでいただき、ありがとうございます。
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