#3.風の吉田一族
「はあ。・・・・・。何をやっているんだ。お前は。まったく、一家の恥さらしめが。消え失せろ。」
「翔太朗は駄目ね。何だったのかしら。」
家に帰り、僕は父と母に今日の試験の結果報告をした。
報告をした、第一声がこれだった。
僕は、だだっ広い屋敷の、だだっ広い畳の広間に正座させられている。
縁側からわずかな日差しがそこを照らしているが、決していい雰囲気に照らしているとは思わなかった。
「まったく、一発で本来ならできるはずなのだぞ。これが忍びの一家、しかも、風ノ里の創始者の血筋、『風の吉田一族』の人間か。」
父、吉田半蔵。僕に向かって怒鳴る。そして、暴行される。
「少しは、兄を見習いなさい。まったく、何をしているのだというの。これでも、『烈風の』・・・・。」
母、吉田民子が、半蔵に続いていうが、半蔵はそれを遮った。
「よせ、民子、これは言わない約束だ。トン吉爺さんめ、一体どんな修業をつけたというのか。それに、あの爺の予言なんて、信じる方がバカだったよ。」
半蔵は、一言そういった。
「次の試験までに、修業をすること。それまで飯抜き、ああそうだ。飯抜きといっても、お前以外の吉田一族全員分の食事は、俺たち家族だけでなく、長治おじさんや、従兄の喜助と治美の分も、全員分だ。お前が作れ。そして、家事もだぞ。修業の相手は、やはりトン吉だな。あの爺以外は里のための忍びでみんな忙しいんだ。そして、掃除洗濯家事も頼むぞ。そうだ、忍びで役に立たないのなら、一家の奴隷、召使として働いてもらう。試験に落ちてまで、恥さらしになってまで、中等学校なぞに行かせない。以上だ。」
そういって、僕の両親は部屋を去っていった。
僕が、忍者学校のみんなから落ちこぼれとバカにされている理由。試験に落ち続けているということよりもむしろ、この事情の方が、理由が大きい。
僕の名字が吉田だからだ。
吉田一族。
古くから、風の術、風遁の忍術に長け、疾風のごとく颯爽と駆け抜け、敵を圧倒する。
風を使う獣の一体、鷲。代々、鷲と契約し、『口寄せの術』を行い、大きな鷲を呼び出し、見るものすべてを圧倒させる。
ある時、吉田一族が、これまでの主従の契約者として最もふさわしいと思った、一頭の鷲がいた。
その鷲は、鷲の中の王と呼ばれ、その呼び方が災いしてか、性格も傲慢な性格になってしまったという。
そこに吉田一族が、その鷲の前に現れ、その鷲以上の風使いに出会い、彼は感銘を受けた。
そして、その鷲は、吉田一族に、自信と一つになれる術。
『鷲眼の術』と『変化の術(鷲に変身でき、空を飛ぶことのできる術)』を送ったという。
通常、人間は『変化の術』で人間以外のものに変身することはできても、動物のような習性を身に着けることは難しい。
つまり、通常は鳥に変身できても簡単に、空を飛ぶことはできないのである。
鳥に変身して、空を飛ぶためには、さらに訓練が必要なのだ。
しかし、吉田一族は鷲に変身して、空を飛ぶことができた。
そして、『鷲眼の術』。
鷲と同じ、鋭い目をして、遠くまで見渡すことができ、呪いの忍術、相手がかけた、幻覚の術、幻術を打ち消すことができる。
この二つの忍術で、吉田一族はますます、強くなり。
ついには、那ノ国、いや、この忍者たちの集う西の大陸で知らない人はいない一族になった。
人々は、このように言った。
『風の吉田一族』と。
そして、那ノ国の忍者の里『風ノ里』を設立する。
忍者の里は那ノ国にほかにもあるが、この『風ノ里』が一番古い。
吉田一族の先祖は、風ノ里の創始者なのだ。
以来、この里の長、里長候補は真っ先に出てくるのが当たり前。
但し、現在の里長は、2年前まで里長であった僕の祖父が他界したため、急遽ということもあり、吉田一族ではない人物が里長だが、父はその里長の相談役である。
そして、那ノ国の宰相を務める人物も輩出している。那ノ国の歴代の宰相の中で、一番多い苗字、それは『吉田』だった。もちろん、風ノ里の歴代里長の中でいちばん多い苗字も『吉田』だ。
そう、つまり、忍者学校の卒業試験に落ち続けている僕は、一族の邪魔もの扱いされていたのだ。
それに・・・・。
ガラガラと玄関の扉が開かれる。
帰ってきたか・・・・。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。まだまだ続きます。
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