#121.新しい一年
その後も数日、ウィンター家の別荘で過ごし、あっと言う間に、この年の最終日になる。
こちらの大陸でも、この日のことを大晦日とでも言うのだろうか。
そして、僕は最初に告白を受けた日からこの数日、誰かと交代しながら、2人きりで過ごしていた。
振り返ってみると、この年は激動の一年だったのかもしれない。
家族に捨てられ、新しい家族に拾われて、海を越えた。新しい国、新しいメンバーとの出会い。
振り返ってみると、このメンバーはずっと昔から知っているような気がしてきている。
「もうすぐ、新しい一年が始まるね。」
僕はみんなに言った。
「翔太朗君は、どうしたい、次の一年は?」
八重が聞いてくる。
「みんなと仲良くしたいな。せっかくの本当の・・・・・・。・・・・友達。なのだから。」
ここにいるメンバーは。友達という言葉に、少し戸惑ってはいた。
それもそのはずだ、このウィンター家の別荘に来てから、交代で2人きりの時間を過ごすようになり、それぞれ思いを告げられたのだ。
今晩、返事をしなくてはならない。
誰か一人を選ぶなんて、今の僕は出来なかった。
みんな、自分のことを受け入れて、こうして今日まで数々の仕事をこなし、武術大会も勝ち進み、一緒に八重の近衛兵になったのだ。
今晩、きっと誰かが切り出して来るに違いない。
かといって、全員当事者になっているわけだから、誰かに相談できる人も居ない。
僕は少し、別荘を出て、散歩に出かける。
白樺林を抜けた先にある、湖。ルカに案内され、シロンとユキナで、この上を飛んだ。
冬の冷たい風が、なんだか心地よい。
普段は、魔法で、風を操っている僕。風は時に、激しく吹く。
その激しい風を魔法で操作しているのが、僕であったが、自然の弱い風も、魔法で作れるのだろうか。
<優しい風さん、貴方なら、愛する人に届けられますか。>
「・・・・・・・・!。」
聖夜祭のリリアンの歌詞が頭をよぎる。
そうか。リリアンも、みんなも、この年末年始の告白が初めてではなく、素直に気持ちを伝えていたんだと、ここで初めて気づく。
「優しい風さん、貴方なら、愛する人に届けられますか。・・・・・・。」
少しリリアンの歌詞をつぶやく。
一人で悩んでも仕方がない。
みんなが僕のために、一歩を踏み出してくれたように、僕も応えたくてはと思う。
ウィンター家の別荘に戻り、夕食の支度をする。
夕食の支度といっても、リリアンの料理を手伝うこと。本当に彼女の料理は、とても美味しい。
今日の夕食は、年越しということで、とても豪華だった。
脂ののった、大きなチキン。僕の大好きな魚料理をリリアンがアレンジしたソースで、さらにおいしく仕上げた、焼き魚の料理。
野菜のサラダに、スープ。そのほかいろいろ。
僕は緊張しながら料理を食べる。
「なんか、緊張していない?大丈夫?」
リリアンが僕の食べ方を見ると、話しかけてきた。
「大丈夫。少し考えていただけ。」
僕はリリアンの目をそらす。
きっと、僕以外のここにいるメンバーは、誰と付き合うか気になっているんだよな。とても怖い。
しかしながら、リリアンの料理には何かの魔法があるのだろうか。美味しさは全て何もかも忘れさせてしまうような感じだ。
やがて、料理を全て食べ終え、みんなで食器を洗い、団らんの時を迎える。
これから、新しい一年に向かってのカウントダウンが始まる。
「改めて、みんな、一年お疲れさまでした!!」
ミランダはみんなをねぎらうかのように、声をかける。
みんなはそれに応じて、拍手をする。
「来年も、みんなで、頑張りましょう。目指すは、魔道武術大会優勝で行きましょう!!」
ミランダの言葉に、みんなはさらに盛り上がる。
今年は準優勝。初めての大会で嬉しかったが、同時に悔しかった戦いでもある。
うん、頑張ろう、大好きなみんなと一緒に。
そうこうしているうちに、外の様子があわただしくなる。
といっても、僕たちはその様子を丘の上の別荘から見ているだけ。
「ここにいた方がいいよ。いろいろと見やすいんだ。」
ルカが僕たちに向かって言った。
確かに、今、街に出れば、かなり人ごみに紛れて危ないのだろう。
特に八重をこの国の女王を一人にはさせられない。
そろそろカウントダウンが始まる。
「それじゃあ、行くよ。」
ルカの掛け声にみんな緊張してきた。
「10、9、8、7、6」
「「「5、4、3、2、1」」」
ピュー!!ドーン!!
別荘の窓から一斉に花火が打ちあがるのが見える。
「「「ハッピーニューイヤー!!」」」
みんなで声をそろえて新年をお祝いした。
別荘の中は拍手で盛り上がる。
花火はしばらく続く。
「みんな、今年もよろしくね。」
僕は、みんなに笑顔で言った。
「はい。よろしく!!」
「よろしく、翔太朗君。」
「ご主人様、いい一年になりますように・・・・・。」
僕たちは、全員の顔を見つめる。
そして、みんなが、深呼吸する。
「ところで、翔太朗様。」
ミランダの声の元、みんなが、僕の方へ向かって進んでくる。
「どうですか。思いは決まりましたか。」
ついに来たか、という感じになる。
誰と付き合うか。どうするか。いよいよ決断の時。
「実は、みんなで翔太朗君と二人きりの時間を全員過ごすという取り決めをしていたんだよ。さあ、翔太朗君、このウィンター家の別荘、ウィンター地方に来て、誰と一番楽しく過ごせたのかな?」
ルカが僕の方を見る。
みんな真剣な表情だ。
「僕は・・・・・・・。」
言葉が出ない。みんなのことが好き。だけれどすぐに決められるわけがない。
いっそのこと全員と付き合うことが出来たらいいのにと思ってしまう。
「僕は、ごめん。正直、まだわからない・・・・・・・。みんなのことは好きだけど、急ぎたくない。むしろ。」
僕は黙ってしまう。思えば那ノ国にいたころは八重以外の全員が敵だった。
いじめられるのは当たり前だった。
人を好きになる。そんなの無理だと思っていた。
ここにいる、全員、全てに特別な感情がある。
「人を好きになることが分からない。こんな特別な感情。僕は、初めて、だから・・・・・・。」
僕は、少し涙ぐむ。
「だから・・・。今すぐ一人を決めるだなんて・・・・。」
全てを言い終えると、シロンとユキナが駆け寄ってきた。
「それでこそご主人様です。こうなることはわかっていたのかもしれません。」
シロンが優しく、抱いてくれる。こういうところは、素直だ。
「私もです。ごめんなさい。ご主人様。急かしてしまいました。」
ユキナも僕を抱きしめてくれた。
「翔太朗君に負けたね。」
ルカは降参という感じだった。
「そうですね。翔太朗様。ごめんなさい。ただ、私たちの気持ちを知ってほしくて。」
ミランダは僕に向かって、微笑む。
「ありがとう。やっぱり、みんな、こうして思いを告げてくれなかったら、僕は何もなかったのかもしれない。」
僕は、素直な気持ちで言った。
確かにそうかもしれない、みんな、こうして言ってくれたから、僕も気づくことができた。
謝るのは僕の方かもしれない、みんな、僕に気付いてほしくて、この冬期休暇中も、それ以前も、いろいろなことをたくさんしてくれたのに・・・・。
「ふふふ。時間をかけていいのですよ。翔太朗様。私たちはまだ、たくさん一緒に居られる時間がありますから。」
ミランダは笑う。
「そうだ、翔太朗殿は決して一人にはさせない。約束しよう。」
カミラさんが堂々と言う。なんだか頼もしく見える。
「と、言うことで、翔太朗君はこれからも、私たちの誰かと、2人きりになる時間を持ってもらいます。」
リリアンが提案するように言った。
「そして、翔太朗君が誰かに決めるまで、私たち全員、翔太朗君の彼女ということにしましょう!!」
リリアンが僕に向かってウィンクする。
「それしか方法ありませんね。私も、一緒に居ますね。翔太朗君。」
マリアが僕に言った。
みんな、僕を一人にさせない。そんな気持ちが伝わってきた。
「みんな、ありがとう。そして、今まで、みんなの気持ちに気付かず、ごめんなさい。」
僕はそう言って、この時を乗り越えた。
彼女が一気に8人出来た、これからどうしよう。という感情ではなく、この緊張の時を乗り越えて安堵した気持ちの方が強かった。
この一年、再び大変なことに巻き込まれそうだが、みんなとともにいるのなら、頑張れる。
そんな気がしてきた。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
番外編はここまでとなります。次の章も頑張って冒険と恋愛を書いていきます。
次の章もどうぞ、よろしくお願いいたします。
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