#120.ドラゴンの笛
翌日も朝食を食べながら、一日を過ごしている。
ウィンター家の別荘は、何か時を忘れているかのようだが、元日の日まで時間がない。
みんなからの思いを告げられた僕。
それに返事をしなければならない。
しかし、僕には誰か一人を選ぶのはとてもじゃないが、容易ではなかった。
誰か一人を選べば、残りの人は傷つけてしまう。そんなことがあれば一体・・・・・。
誰かに相談しようと思えば、もう一人しかいなかった。
マリアだった。
この中にいる女性、唯一マリアだけ、僕に告白していなかった。
僕は、一目散にマリアのところへ向かう。
「マリア、あのさ、相談があるのだけど・・・・・・・。」
僕はマリアに話をしに行った。
彼女は、相変わらず、落ち着いている。
マリアは、ニコニコと微笑む。
「ふふふ。ちょうどよかった。私も、翔太朗君に話したいことがあったの。ついてきてくれる?」
とのことだったので、マリアは、読んでいた本を閉じる。
「いつも思うんだけど、難しい本を持っているね。」
僕は、マリアに言う。
難しそうな本どころではない、古い本だ。
「ドラゴンの母様からもらったのです。相当古い呪文集です。」
なるほど、古い魔法を使って、無双しているマリアの原動力がここにあるわけだ。
マリアは、微笑みながらその本をしまい、別荘の外に出た。
「私も、翔太朗君と同じで、こうして一人でいる時間が好きです。やっぱり。ドラゴンに育てられたからでしょうか。隠れ里で、1人でいると言いますか。」
マリアの気持ちはわからなくなかった。
僕も、こうして一人でいる時間の方が好きだ。
「この町にも、少し小さいですが、図書館があるのです。行ってみますか。」
そういいながら、マリアは僕の手を引っ張る。
断れないような雰囲気。
「もちろん、いいよ。」
僕の口からはそんな言葉が溢れたが、別に断りたかったわけでもない。
僕も行ってみたかった。
ウィンター地方の図書館は、もちろん、王都の図書館と比べると、半分以下の大きさだった。
しかし、この地方の文化の書物は、王都の図書館よりも多い。
「こうして、ウィンター地方の特産品、工芸の本を調べたかったのです。」
マリアは、僕に向かって言う。
しかし、彼女がとってきた本は随分と古い本。古典と言われるような書物だ。
「確かに、この地方には、いろいろな工芸品がたくさんあるね。やっぱり、歴史があるんだよね。」
僕はマリアに向かって一言。
「そうです。こうやって調べるの好きなんです。同じように、リリアンもこういうの好きそうですよね。だからすぐに仲良くなれたというのかな。」
なるほど、マリアとリリアンは確かに仲が良かった。こういう、書物を読んで魔法に落とし込む作業がよく似ている。
リリアンの方はアイドル活動をしていたが、それは好きでやっていたのだろう。
彼女の錬金術も、マリアの古い結界魔法も、母譲りだ。
亡くなっていようとも、人間ではないかもしれないが育ての親によく似る。
僕も、モナリオ家に似てくるかなと思う。
マリアの持ってきた本を開くと、案の定、僕では読めない文字が並んでいる。
この国の古典の文字なのだろう、
マリアにしてみれば、古い時代から生きているドラゴンに教えてもらったのだ、すらすらとこの本を理解しているようだ。
「古典の科目は得意だったりするのかな?」
僕は聞いてみる。
「はい。とても得意です。」
マリアは笑顔で答える。
そういえば、自分の学級のメンバーは、演習とホームルームの授業以外は、どんな授業を履修しているか、知らなかったな。
唯一、一緒に授業を受けている、リリアンくらいだろうか。
みんなの得意な科目を知っておかないとだな、と思った。
「それにしてもすごいな。」
「何が?」
僕は素直に感想を言う。マリアがそれを聞いてくる。
「こうして、昔の人が残した書物が伝承して、この地方の、工芸品を作っているということ。今の工房の職人さんもルーツをたどれば、この本の手技に行きつくんだよね。」
「わかるの?」
マリアは、驚いたように、僕の目を見る。
「わかるさ。まあ、書かれている文字はわからないけど。」
僕の答えに、マリアは少し微笑む。
「翔太朗君も一人の時間に、こういう本を読むの好きなんですね。」
マリアは笑う。
そうかもしれない。風ノ里に居たころは、本を読んで薬の調合を調べていた。
セントアリアに来たときの初めての船の中は、かなり本を読んでいた。
「そういえば、最近みんなといる時間が増えて、そういう時間が減ったなぁ。」
僕はマリアに向かって微笑みかける。
「そうですね。私も、そんな気がします。」
マリアも同じような顔で言った。
図書館を出ると、僕たちは、丘を一気に駆け上がり、白樺林を抜け、湖のほとりへやってきた。
この場所で、ルカとカミラさんから告白され、さらにシロンとユキナでこの湖の上を楽しく飛んだことが鮮明に覚えている。
「翔太朗君には初めて見せるかもしれないね。」
マリアは、一つの笛を取り出す。
横笛だろうか。何を呼ぶための笛ではなく、いろいろな音色が奏でられるように、穴がいくつか開いている。
「ドラゴンの笛です。」
僕は、驚く。もしかして、これを吹いたら、ドラゴンがやってくる・・・・・・。
「正確には、ドラゴンの角や、骨で作った、笛です。こうしてドラゴンは命を繋いでいくのだそうです。自分が死ぬとき、体の一部を形見だと思って。こうして。」
ああなるほど、そういうことか。
マリアは笛を吹いてみる。
その笛の音は、甲高く、オーケストラに使われるような楽器と同じような音色だった。
「一説には、これがこの間の舞踏会や、ファンファーレで使われた、楽器の元となったと言われています。古い時代の物なので、わかりませんが。」
確かに、古い時代であればあるほど、いろいろな説があるが、マリアの笛の音色は、それを象徴するかのようだった。きっと、この笛が、オーケストラの楽器のルーツであることを願いたい。
「そして、これを吹けるから、リリアンともさらに仲良くなっていったんだ。ピアノや歌と併せて。」
「はい。」
なるほど。確かに、リリアンと仲良くなるなと思う。
マリアは、ドラゴンの笛をさらに続けて、吹いた。
その音色は、かなり綺麗で、僕は魅了されていた。
マリアが笛を吹き終わる。
「素晴らしかったよ。こんな特技あったんだね。」
僕は、マリアに言った。
「はい。あまり皆さんの前では吹きませんし、この間の聖夜祭も、歌詞を作るための発表会で歌メインでしたから。」
笛の音色で、心が落ち着いたところで、相談したかったことを切り出そうとするが。
「翔太朗君。」
マリアが態度を改める。そういえば、今日は、マリアはやたらと敬語が多い。丁寧にしゃべっている。
「この笛の曲。ドラゴンたちに伝わる、愛の告白の歌なんです。」
「・・・・・・。」
僕はマリアの言葉に目が点になる。
愛の告白の歌・・・・・・・。
「翔太朗君は、私と境遇がとても似ています。私も小さいころ両親に捨てられ、こうして、ドラゴンに育てられて、今日まで生きてきました。翔太朗君と会ったとき、姫様の奪還任務の時、生まれた境遇を話してくれた時、私は、本当に同じだなあと思ってしまいました。だから、私は、貴方を好きになりました。」
マリアからの告白。
「・・・・・・・。」
僕は黙ってしまった。
「翔太朗君。」
マリアは僕の目を見てくる。
「弱ったなあ、相談て言うのは・・・・・・。」
僕は、今まで、マリア以外のすべての女の子から告白されたことを話してしまった。
マリアからの告白がまだだったので、唯一大丈夫そうなマリアに相談をしようと思ったら。
「相談の内容って、そのことだと思いました。」
マリアは、全てを知っていたかのような顔をする。
「翔太朗君が時間をかけてゆっくり決めてください。それは、許されるはずですから。」
マリアはそう言って、僕に微笑みかけてくる。
「さあ、戻りましょうか。翔太朗君。みんな待ってますよ。」
マリアはそう言って、僕の手を取り、ウィンター家の別荘まで、駆けて行った。
僕はとても悩んでしまった。
そう、これで、一緒にウィンター地方に旅行した、女性陣全員、つまり、僕の学級の女子生徒全員から告白を受けた。
だが悩んでいても前に進まなくてはならない。
<時間をかけて、ゆっくり決めてください。>か。そうだといいのに。そうであってほしいと願いながら、僕はウィンター家の別荘に戻っていった。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
マリアからの告白エピソードです。
これで、本当にクラス全員の女子から告白されたことになりましたね。
冒険も、恋愛もまだまだ続きます。
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