#118.幻の夜と聖なる朝
泊っている、部屋に戻り、少し深呼吸する。
ルカと、リリアンから告白された。
告白の返事をしなければならない。
僕の本当の気持ちは・・・・・・・・・。
そんなことを少し思いめぐらしながら少しぼーっとしていると、だんだんと日が暮れてきた。
夕食の支度が出来たと呼ばれ、僕はテーブルに着く。
リリアンがたくさん料理を作ってくれたそうだ。
あのクッキー作りの後、どうやら、1人で夕食の準備をしていたらしい。
彼女の料理。本当に、頭が上がらない。
こういうことが得意だから、帝国のアイドル時代は、帝国の料理番組に呼ばれていたのだとか。
「おいしい。流石リリアンね。」
ミランダは笑顔いっぱいでリリアンの料理を食べていく。
「はい。毎回驚かされてばかりです。」
八重もかつて、僕と一緒に料理をした時のことを思い出したのだろう。確かにあの時の僕と八重の料理に比べれば、段違いに美味しい。
「翔太朗君はどう?美味しい?」
リリアンが聞いてくる。
「えっ、も、もちろんだよ。」
僕は不意打ちに、少し困ったが、美味しいことを伝える。
「リアクションが薄いですね翔太朗様。」
ミランダが僕に言うが。
「別に、ちょっとね。」
僕はミランダに、言った。
何かを悟ったのかミランダはこれ以上は何も聞いてこなかった。
その他のメンバーも、何か暗黙の了解でもあるのだろうか、僕の表情が複雑なことはあまり、聞いてこなかった。
どうしよう。忘れようとして楽しもうとしても、リリアンの告白が頭から離れない。
その時間だけ時が止まっているような、そんな感覚だ。
夕食の片づけが終わり、僕は別荘の僕が泊っている部屋に入った。
少し落ち着いて、深呼吸する。
トントン。
「翔太朗様。失礼します。今、大丈夫ですか?」
ミランダの声。
僕は扉を開ける。
「こんばんは、ミラ様。」
「はい、こんばんは翔太朗様。」
ミランダは僕に向かって、微笑む。
「どうかしたの?」
僕は、彼女に聞く。
「少しお話がありまして。」
僕はミランダを部屋の中に入れて、扉を閉める。
ミランダをベッドに座らせる。その隣に僕が座る。
「あの、翔太朗様、御体調の方はいかがですか?」
ミランダがベッドの横に座って僕に聞いてくる。
「体調、いたって元気!!ほら、ほら!!」
僕は、ベッドから立って、ジャンプして見せる。
「何か怪しいです。やっぱり、今日の翔太朗様、何か変です。」
ミランダが、少しそっぽを向くと、改めて僕の方を向き直る。
そして、真剣な瞳で、僕を見る。
「何か隠し事をされているのではないですか?」
彼女は鋭かった。
「いや・・・・・・。特に・・・・・。何も・・・・・。ありません・・・・・。」
僕は、両手と首を同時に振りながら、
「やっぱり、何か隠し事をしてますね。よかったら話してみてはいかがですか。私でよければお話を聞きますよ。」
ドキッとする。話してもいいのだろうか。
しかし、ミランダに知られると後々、問題になるのでは・・・・・・。
この学級のこと、モナリオ家のこと、いろいろ。
「いや、別に、大丈夫・・・・・。です。」
僕はドキドキしていたが。
「大丈夫じゃないと思いますよ。こういう時、翔太朗様はため込んでしまいますから、一族で、ひどい扱いを受けてきたのでしょう。その時と同じで、ため込んでしまいますよ。私は信頼できませんか。」
ミランダは聞いてくる。
『私は信頼できませんか。』と。
いつもミランダが助けてくれたじゃないか。そうだ、ルカも、リリアンも女の子だ、女の子の気持ちを分かっているのは同じ女の子のミランダだ。
「あの、絶対に誰にも言わないと約束できますか?」
僕はミランダに聞いた。
「もちろん、約束しますよ。」
僕は、ミランダに、ルカとリリアンから告白されたことを話してしまった。
返事を返したいが、さすがに2人と付き合うことはできない、1人を選ばないといけない。
そうなってくると、どちらかを傷つけたり、この学級の活動に影響してくるのでは。
そんなことを話した。
「そうですか。よく話してくださいましたね。」
ミランダは、深呼吸する。
「まずは、ため込まず、話してくださった翔太朗様にご褒美をあげないとですね。」
ミランダはベッドから立ち上がる。
「ご褒美、いや。多分、贅沢な悩みなんだと思うだけど。」
僕はミランダに言うが。
「確かにそうかもしれませんが、それでも相手を思いやることのできる翔太朗様は立派です。翔太朗様、目を閉じていてください。」
ミランダに言われた通り、目を閉じた。
数分が経過しただろうか。
この数分がいつもより長かった。
やがて、ミランダの指が僕の前髪に触れる。
額に軽い感じのものが押し当てられる。
「目を開けていいですよ。」
僕は、目を開ける。
少し部屋が暗くなっている。おそらく彼女が明かりを消したのだろう。
夜のためか部屋は暗い。わずかな、常夜灯で明かりがついている。
しかし、それでも彼女、ミランダの姿は確認できる。
僕は、そこにいた、ミランダを見て、目を疑った。
ミランダの瞳を覗く。
「ふふふっ。額にキス、しちゃいました。」
ミランダが笑う。
その言葉にダブルパンチを食らったような気がした。
生まれたままの彼女がそこにいた。
服を全て脱ぎ捨て、生まれたままの、ミランダ=モナリオだった。
ミランダは女の子だった。僕にあるはずのものが・・・・・。ない。
彼女の胸にはリリアンやマリアほどではないが、こうしてみると、やはり小さな膨らみがあって。
「ふふふっ。」
彼女は小さくウィンク。そして、ゆっくり後ろを向いて、背中とお尻を見せる。
丸み帯びた彼女の綺麗な姿がそこにあった。
僕は、言葉が出なかった。
今すぐ、服を着るんだ、と、とても綺麗だよ。とどの言葉を発したらいいのかわからなかった。
それだけ、ミランダを信頼していたのかもしれない。
里や家族から追放されて、初めて巡り合った。優しく、思いやりのある彼女のことを。
ただただ、呼吸が、僕の息遣いだけが荒くなっている。
同じ年頃の、異性の裸を見たのが初めてだった。
再び、ミランダは正面を向いた。
そして、僕に近づき、両手で僕の頬に触れる。
「翔太朗様、私も、あなたが好きです。あの二人に、いいえ、あの二人よりも、この学級のメンバーよりも、世界中にいる、全ての人よりも、その気持ちは負けません!!」
ミランダはさらに顔を近づける。
「だから、その。私とずっと一緒に居てください。」
ミランダはもう一度、僕の額にキスをする。
凄すぎた。とにかく、凄すぎた。
体が、僕の体に何か、熱湯が流れているような。そんな感覚だった。
「そ、その、ありがとうございます。ミラ様。ミラ様の気持ちを伝えてくれて・・・・・・・。どうしよう。こんなのを見せられたら、ミラ様しか・・・・・・。」
ミランダは僕の手を持った。そして、そのまま、僕の指を彼女の、口元に当てる。
そして、同じように彼女の指が僕の口元に当たる。
「その気持ちだけで、今は嬉しいです。もっと悩んでいいのです。ルカを選んでも、リリアンを選んでも私は気にしません。学級の仲間ですし、今は八重様の近衛兵なのです。それはそれです。」
ミランダは僕に言った。
なぜか不思議なのは、次のステップを僕は知っているような気がした。
見たこともないし、聞いたこともない。だけれど知っている。僕の熱い欲望が何かを駆り立てるように。
だけど、ミランダの言葉、そして、指を口元に当てる動作が、それを静止してしまった。
「翔太朗様、誰と生きるか、誰と運命を共にするかは、貴方がこれから悩んで決めていいのです。遅くなってもいいのです。私は待ってますから。だから貴方の気持ちを、今の素直な気持ちを新年の最初の時に聞かせてくださいね。」
ミランダの言葉で、ようやく我に返った。
呼吸がゆっくりになっていく。
力が抜けて、ベッドに横になる。
「おやすみなさいませ。翔太朗様。素敵な、夢が見られますように・・・・・・。」
ミランダは横になった僕に、布団をかけてくれた。
彼女は、これ以上のステップを何もしてこなかった。優しさなのだろう。素っ裸なのだから、そのまま、できたはずなのに、僕の気持ちを汲んでくれていた。
「ありがとう。ミラ。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
僕は、なぜか涙であふれていた。
いつ寝たのだろうか、いつ夢を見たのだろうか。
いいや、夢なんて見なくてもいい。これ以上の夢があるだろうか。
ツンツン、ツンツン。
やがて、僕の頬が何かにつつかれる。
そのつつかれた何かで、僕は目を覚ました。
「ご主人様、おはようございます。」
「おはようございます。ご主人様。よく眠れましたか。」
目を覚ますとそこに居たのは、シロンと、ユキナだった。
しばらく時間が経過したようだ。
驚くほどよく眠っていたのだろう。昨日のミランダとの出来事から、悩みが多くなったが、それを忘れるくらい、体は休めていたようだ。
「おはよう、シロン、ユキナ、2人はどうしてここに。」
僕は眠い目をこすりながら、2人を見る。
「ミランダから、悩んでいるようだから、様子を見てこいと言われたのです。だからこうして、様子を見に来ました。」
シロンが言った。
「はい。ご主人様、きっとお疲れのようなのでしょう。」
ユキナが同情するかのように言う。
「こういう時はお散歩が一番です。行きますよ。」
シロンがそう言って、無理やりにでも部屋の外に連れ出そうとするので、僕は急いで服を着替えて、ウィンター家の別荘を出た。
まだあたりは暗いが、空の色は少し薄くなっていく。
「変身、解きますね。今日は私に乗ってくださいね。」
シロンが変身を解く。
同じように、ユキナも変身を解いて、ホワイトイーグルの姿になる。もう何百回と見てきた後継。
僕はシロンの背中に乗って、空に舞い上がる。
ウィンター地方の街並み、そして、昨日ルカとともに行った、白樺林の湖が小さく見える。
いや、正確にはその姿が、はっきり確認できるようにだんだんとなってきた。
「さあ、ご主人様、前方をご覧ください。」
シロンの言葉に僕は従い、前方を見る。
朝日が昇ってきた。
金色に輝く、希望の光だった。
「希望の光、希望の朝日とこの時期の日の出は私の中で思っています。まあ、初日の出はまだ来ていませんが。」
ユキナが言った。
「希望の光というと。」
僕は、ユキナに聞く。
「冬至を過ぎて、これから、少しづつではありますが、昼の時期が長くなっていきます。だから、希望の朝日なのです。」
なるほど、そういうことか。今は昼の時期は短いが、少なくとも冬至を過ぎている。
これから、昼が長くなっていく。希望だ。確かに希望だ。
カーン、カーンと鐘がなっている。
朝日の鐘だろうか。ウィンター地方のシンボル、時計塔から鐘が響く。
「素敵な鐘の音ですね。」
シロンが言った。
「はい、私も、心が、心が落ち着きます。」
ユキナが声をかける。
「ああ。素敵だね。ありがとう。シロン、ユキナ。」
僕は、今日も頑張れそうな、そんな気がしてきた。
「さて、それでは、町の方から、今度は湖の方へ引き返していきますよ。」
シロンとユキナは進路を反対にとり、湖の方へと引き返す。
前方に湖に面して、大きな木がある。
「あそこの木まで、行ってみましょう。」
ここら辺は針葉樹がメインで、その気もきっとその部類になるのだが、それでも大きな木だった。
大きな木の太い枝の部分にシロンとユキナは寄せた。
「ご主人様、降りて、この太い枝に移れますか?」
シロンがそう言ったので、僕は大きな木の、太い枝に、両足を移す。枝は、しっかりしているようで、僕の重さを余裕で耐えれそうだった。
しかし、そこは太い枝といっても冬の木だ。滑らないようにして、僕は枝に座った。
シロンとユキナも、人間の姿に変身して、僕の両隣に座る。
「冬の朝は綺麗なのです。特に雪が降っている場所では。」
ユキナが湖を指さす。そして、あたり一面の雪も指さす。
それと同時に、朝日の太陽が、湖の湖面に反射して、あたり一面がさらに光り輝く。
黄金色が一気に増した。
「すごく、綺麗。」
僕は、言葉にできなかった。
「ふふふ。空を飛べる魔物とそれを従魔契約できる人の特権ですね。」
シロンが笑う。
「そうだね。」
僕も微笑み返す。大きな木の上から、僕はそれを見ていた。
「「ご主人様。」」
シロンとユキナが改まったように、僕を見る。
「私たちからも話があります。ユキナから先にいいよ。」
シロンはユキナに向かって頷く。
ユキナは深く頷いて。
「ご主人様、本当は許されないのかもしれませんが、私はご主人様のことが好きになってしまいました。ホワイトイーグルではなく、人として見てほしいです。そして、私とも、お付き合いしてほしいです。」
ユキナは緊張するかのように、僕に向かって言った。
「私も、私も同じです。本当に、貴方と契約してよかった。貴方をご主人様をお呼びできて本当に良かった。大好きです。人間の学級の仲間がうらやましいです。私も人間の姿でいますから、私と付き合ってください。」
シロンも半分涙を浮かべながら、僕に言った。
二人からも、告白されてしまった。
どうしたらいいかわからない。すぐに昨日の出来事が頭をよぎる。
「あ、ありがとう。でも・・・・・・。」
僕は、どうしたらいいのかわからなかった。
「はい。わかっています。どんなことがあっても、一生、私のご主人様は貴方だけです。」
「私も、同じです。たとえ、ご主人様が、ほかの人と運命を共にするのであっても、私は、私たちは、ご主人様とその方と、そして、その家族を守っていきます。だから・・・・・・・。」
「「どうかこれからも、お傍に置いてください!!」」
シロンとユキナは、素直に思いを伝えてくれた。
「ありがとう、とっても嬉しい。勿論だよ。何があっても、2人は僕と契約をしたホワイトイーグルであり、僕のことを最初に受け入れてくれた、鷲、だよ。この先、空を飛ぶ魔物と契約することになるかもしれないし、シロンとユキナ以外の人と付き合うことになるかもしれない、でも、僕は2人がずっと僕の傍に居てほしいと思っているし、これからもそうだと思う。契約を解除するなんてありえないよ。」
僕はそう言った。不思議だった。彼女たちが、人間ではなく、ホワイトイーグルだからだろうか。初めて、素直な気持ちを言えた気がする。
二人にしては、人間としての自分の姿で付き合って、結婚したいと思っているのだろう。
そこはきちんと汲み取らなければならないが、素直に気持ちを伝えたことで、少し落ち着いた気がした。
「ご主人様、ありがとうございます。」
「嬉しいです。ご主人様。」
少しほっとした。
本当にありがたかった。
「どうかお願いです。せめて、この時間だけは。」
「私からもお願いします。この時間だけ、あともう少しだけ。」
シロンとユキナ二人が甘えてきたので、僕は両腕を片方ずつ、2人の背中に回す。
「いつもありがとうね。」
僕はそういうと。
「「はい。」」
二人はそれぞれ、僕にもたれかかってきた。
大きな木の上、誰にも邪魔されず、しばらくゆっくりその時を過ごした。
永遠にこの時が続けばいいのにと思ってしまう。
そんな時間も終わりを告げようとしたのが、やはりお腹の空き具合だった。
「お腹、減ってきてしまいました。悔しいですが。」
シロンが言う。
「はい。私も、そろそろ朝食の時間ですね。」
ユキナがさらに続く。
「そうだね。みんな待ってるし、戻ろうか。」
僕は、2人にそういって、再びウィンター家の離れに向かって、空に飛び立っていった。
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