#115.風のラブレター
聖夜祭当日を迎えた。
王都の広場には、溢れんばかりの人があふれており、特設ステージの出し物を今か今かと待ち構えていた。
その王都の広場に隣接する、冒険者ギルドの本部。今日は特設ステージに出演するアーティストたちの控室になっていた。
その控室の隅っこに僕たちはいた。
何だろう、出場者たちの熱気がこっちまで伝わってくる。
僕は出場しないのに、なぜか緊張している。魔道武術大会の時とはわけが違う。
こういった芸術は一発勝負なのだとひしひしと感じる。武術大会は失敗しても相手の動きを見て、技を出して立て直せるが、こういう歌や踊りは、失敗した箇所には戻れない。曲はずっと流れ続け、全ての見せ場が、1回きりの真剣勝負。
「リリアンは昔こんな場所にいたんだね。」
僕は、高鳴る胸に手を押さえ、自分がステージに上がるかのように、言った。
「ああ、本当に尊敬するよ。俺も旅芸人やこういった音楽家の人を何人も見てきたけれど、本番前の緊張感は、ずば抜けて半端ないね。」
アンソニーが言った。いろいろな所を商売で旅してきたからだろう。アーティストの迫力を感じられている。
「私のお母様も、そうだったのですね。記憶はないですが、旅芸人さんはこんな気持ちだったのかと思うと、尊敬します。」
八重は、覚えていない母の記憶を想った。
「きっと姫様のお母様も、リリアンのことを見守っていると思います。」
ルカは、八重に同情するかのように、優しく微笑む。
「そうだといいですね。」
八重は、ルカの一言で、少し涙ぐむ。
「ふふふっ。緊張は慣れてます。もっと多くの人の前で歌ってきたのですから。」
舞台の衣装に身を包んだリリアンはとても美しかった。
白を基調とするワンピースにピンクのリボン。肩を露出し、紐が肩にかかっている。
スカートも太もものところまでで、ハイソックスを吐いている。
「すごい。なんかドキドキする。とてもかわいい。そして、綺麗。」
僕は、リリアンを見て、言った。
「ありがとう。翔太朗君。」
「はあ。見とれちゃいましたね。まあ、いいですよ。今日はリリアン、あなたが主役なのですから。」
ミランダは、リリアンに向かって言った。
「はい。ミランダ。今日は私がいただきます。」
リリアンは彼女にウィンクする。
「いや~。しっかし驚いたよ。やっぱりお前、アイドルだったんだなぁ。」
今日は普段、ごつくてしっかりしている、ギルドマスターのベンジャミンさんもリリアンを見てニヤニヤ笑っている。
「とりあえず、下馬評ではお前が一位だぜ、リリアン。期待しているぞ!!」
ベンジャミンさんの言った通り、先の感謝祭で、魔道武術大会で全国中継されたからだろう。
リリアンが元アイドルであり、それゆえに、誘拐され助かった事実は、多くの人が知っていた。
元アイドル、そういえば魔道武術大会の時、あの班にかわいい子がいたよね。といううわさが広がり、下馬評で一位になった。
今回の聖夜祭のステージも、全国に中継される。そして、リリアンの希望で、帝国にも、中継されているので、誘拐事件で助けてくれた人々にも、放送されるということになる。
「帝国の方でも、リリアンの復帰に、盛り上がっているようだよ。」
ルカがリリアンに向かって言った。すでに多くの人がこの聖夜祭のステージを見に来ているようだ。
「では、皆さん、観客席で待っていてください。頑張ってきます!!」
リリアンはなぜか僕の方を向いてウィンクした。
「おう。頑張ってな!!」
アンソニーが手を振り叫んでいる。
「張り切り過ぎないでよね。」
ルカ、そしてマリアがリリアンに向かって、ハイタッチをする。
その様子を見て、僕も立ち去ろうとするが。
「翔太朗君。私の歌。・・・・・・。今日は・・・・・。歌詞にこだわったんだ・・・・・。歌詞に注目していて・・・。」
リリアンが一番緊張した声で僕の耳元にささやいた。今日いちばんに緊張していた。まるで僕にしかこの言葉が聞こえないように、小さな声で囁いた。
「うん。楽しんでおいで。待っているから。」
僕はリリアンに、そう言って、皆と一緒に観客席に向かった。
「そんなに緊張していなさそうでよかったね。」
観客席に向かう途中にルカが言った。
「むしろ楽しみの方が大きいと思う。彼女は、思いもよらない出来事で、ステージから引きずり降ろされたのだから。」
ルーベルトが冷静に分析する。
そうだ。彼女はアイドルをやめさせられたのだ。帝国の政治によって。
もう一度、好きなことができる。それはどんなにうれしいことなのだろう。
リリアンの歌をこの聖夜祭の、僕たちの班の出し物にして本当に良かった。
観客席は、熱気に包まれていた。
これから始まる、聖夜祭のステージ。かなり多くの観客が今か今かと待っている。
僕たちはその人ごみに飲まれていた。
大きなファンファーレと行進曲が響き渡る。
「お待たせいたしました。皆様。そして、本年も一年お疲れさまでした。セントアリアの本年最後のお祭り、聖夜祭。そして、そのメインイベント、特設ステージの開幕です!!皆様の投票で優勝者が決まります。今年の優勝者は誰の手に、そして、優勝できなくても様々な賞を獲得することができます。それでは、投票に使います、魔法の魔石について説明します。ステージに入られる際に皆様お持ちだと思います。」
魔石に魔力を込めると、今日の出場者がずらりと並んだ画面が表示され、いろいろな要素で投票できる仕組みだった。歌唱力の投票、お笑いの投票などなどがある。
ちなみに、魔石は、魔力が込められた石のことで、広く流通している。リモート映像が流れる水晶玉を小さくしたようなものだ。ちなみに映像が流れる水晶玉の材量もこの魔石らしい。この投票のように魔法を付与すれば、いろいろな魔法が使えるなど、様々な使い方があるようだ。
投票の説明が終わると、次は審査員の紹介が始まった。
優秀な旅芸人、作曲家、大サーカス団を束ねる団長など、各界の著名人や、今年活躍した、有名人の名前が呼ばれた。
ちなみに八重も審査員として呼ばれたらしいが、リリアンを応援したいということで、辞退したそうだ。
「それではさっそく初めて行きましょう。一組目はこの方々です。」
元気よく一組目のコンビが登場して、漫才を披露していく。
みんなは腹を抱えて笑っている。
ところどころセントアリアの文化を知らないと、わからないボケがあったので、ミランダが笑いながら解説をしてくれる。
その解説を聞きながら見てみると、とても面白い。
そんな感じで、あるものはこの組と同じように漫才を披露し、ある者は、サーカスのような曲芸を実施したり、自分の契約している魔物たちと、芸当を披露するなどしていた。
そうして、いよいよ。リリアンの番がやってきた。
「お待たせいたしました。この聖夜祭、おそらく優勝候補の1人でしょう。ブレゾラン帝国の人気アイドル、【ブレゾラン娘】の元メンバーにして、メンバー総選挙1位でセンターポジションになったこともあります。魔道武術大会で準優勝の成績も記憶に新しいでしょう。リリアン=ウォッカさんです。」
リリアンは盛大な拍手で迎える。
懐かしさを感じているような、和んでいるような。思い出しているような顔つきだった。
緊張もしていない。むしろもう一度ステージに立てることを感謝しているようだ。
ピアノの弾き語りを行い、予選で披露した、僕と八重が作った歌を披露していく。
予選以上に、透き通るような歌声、アイドルとしてのリリアン=ウォッカが復活したこの時だった。
「それでは、メドレーの最後の曲です。私が今、最も大切な人に贈ります。聞いてください。『風のラブレター』。」
リリアンのプログラムの最後の曲は、リリアン自身が作詞作曲した、『風のラブレター』だった。
ピアノの前奏が始まる。
そして。
「La La La~
ありがとう、ごめんね、あなたを愛していますと。
素直に言えない、本当の私が今ここに
本当は振り向いてほしいと願う私
この気持ちを風に乗せて、伝えられたらいいのに
風が優しい風があなたの元に届いてほしい・・・・。
優しい風さん、貴方なら、愛する人に届けられますか。
私の心の込めて描いた、ラブレターを。
風に乗せて、運んでください。・・・・・・・。」
純粋な女の子の歌詞だった。
歌い終わると、会場が大いに盛り上がった。
そして、中継で聞いていたブレゾラン帝国の人々も、リリアンの復活に歓喜の声をあげていたという。
「はあ。今日はリリアンの勝ちですわ。肝心の翔太朗様はこの歌の意味が分かっていないようですが。」
ミランダは僕の方を向いた。
「ん?歌の意味。純粋な女の子の気持ちだよね。好きな人が居て、告白したいという。」
「まあ、そうなんですけど・・・・・・。」
ミランダのやり取りに少し困った僕であったが、素直な気持ちの歌だったと心に染みた。
すべての組が終了し、投票になった。
開演時に説明された、魔石に魔力を込めて、投票する。いろいろな要素で投票できるが、もちろん、音楽という要素はリリアンに投票した。
「それでは、審査の結果が出ましたので今年の聖夜祭、入賞者を発表します。」
「まずは特別賞から、特別賞は・・・・・・・・・・。」
いろいろな賞があるようだ。特別賞、ピン芸人賞、サーカス大賞、企画賞。
そして。
「続きまして、最優秀歌唱賞~ベスト・ヴォーカリスト~の発表です。」
一瞬の沈黙、そして。
「今年の最優秀歌唱賞~ベスト・ヴォーカリスト~は、もちろんこの方、リリアン=ウォッカさんです。」
会場がワーッと盛り上がる。僕もいや僕たちもガッツポーズで、答えた。
さらにリリアンは、作詞賞も受賞することができ、会衆みんなが、リリアンの歌に酔いしれたのだと感じた。
「ではお待ちかね、今年の優勝~グランプリ~を発表します。今年のグランプリは・・・・・・・。」
呼ばれたのは、男性二人のダンスユニットだった。
「あのダンスは派手で、迫力がありましたものね。」
ミランダが感慨深そうに言った。
僕も見ていてそう思った、確かに派手で迫力のあるダンスだった。
「優勝こそは出来なかったが、作詞賞と、最優秀歌唱賞~ベスト・ヴォーカリスト~だ。音楽、特に歌でパフォーマンスをした人の中では1位ということだよ。」
ルーベルトの説明を聞いて、入賞したことはとても誇りに思っていいということだ。そう、リリアンはもう一度ステージに立てたんだ。
本当に、立派だった。本当に良かった。
ステージ終了後、僕たちはギルド本部に設置されている、控室に戻った。
「すごかったよ、リリアン!!」
僕は素直に、リリアンに握手を差し出した。
「ありがとう、翔太朗君。本当に、本当に嬉しかった。」
彼女は握手をするどころか、僕に駆け寄り、抱き着いてくる。彼女の手は一瞬にして、僕の背中に回っていた。
拒否する理由なんてない。本当に彼女は頑張ったのだから。
僕も素直に、リリアンの背中に手を回す。
「リリアン、今日はあなたの勝ちです。おめでとう!!」
ミランダは素直に、いろいろな意味で、負けを認めていた。
リリアンの目には涙があふれていた。嬉しいのか、悲しいのか、全てが報われた、そんな涙だった。
「優勝できなかったが、ベスト・ヴォーカリストは栄誉ある賞だ。本当に誇りに思うよ。」
ルーベルトは頷きながら言った。
「おう、すげーぜ。俺、聖夜祭の入賞者と知り合いになれた!!」
アンソニーも元気よく言った。
生まれも育ちもセントアリアの王都出身の二人の喜びようを見ると、いかにこの聖夜祭の入賞が栄誉あるものだということが僕も、そして、リリアンにも伝わってくる。
事実、彼女の持ち物には、銅版の賞状と、武術大会の時と匹敵する、いや、それ以上かもしれないような、記念品のトロフィーが存在した。
透き通ったガラス製のトロフィーには、『ベスト・ヴォーカリスト』と記載されていた。
「みんな、本当にありがとう!!」
リリアンは改めて、僕たちにお礼を言った。
彼女の目には大粒の涙がこぼれていた。そして、表情はやり遂げたような、笑顔がみなぎっていた。
これが本当のリリアン=ウォッカなのだろう。
僕たちは、力を取り戻したかのように輝く、彼女の瞳をしっかりと見届けた。
第7章はここまでです。
今回も、そして、この章も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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※歌詞が登場している部分がありますが、諸事情で、歌詞は今後若干改定することがあります。申し訳ありませんが、あらかじめ、ご了承ください。
翔太朗君の冒険はまだまだ続きます。次回も頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。




