#112.聖夜祭の準備
「おう、お帰りリリアン。」
ギルドマスターのベンジャミンさんに僕たちは迎えられる。
ブレゾラン帝国の一件からセントアリアに僕たちは帰ってきた。
ギルドで、リリアンを取り返したことを報告し、気分はかなり良かった。
「これで、リリアンの帝国関連の問題が解決したということもあるが、ゲラルドやギエルたちはいまだに逃走中なので、もうしばらく、モナリオ家の屋敷に居てもらうぞ。」
ベンジャミンさんの判断により、僕たちも頷く。
12月の半ばになっていた。セントアリアに来てから半年。いろいろなことがあった。
年の瀬が迫り、人々はこれからやってくる新しい一年に向けて、準備をしている。
本当に、いろいろなことがあった。
僕たちはいつも通りに魔道学院に登校した。
「おはよう翔太朗君、早速、僕が挙げたコートが役に立ってよかったよ。この国は冷えるだろう。」
ルーベルトが得意げになりながら僕に話しかける。
彼のいう通りだった。この国の冬は確かに寒い。
「確かに寒いよ。僕が居たところの方が、少し暖かい。」
僕はルーベルトに言った。
「ああ、でもまあ、王都はマシな方だな。北側に崖がある。それが冷たい北風から守ってくれる。」
確かにそうだ。体感温度は寒いが、風が吹かない。
風ノ里は名前の通り、この冬という時期、風がかなり押し寄せる日があるが、このセントアリアの王都はそのようなものはなさそうだ。
「みんなおはよう。先日は、八重の奪還。そして、リリアンの奪還任務と立て続けに、遠征任務お疲れ様。よって、今週の演習の授業は少し楽しいことをしようと思う。」
ピエール先生は、立て続けに遠征が続いた僕たちのために、何か休める企画を思いついたようだ。
先生の口元が笑っている。そして。
「聖夜祭の出し物を決めようと思う。勿論、校内での代表選考があるのだが、代表に選ばれれば、王都の広場に設置された、特設ステージで、出し物が披露できるぞ!!」
聖夜祭。なんか楽しそうだ。
「感謝祭の魔道武術大会のようなものなのかなぁ。」
僕はミランダに尋ねてみる。
「ああ、翔太朗様は初めてでしたね。そんな戦うような大会ではないのです。聖夜祭は歌とか踊とか、そういったものを王都の広場に設置される特設ステージで披露するのです。もちろんこれもセントアリア全国に特別中継されます。聖夜祭や新年を祝う期間は、みんなそれぞれの故郷に帰って、家族みんなでお祝いするのが一般的ですわね。まあ、物理的に故郷までの距離が近ければの話ですが。」
なるほどそういうことか。
「それならもう決まっていると思う、何をすればいいか。」
僕は、思いついたかのようにリリアンの方を見る。
みんなも僕に連れられて行くようにリリアンの方を見た。
「ああ。いいね。」
アンソニーが言う。みんなも頷く。
「何?何?あたしに何かついてる?」
リリアンは僕に尋ねるが。
「元アイドルということで、歌ってほしいなぁと。」
僕は言った。
「確かにそうですわ。リリアンの歌が聞きたいです。」
ミランダが言った。
「そうですよリリアン、半ば強引でアイドルの道を絶たれて、この国に亡命してきたのでしょう。ここはもう一度ステージに上がってもらって、悔いの残らないような演奏をしてほしいです。」
八重がお願いする。
「姫様まで・・・・・・。」
リリアンは少し戸惑う。
「私も、リリアンの歌、聞きたいです。」
マリアが後押しするかのように言った。
マリアの言葉に後押しされたのだろう。マリアとリリアンは仲がいい。
そして、僕たちと一緒に暮らすようになってからはミランダとも仲良くなっていった。
「わかった。みんな、ありがとう。精一杯、やってみる。」
リリアンは拳を握りしめて、決意表明した。
「「わーい」」
「「やったー!!」」
僕たちは拍手でリリアンの決意を称える。
「と、言ったものの、【ブレゾラン娘】の曲は使えないし、何の曲をやろうかなぁ。かといって、ありきたりなものだと、あまり受けないかもしれないし・・・・・・。」
リリアンは少し不安になる。
なるほど、確かにそうだ。もっとほかの参加者と差異化できるものがないと、特設ステージでの優勝はおろか、校内代表にも残らない。
「こういうのはどうだろう、アイドルを僕たちでプロデュースするというのは。」
「プロデュース?」
ルーベルトの提案に僕は目が点になる。プロデュースと言うと。
「つまり僕たちが曲を作るということだよ。歌詞を作って、曲を作る。」
ルーベルトの案に僕たちは目を開く。
「やったことないけれどできるかな・・・・・・。」
僕は少し不安になる。
「楽譜なら読めるし、書けるよ。お父様とお母様から習ったし、アイドルの時にも鍛えられた。」
リリアンが言った。
「それに、難しいことは楽譜に起こす作業だけであって、普通の鼻歌から曲は出来るのがほとんどだよ。歌詞を考えて口ずさめば私が楽譜にして、歌うから。」
リリアンはそれに続けるように言った。
なるほど、確かに、歌詞を書いて適当に歌をつけるのは難しくないのかもしれない。
「なんかやれそうな気がしてきたぞ!!」
アンソニーが元気よく言う。
「確かに、確か5分でできる曲もこうして、鼻歌で出来上がるはずだよね。それを楽譜に起こして。」
ミランダが言った。
なるほど、5分でできたと言っていた作曲家もこうして曲を作っていたわけだ。
「よし、じゃあ、次の演習の時間までに歌詞を書いてみよう!!」
僕はまとめの一言を言うと、みんなが賛成!!という言葉で返してくれた。
とは言ったものの。
何をどう書けばいいのか迷っている僕がここにいた。
「ご主人様、ひょっとして、リリアンの歌で迷っているのですか。」
シロンが、悩んでいる僕を見て、横から声をかけてくる。
「そうだね。一体どんな曲にしたらいいのかわかんなくなる。」
僕はシロンにありのままを話す。
「自分の気持ちを素直に書いてみればいいのですよ。きっと何か新しい発見がありますよ。」
シロンはそう言った。
「でもそれがね・・・・・・。」
「かなり難しいですね。鼻歌と歌詞をマッチさせないといけないですし、これが大衆に受けるかどうかも気になります。」
ユキナは言った。
「僕は曲なんて、5分でできないや~。」
僕は深くため息をつく。
「その作曲家もそういってますよ。曲自体は5分でできるけど、メロディーが浮かんでくるのは、自然とその時を待つしかないと。締め切りとか考えると、きっと浮かばないんだと思います。いっそ、私たちと一緒にお散歩しませんか。」
ユキナは僕に散歩の提案をしてきた。
「そうだね、ユキナ・・・・・・。」
僕はシロンとユキナとともに、散歩に出かけることにした。
散歩といっても。
「さあ、さあ。ご主人様。乗ってください。」
二人は、鷲の姿に戻し、二人のうちのどちらかの背中に乗るように指示される。
「ありがとう。」
シロンの背中、ユキナの背中、どちらに乗るか迷うが。散歩を提案してきたのはユキナの方だったので、ユキナの背中に乗った。
「ふふふ。ありがとうございます。」
ユキナは急に機嫌がよくなる。
「あ、ユキナずるい。ご主人様に何かしたわね。」
シロンが起こった口調になるが。
「まあまあ、そういうことなら、シロンの方も後で乗りたいな。」
僕は、シロンに向けていった。
「はい、ご主人様。是非是非、一緒に行きましょうね!!」
急にシロンが上機嫌になる。いつものことだ。
シロン、ユキナは翼を広げて飛び立っていく。
王都がだんだんと、小さくなる。おもちゃのジオラマみたいに。
「そういえば、こうしてゆっくり二人と出かけるのは初めてだね。こういう時に二人との息を合わせる修業のようなものもしたいね。」
そうだ。以外にも初めてだった。今まで、シロンとユキナの背中に乗るのは、何か目的があったり、ほかのメンバーと一緒に行動したりする時だった。それこそ人数が多い時は、ワシ之信も加割ったり、僕も変身して、誰かを乗せることが最近は多くなっていった。
「わーい。これからも一緒に居られますね。」
「はい。そうですね。」
シロンとユキナは頷いている。
上空は冬場ということもあり、山の高さまで、上昇はしていないが、とても寒い。
だが、冬場の方が、鮮明に景色が映る。
「すごい綺麗な景色。こうして、ゆっくり眺めるのもいつ以来だろうか。」
僕は、感情を漏らす。
「私もです。ご主人様と出会ってから、ご主人様をお守りしようと必死で。」
ユキナも黄昏ながら、僕と話をする。
「セントアリア、ううん。あたしたちが今まで飛んできた空から見た景色は、もっときれいなものがたくさんあるんですよ。ご主人様にだけ特別にもっと、もーっとお見せしたいです。」
シロンの目は魅力的だった。
「旅に出てみよう。苦しい時こそ旅に出よう。
広い空の彼方には、君の味方が待っている。」
思わず、口に出てきた。風ノ里に居たころ、僕の周りは敵だらけだった。それが空の彼方、海を越えたその先に僕を大切に思ってくれる人と出会った。感情を込めながら、大きな声を出した。
「旅に出てみよう。苦しい時こそ旅に出よう。
広い空の彼方には、君の味方が待っている。」
「いいですね。ご主人様。それが歌です。それが歌詞になります。」
ユキナは僕を褒めてくれる。
「重いアクセルを全開にして、一歩踏み出し。
走り出そう、風のように。
空の彼方を目指す。
さあみてごらん、空の色が変わってきただろう。君の好きな色の空に。
さあみてごらん、星が、君のことを必要とする、人々の星が輝くよ。
旅に出てみよう。苦しい時こそ旅に出よう。
広い空の彼方には、君の味方が待っている。」
「やったー!!」
シロンが宙返りしながら、曲の完成に喜んでいた。
「できた。5分とは言えないが、歌詞を考えられた。」
僕は、少し安心したかのように、涙を浮かべる。
「はい。素晴らしいと思います。」
ユキナは僕に向かって、笑っている。
「ありがとう、シロン、ユキナ。」
「はい。喜んでいただけて、何よりです。さあ、ご主人様、今の歌詞をきちんと紙に書いて、何度も歌えるように覚えましょう。私たちも手伝いますから。」
そうだ、こういうアイディアは忘れる場合もある。忘れずに紙に書いておくことにした。
演習の授業が楽しみになった。
こうして僕たちはモナリオ家の屋敷へと戻っていった。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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※最近、更新が遅くなりすみません。次の更新も遅くなるかもしれませんが、頑張って更新します。これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。




