#112.リリアンの薔薇
リリアンはご両親を目で追ったまま動かない。
しかし、ファンの声が下から届いたのだろうか。目元と、口元が緩む。
「みんな、ありがとう・・・・・。」
リリアンの言葉、それにつられる涙。
「お父様と、お母様をジュダから解放したい。」
リリアンはジュダに向かって、自分の錬金術で作った爆弾を一発投げる。
「おやおや、大歓声に押されて力が発揮できた。素晴らしいですな。」
ジュダはリリアンを見下すように言った。
「だが所詮はただの錬金術師。馬鹿な真似はよしなさい。お前もご両親の指示、つまり私の指示通りに動いてもらうまでですよ。」
ジュダの表情はにやけている。
僕は、一気にジュダとリリアンの両親のもとに迫る。
ジュダはさらに【スピリットブレーン】の力を強めて、両親をさらに苦しませているようだ。
「たわけ者ども、たとえ我々が逮捕されたからといって、現在の政権は残るのだよ。逮捕されて、パパっと解放されるまでだな。」
さっきまでのやり取りを見ていたゲラルドは大笑いしながら、こちらを見ている。
「ふふふ、何がどうあったって、お父様の力がある限り、あんな小娘に帰る場所なんてないのよ。時代の主役はこの私ですわ。」
ブルーナも微笑みながらこちらを見ている。そして、ゲラルドとブルーナの二人は、僕たちの目の前にジャンプして、現れた。
「残念だが、セントアリアの皆様にはここで死んでいただく。リリアンは我らの奴隷なのだ。」
「そういうことなので、皆、バイバーイ。」
ゲラルドが、仁王立ちをして言う。
そして、ブルーナも怪しげなウィンクをこちらに飛ばして、手を振りながら言っている。
「ふふふ。私もいますよ。さっきはよくも吹き飛ばしてくれましたね。弟よ。」
クリフに吹き飛ばされた衝撃はあったが、ギエルも加勢することになった。
ピンピンした佇まい。これはまずい。
「ご主人様、乗ってください。」
ユキナが翼を差し出す。
「翔太朗殿とユキナは、ジュダとリリアンのもとへ。いばらの道を一気に駆け上がるんだ!!」
カミラさんが僕に向かって言った。
「ここは私たちに任せて。」
ミランダもカミラさんに続いていう。
「ユキナ。ご主人様に何かあったら許さないんだからね。私も残って戦うわ。」
シロンは今回はユキナに任せるようだ。
「ごめんね、翔太朗君、遅くなってしまった。」
アンソニーが遅れて到着。
その後ろには、ルカ、マリアそして、クリフの姿も、ルーベルトが全員助けてくれた。
「わからないなら再度決着をつけるまでだ、兄上!!」
クリフもここで、ギエルと戦うことにテンションが上がっているようだ。
「さあ、翔太朗君、早くユキナと一緒に。」
アンソニーが言った。
「ご主人様、さあ!!」
ユキナは、翼を広げて僕に捕まるように指示した。
「ありがとう。ごめん。」
僕は頷き、ユキナに捕まる。
「逃がすか!!」
ゲラルドが僕を捕らえようと、魔法を唱えていくが、ユキナがそれをかわしてくれる。
僕はユキナとともに、ジュダ、そして、リリアンとリリアンのご両親のもとへ。
「翔太朗君。」
リリアンが僕の方を見る。
「翔太朗君、翔太朗君。」
僕の方を見て、そして、優しく僕を抱きしめる。リリアンの目には涙がある。
「大丈夫。大丈夫だよ。リリアン。」
僕の手はリリアンの背中に回している。
「怖かったね。大丈夫?」
僕はリリアンに聞く。
「とても怖かったよぅ。それに、お父様とお母様まで。」
「うん。うん。」
リリアンは少し震えているようだ。
それもそのはずだ。ジュダが恐ろしいことをしたのだから、いや、ギエル含めて、ゲラルド、ブルーナもだ。
ギエルに連れ去られたときから、彼女は震えていたのだろう。
リリアンは改めてジュダの方を向く。
「よくも、お父様とお母様を最後まで、そして、亡くなった後の今でも苦しめ続けてくれたわね。」
リリアンは、ジュダの方を睨む。
「ハハハ、今さら何を。さあ、こんな小僧から離れて、我々と一緒に来るのですよ。リリアン殿。」
ジュダは言った。
「そのためのご両親なのですから。」
ご両親は涙を流している。
「リリアン、その子は。あなたの敵ではないの?」
「リリアン、どうなんだ。」
リリアンの両親は、リリアンに向けて喋っている。
「そうよ。翔太朗君と、セディア魔道学院の仲間はかけがえのない友達なの!!親友なの!!そして、翔太朗君は・・・・・・・・。」
「ごちゃごちゃうるさいのですよ。早く始末しなさい。」
ジュダは、最大パワーで魔力を込めて、【スピリットブレーン】の威力を上げた。
再び、僕に攻撃をしてくる両親。
「よく言いましたね、リリアン。」
ユキナが言った。
「ユキナごめんね。私も・・・・・・。」
「はい。私たちはこれで、ライバルですね。でも。」
リリアンとユキナは、目には真剣な表情を浮かべているが、口元は笑っている。
「今は、一緒に国に帰りましょう!!」
ユキナはそう言って、僕の援護に入った。
リリアンの母親は、魔装具の攻撃を再びしてくる。
うん、かなり独特な武器だが、もう攻撃は慣れた。
風魔法の何かが出てこないだろうか。そうすれば僕も風魔法で対処できるのだが。
そう思っていた時、リリアンの母親は、長い槍に持ち替えた。
これまた魔力が思いっきり込められた、錬金術お手製の物だ。
「翔太朗君、あの槍は風魔法の付与があるの。風魔法の得意な翔太朗君なら防御しつつ、突破できるかも。」
リリアンの声が僕を後押しする。
「よし、『肉体強化~速さ~』」
風魔法には風魔法と速さ。一気に見極める。リリアンの錬金術を僕も一緒に見てきたのだ。
リリアンの母親は、槍を振り回すと、追加で、風魔法、『ウィンドカッター』が飛んできた。
僕は軌道を見抜きながらかわしていく。
『ウィンドカッター』は僕も使える。ある程度、軌道を予測することは可能だし。それなりに耐性もある。
短剣を取り出し、一気にリリアンの母親に切りつける。
母親はつかさず、槍で防御する。
それを見ていた父親はさらに、僕の足に、茨を絡みつかせて来る。
その時だった。
「「助けて・・・・・・。」」
何だ、この声。
「「助けて・・・・・・。」」
僕はハッとした、そうか。リリアンのご両親の声だった。
心の声を聞いた。なるほど。リリアンのご両親も、ジュダの魔法で苦しんでいることがようやくわかった。
行くぞ、僕は頭の中で考えを巡らせた。
『ウォーターサイクロン』風と水属性の複合魔法。水属性の魔法陣を炎属性に置き換える。
魔法陣が出現した。
「『ファイアーサイクロン』」魔法が発動した。通称、『炎の渦』は大きな炎の竜巻となって、リリアンの両親を包み込む。
これだけではまだ足りなくて。
僕は、さらに炎を出現させて、足元に絡んでいた茨を焼き払う。
そして、『炎の渦』は足元が茨だったからなのだろう。リリアンのご両親の真下の茨に火が付いた。
そして、そのいばらの炎は、リリアンのご両親の服に引火していった。
それを確認して、僕は、『炎の渦』の魔法を止めた。
「翔太朗君、どうして!!」
リリアンは僕に向かって、涙を流して、大きな声で、叫んでくる。
「お父様!!お母様!!」
リリアンが僕を無視して、両親の前に、向かってくるが、僕はリリアンを止めに入る。
このままだと彼女も炎に包まれてしまう。
「ごめんね。リリアン。こうするしかなかったんだ。」
僕は涙を流しながらリリアンを抱きしめた。
リリアンもわんわん泣いている。
「おのれ!!このクソガキなんてことをしてくれた。わ、吾輩の最高傑作をここまでコケにしてくれるなんて。」
ジュダが僕に向かって叫んでくる。
「すまない、リリアン、翔太朗君に、この指示を出したのは私だ。」
カミラさんが駆けつけてきた。
どうやら、ギエルたちの攻撃を潜り抜けて、援護に来てくれていた。
「すまないリリアン、この計画を思いついたのはこの僕なんだ。」
カミラさんと一緒にルーベルトも一緒にいた。
全員を助けてくれたようだ。
「【ライフリバイバル】と【スピリットブレーン】の発動条件、それは、死体がきれいに保存されていることなんだ。死体がきれいでないと、魂は寄ってこない。つまり、死体を、その人の肉体を失ってしまえば・・・・・・・・。」
カミラさんはリリアンに丁寧に説明した。
ルーベルトも一緒に説明する。
「ああ、この術は、何年も前に禁忌にされた術だ。まさか使える奴が現れるなんて思わなかったよ。さらに、悪い意味で利用してくる奴の手に渡っているなんてな。」
ルーベルトの言葉は全てを物語っている。
きっと、ジュダのように悪しきものが利用したため、禁忌になったのだろう。
「そう、だから、リリアンのご両親の魂が安らかになるように、この級長の、リーダーの、翔太朗君に計画とお願いをしたんだよ。遠慮はいらない、肉体を燃やして、魂を安らげるようにと。翔太朗君も最初はためらった。僕だって、助けたかった。だが、あまりにジュダの魔法が強大過ぎた。」
ルーベルトは泣きながら言った。僕は、珍しくルーベルトの涙を見ている。
「私もだ、すまなかった。これしかなかったんだ。」
カミラさんもリリアンに頭を下げた。
リリアンはただただ黙っている。
「「ありがとう。『鷲眼の術』の少年よ。」」
リリアンの両親は僕に向かってお礼を言った。
「あのジュダ、それにゲラルドは恐ろしい男たちだった。自ら権力を手にしたいと、大勢の人を手に掛けたのだ。私たちもそれに巻き込まれた。私たちのことはどうなってもよかった。ただ・・・・・。」
両親は涙を流す。
「リリアンだけは、リリアンだけは助かって欲しかった。」
両親の悲痛な叫び悲痛な祈りがひしひしと伝わってくる。
「無事に、セントアリアに逃げ延びることができた。そして、少年よ。そなたたちに出会ったのだ。」
両親は頷く。
「私たちのせいで、祖国を捨て、大好きだった、歌、大好きだったダンス。【ブレゾラン娘】を捨て、一からの錬金術は少々、つらかったと思う。しかし、『鷲眼の術』の少年よ。そなたと出会ってから、リリアンは生き生きしていた。本当に、本当にありがとう。そして、ゲラルドたちから、解放してくれた。本当に礼を言う。そして、すまなかった。魂となってしまった今、ジュダのあの術に従わざるを得なかったのだ。」
両親は涙を浮かべた。
「だが、こうして、肉体が燃え尽きようとしている今。ようやく、私達の魂は、ジュダの魔法から解放された。こうして、最後に話ができた。」
両親は深々と頭を下げた。
「リリアン、リリアン。」
両親が、リリアンを呼んでいる。
「うっ、うっ、お父様、お母様。」
リリアンは両親のもとへ駆け寄る。
「リリアン、あなたは私の私たちの、大切な娘よ。『鷲眼の術』の少年と、その仲間たちを大切にね。本当に、無事でよかった。生きて、生き抜いて。立派になってね。」
リリアンの母親は言った。
「リリアン、俺たちは、いつでもお前を見守っている。きっと、お前の力にいつでもなって見せる。」
「お父様、お母様。きっと、きっとよ。」
リリアンは涙を流しながら、両親の目を見つめた。
「さあ、あなたに最後のプレゼントをあげましょう。目を閉じなさい。」
リリアンは目を閉じる。
「魔法陣は思いついた?」
リリアンの母親がリリアンに問いかける。
リリアンは頷く。
「それは収納魔法の魔法陣。さっき私が使っていた魔法の武器と、いろいろな錬金術で作った道具、さらに、錬金術の本が入っています。リリアンに。そして、お仲間の方なら、さらに高い威力で使えるはずです。そして、必要がなさそうであれば、そちらの体格のいい、商人の息子のお仲間であればいい使い道を知っているかもしれませんね。」
リリアンの母親はアンソニーを指さした。
「お母様、そんな大切なものを。」
「いいのです、リリアン。大切に、私だと思って。」
リリアンは分った、と、頷く。
「さて、そろそろ時間のようだ。皆を茨から解放しよう。そして、ジュダたちを俺たちの力で、倒してあげよう。」
リリアンの父親はジュダに向かって魔法を使った。
「ええい、そんなこと、してなるもんですか。」
ジュダは、ギエル、それにゲラルド、ブルーナを呼び出し、一気に転送魔法を使い、逃げ出していった。」
その転送魔法を唱えた場所に、直後、父親の唱えた茨が突き刺さるところだった。
「すまない。取り逃がしたようだ。だが、リリアンはこれで、国に帰れる。最後に君たちを祝福しよう。この茨は実は回復魔法にもなるんだ。」
父親はさらに魔法を唱える。
本当に、本当に、最後の魔法だった。
「ありがとう、リリアン。」
「ああ、リリアン。幸せになりなさい。」
そういって、両親の魂は肉体を離れていった。
キラキラした、輝きがあたりに降り注ぐ。
「お父様、お母様ぁぁぁ。」
リリアンは泣き叫びながら、両親のその魂を見送り、その場にうずくまった。
「まずい。翔太朗君、リリアンを連れて。」
ルーベルトが言った。
ルーベルトの言葉でハッとした。足元の茨が細くなっている。
「皆様、お待たせしました。」
シロンが迎えに来る。
さっきまでギエルたちと戦っていた面々がシロンの背中に乗っていた。
「皆様、早く。」
ユキナも翼を広げて、皆を乗せる。
僕も、鷲に変身して、背中にリリアンを乗せる。
ほかの面々はシロンとユキナの背中に乗っていた。
僕たちが空に回避したからだろうか。
それを確認するかのように、茨はさらに細く、小さくなっていく。
僕たちは、茨の影響で、半壊していた洋館の前に降り立つ。
リリアンの両親のキラキラした魂があたりに降り注いでいる。
そして。
その小さくなった、茨から、いくつもの薔薇が咲いた。
赤、青、黄色、白。
いくつもの薔薇が僕たちの周りに咲き誇る。洋館がそして、洋館の庭が一つのローズガーデンになった。
いくつもの薔薇たちが、僕たちの傷を癒してくれているのが分かる。
「『ローズガーデン』」
リリアンがつぶやく。僕たちはリリアンの方を見る。
「『ローズガーデン』。お父様の、土魔法と回復魔法の複合魔法です。本当に見ているものを魅了するような魔法を使うことのできるお父様でした。」
リリアンが涙を拭いた。
「はい。本当に綺麗な魔法です。僕も使ってみたいです。」
クリフがリリアンの方を向いて言う。
「クリフさん、あなたも助けに来てくれてありがとうございました。」
リリアンはクリフに向かってお礼を言った。
「いえ。ですが、兄上がまた逃げてしまいました。」
「大丈夫さ。また追いかければいいんだ。それに、帝国の悪い連中ともつながっていたのだから。こいつらもまとめてとっちめるぞー。」
アンソニーはクリフの方をポンポンと叩き、笑っている。
「ああ、君も自分を追い詰めない方がいい。魔道武術大会で僕と戦っているとき、そして、今回の件といい、君はとても生き生きしていた。確かに、兄貴の、ギエルのことを思えばああなってしまうのもうなずけるが。君は君だ。僕は君を悪い奴だと思っていないよ。またよろしくな。ギエルの情報は出来る限り、目を光らせておこう。」
ルーベルトがクリフに向かって言った。
「はい、皆さん。無理を聞いてくださり、ありがとうございました。」
「こちらこそだよ。クリフ。本当にありがとう。おかげで、リリアンが無事でした。」
僕は、まとめの一言を言った。
「皆様、援護が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。今回の一件は皇帝、および首相に報告して、法務大臣と厚生大臣を罷免するように指示します。さらに、議員も辞職勧告を行い、即座に指名手配をいたします。なんせ、私たちの国にも悪影響を及ぼしている犯罪者、ギエル=ロドバンドと手を組み、リリアン嬢を監禁しようとしていたのですから、余罪もいくらか出てくると思います。」
帝国の兵士たちは、僕たちに向かって言った。
「「お帰り、リリアン。」」
「助けてあげられなくてごめん。」
帝国の兵士たちと、リリアン推しの人々は、ギエルたちに味方していた、兵士たちを全員捕えてくれていた。これだけでもありがたいのに。
「リリアン嬢は、どうですかな。あれだけのファンがいるのです。【ブレゾラン娘】に復帰しますかね。」
帝国の兵士が言った。
「ごめんなさい。」
リリアンは応える。
「私は、かけがえのない仲間。本当の仲間がいます。この帝国は故郷ですが、今はまだ戻れません。翔太朗君やみんなが宝物ですから。」
リリアンは僕たちと並び、笑顔で言った。
「そうですか。それは残念です。それでは、セントアリアの国境まで、お送りしましょう。」
「ええ、ありがとう。それに、歌はやめたわけではないです。また、皆さんに会えたら嬉しいです。」
リリアンはそう言って、僕たちの方を再び振り向いた。
「さあ、帰りましょう。本当に、助けてくれてありがとう。翔太朗君。それに。みんな・・・・・・。」
リリアンは笑っていた。さっきまでの涙が嘘のように。
「お父様、お母様、行ってきます。」
僕たちは歩き出していた。
きっとまた、ブレゾラン帝国に来る時があるのだろう。
その時はまた、この場所を訪れたい。リリアンのご両親が宿る。この場所を。
今回も最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。
更新が開いてしまい、申し訳ありません。
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