#106.リリアンの行方
マリアは魔法を集中させ、結界魔法で、リリアンの居場所を特定していく。
「おそらく、特定した場所に間違いなく、ギエルがいる可能性が高い。王都の冒険者ギルドにも応援を要請しておく。」
カミラさんはすぐに冒険者ギルドに書簡を出してくれた。
冒険者ギルドのフィオナゲート支部の人達も、ギエルが現れたこと、近衛兵を一人捕らえられたことに対して、血相を変えてすぐに、王都に知らせてくれるようだ。
「何はともあれ、八重様が無事で何よりだ。お守りするのが近衛兵の役目。」
「はい。ですが、リリアンが。」
八重は、カミラさんの言葉にリリアンの無事を祈るかのように返事をする。
「心配するな、リリアンは必ず救出する。近衛兵、我々はチームなのだから。」
カミラさんは八重の方に手を置いて、安心させる。
「そ、そうですよね。カミラさん・・・・・。」
八重はここで涙を、初めて涙を大量に流す。
「マリア、リリアンの居場所は。」
「大変。」
マリアの、大変というリアクションに僕たちはどうしたのだろうか、息を飲んだ。
「どうした?リリアンに何かあったのか?」
僕はマリアに問いかける。
「そうじゃなくて。一応結界魔法で、位置情報を受け取っているから、上手く結界が作動しているのだけど・・・・・・。居場所が・・・・・。」
マリアは不安になる。
「居場所が・・・・・・?」
僕はマリアの不安そうな顔にドキドキする。
「セントアリアじゃなくて、ブレゾラン帝国、というところに居るみたいで。」
マリアは、僕たちに言った。
「「「ブレゾラン帝国!!」」」
ブレゾラン帝国と言えばこの国の東側、山脈の向こう側に位置する国。
「すぐにでも助けに行きたいが、国を跨いでしまうと、いろいろと厄介だな。明日の朝、王都に戻ろう。そして、リリアン救出の策を考えよう。」
確かにそうだ、国を跨いでの捜索案件は、ギルドに依頼してもランクが跳ね上がる。
僕たちの国を跨いでブレゾラン帝国に行くことになる。
「なんで、ギエルの狙いはリリアンだったのでしょう。」
マリアは疑問を投げかける。
確かにそうだ。ギエルの狙いが八重なら頷ける。
この国の姫君だから。
「リリアンはブレゾラン帝国と関係あるのだろうか。」
僕は、ふとつぶやいてみる。
「もともと、リリアンって、ブレゾラン帝国の出身とかだったりするのかな?」
アンソニーが突拍子もないことを言ったが、僕たちは、ハッとなった。
特に、ミランダやルーベルト、カミラさん、ルカがその目の色を強く変えた。
「その可能性があるかもしれない。」
カミラさんが言った。
「ええ、確かに、セントアリアのことをあまり知らないような仕草が見えましたし、何よりも、最初にギエルとリリアンがあったとき、リリアンはギエルのことをあまり知らないような感じがしました。セントアリア国民なら誰もが知っている重要な犯罪者で、国際手配されているとはいえ、セントアリア国外の人達から見れば、ギエルなんて、遠い存在です。」
ミランダが言った。確かにそうだ。このセントアリアでも、ほかの国の犯罪者の指名手配犯のポスターはあまり見かけない。
ギエルや国内で指名手配中の人物のポスターは見かけることがあるのだが。
「それに何よりも、魔法武術大会も、その他セントアリアのイベントも、初めて体験するかのように接していましたし。」
ミランダは決定的な一言を付け加えた。
アンソニーの機転を利かした突拍子もないコメントで僕たちは事件の核心に触れていた気がした。
「アンソニー、ナイス!!」
僕は、アンソニーに親指を立ててポーズを見せた。
「ええ、とてもいいファインプレーです。」
ミランダもアンソニーに向かって、言った。
「いいや、だって、僕は感じたことを言ったまでだし。」
「ああ、その言葉がヒントになる、アンソニー、よくやったぞ。では、すぐにポール様に連絡して、リリアンの調査をしてもらおう。魔道学院の生徒のデータや、役所の資料からリリアンの調査を実施してみよう、この事件のきっかけがつかめるはずだ。」
カミラさんが、すぐに言った。
僕たちは今後の方針を立て、そのまま、フィオナゲートで宿を取り、翌朝、フィオナゲートの残りの視察を中止し、王都へと戻った。
ポールさんと、冒険者ギルドマスター、ベンジャミンさんにすぐに報告をした。
ポールさんはすぐに調査に当たってくれ、ベンジャミンさんは捜索依頼を出してくれた。
「お前たちも行くのだろう。ブレゾラン帝国。」
冒険者ギルド本部、ベンジャミンさんが僕たちに問いかける。
僕たちは二つ返事でうなずいた。
マリアの結界魔法の、探索機能があるうちにすぐにでも出発する予定だ。
そのため、ギルドからの捜索依頼の冒険者、王宮からの捜索隊も急ピッチで結成してくれている。
「気をつけろよ。あそこの人物、特に社会的地位がある程度保証されている人物が紛れ込んでいるとなると少々厄介だな。」
ベンジャミンさんが不安そうな顔をしていた。
「はい。」
僕は頷いた。
「お前は初めてだから、説明しておく。ブレゾラン帝国は、かなり危険なんだ。」
僕はベンジャミンさんの一言で、気が引き締まる。
「そんなに危険なんですか、戦争とか・・・・。」
「いいや、そんなんじゃねえ、普通に観光する程度、楽しむための旅行なら問題ない。国交や貿易も盛んにおこなわれている。ブレゾラン帝国は、この国と同じく、かなり綺麗な場所がたくさんあるからな。問題はこういう事件に巻き込まれたときに危険なんだ。」
ベンジャミンさんは、さらに続ける。
「ブレゾラン帝国の政治事情として、皇帝と宰相が頻繁に代わるのだという。10年間毎年のように、宰相が辞任、それに伴い、皇帝も交代、ということも一時期あった。」
ベンジャミンさんの話によると、ブレゾラン帝国は、最初は皇帝が実権を握っていたが。
徐々に独裁が目立ち、革命が起きて、大きな議会ができた。そして、議会を通して選ばれた宰相、つまり、首相によって、政治が運営されるのだが。
その首相の権力はすさまじく、以前の皇帝の実権の何倍とされている。国民が選んだ首相なのだから、そうなっている。
そして、その首相が皇帝を任命できる権力もある。
そこから、歴代首相の私利私欲にまみれた政治が始まった。新興財閥を結成して、お金を巻き上げては自分の懐に収めたり、軍を拡大して自分の親衛隊を作ったり、さらには法律を自分の都合のいいように変更したり。
皇帝もその首相によって任命し、即位したのだから、見て見ぬふりをするのがほとんどだという。
故に首相と皇帝交代後、新首相は前の首相のやり方を激しく非難し、悪事を明るみに出させ、前の首相と皇帝を牢獄に閉じ込めたり、最悪の場合、何者かに前首相と皇帝は暗殺されたりと、そういったことを繰り返している国だという。
だから、新首相の就任直後は国民の信頼が高く、次第に低くなっていくパターンが多いのだという。
「そうさ、だから。気をつけろと言うことだ。普通の盗賊集団に誘拐されたのなら、簡単だが、政治や経済にかかわる人物がこの一件に絡んでいるとなると、相手の裏の裏のそのまた裏をかかないと、お前たちまで狙われてしまう。」
ベンジャミンさんは僕に向かって言った。
「なるほど、確かに複雑な事情がありそうで、それぞれの人がそれぞれの利己的な欲望で動いていますね。」
僕は素直に感想を言った。
「そうさ、あの国で、一定以上のポジションにいる奴はみんな、腹の中に考えがある。それもかなりの私利私欲のな。」
僕は、皆の顔を見合わせた。
みんなも頷いている。
いざブレゾラン帝国に行って、こういう連中を相手にするのはかなり難しい。普通に戦えばいいという話ではなくなってくる。
僕は、リリアンがそれに該当する連中に絡まれていないことを祈っていた。
心のどこかで、祈っていた。
今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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