#105.セントアリアの視察
週末は八重とともにセントアリア王国の視察へと向かう。
何を隠そうこの国の女王たるもの、国の現状を知るためには、百聞は一見に如かず。
自分の目で確かめ、自分の目で民たちの心を知る。
これぞ、王家の常識。というわけだ。
当然ながら、近衛兵の僕たちも八重と一緒に視察任務に同行する。
といっても、週末は行けるところが限られてくるため、王都周辺もしくは、王都の視察を実施するのだが。
「まあ、長期休暇の時は僕たちのウィンター領も案内するよ。」
ルカが、言った。
「ウィンター領なら、いい工房、いい工芸品がありそうだな。」
アンソニーが言う。
「毎週旅行しているみたいで楽しいです。」
「ほんとだね。私もこうやって知らないことを知るのはすごく刺激的。」
マリア、リリアンが声をそろえる。
「あなたたち、私たちは近衛兵として、女王様の護衛として付いていくのよ。給金も王宮から支払われているのだから、もう少し旅行気分とかではなく。」
「そうだ、そうだぞ。お前たち、こういう視察任務には人件費が・・・・。」
さすがはミランダとルーベルト、王国貴族の二人はこの任務の重さがどれだけ重要なのかわかっているようだ。
「まあ、ミラ様。仰ることはまずわかりますが、まずは八重様に知っていただかないと、八重様にとっても、そしてこのメンバーにとってもいろいろと初めて行く場所が多いのですから、まずはメンバーで楽しむことも悪くないでしょう。というか、我々が、一生お守りする主君です。信頼関係を深める時期ですよ。」
カミラさんが、ミランダに話す。
「そ、そうですわね。ありがとう、カミラ。」
「お前たちも、ミラ様のいうことも一理ある。あまりはしゃぎすぎるなよ。八重様に何かあったら、責任は我々に来るのだからな。」
その言葉にマリアとリリアンはゾッとする。
「すみません。」
「気を付けます。」
確かにそうだ。八重に何かあれば責任は我々近衛兵にある。
近衛兵、随分と思いポジションをいただいたものだが、八重の、僕以外に信用できる人となると、この国にはそうそういない。むしろ那ノ国にもだ。
さて、今日の視察は王都からフィオナゲートまでの街道とその街道沿いの宿場町の視察。
といっても、長期休暇でもない限りは、王都付近の視察がほとんどなのだが。
「ここの街道はよく整備されていますね。」
「それは、利用者が一番多い街道になっていますから、観光客もやってきますし。船での貿易も盛んにおこなわれています。」
とりわけ問題がなさそうだが、八重は隅々まで視察している。
「ここの柵が壊れていますね。」
八重は一部壊れている柵に目を付けた。
確かに、放っておいてもいいが、怪我をしたら困るのだろう。
「怪我をしたら困りますので、直せないか聞いてもらえると嬉しいです。」
「承知しました。」
いい配慮である。流石、女王のための教育を受けているということなのだろう。
八重はこの国に来てからどんどん成長してきている。ありがたいことだ。
街道を視察しながら、一日かけて、フィオナゲートまでやってきた。
「よし、今日はここで宿を取る。明日一日は、フィオナゲートの視察で。視察後、翔太朗殿たちにお願いして、ホワイトイーグルの皆様に王都に送ってもらうことになっている。」
カミラさんが取り仕切ってくれる。宿をとるのも計画をしてくれるのもさすがはモナリオ家のメイド出身のカミラさんだ。カミラさんもメイド兼、近衛副隊長。
すっかり夕暮れだ。
「王女様、お前たち、こっちだ。フィオナゲートは西側に位置している港町だ、夕日を楽しんでもらう。その後、宿泊街にて自由行動としよう。」
僕たちはカミラさんに連れられて、夕日の眺められる場所へ。
海に沈む夕日はとても美しい。
「海が、赤く染まってます。」
「ああ、海沿いの国の醍醐味です。」
八重との会話は流石にカミラさんも敬語になる。だがどこかぎこちない。
本当に綺麗だ。
風ノ里は海沿いではなかったため、このような景色は初めてだ。
「翔太朗殿もどうだ。ここの景色は。」
「はい、とても最高です。」
「そうか。」
カミラさんの質問に素直に答える。
これぞ青春。という感じだ。
「翔太朗君、また行きたいね。」
「そうだね。」
八重の素直な問いかけに、僕は答える。
「私とも来ていただけませんか。」
「私も。」
「僕も。」
「私も。」
ミランダを筆頭に、マリア、ルカ、リリアンが僕に向かって言う。
「もちろんだよ。またみんなで行こう。」
僕はそういう風に答えるが。
彼女たちはそうじゃなくて・・・・。というような顔つきだ。
夕日が沈むのを確認して、今日宿泊する、宿を確認し、自由行動となった。
リリアンとマリアは八重を連れて、フィオナゲートのお店が並ぶ場所へと向かっていく。
「おい、お前たち、姫様をお守りするんだぞ!!」
「「はーい。」」
カミラさんの忠告に、女の子たちはどんどん先へ進んでいく。
「お二人は行かなくていいのですか。それにシロンとユキナ、ルカも。」
僕はミランダとカミラさん、シロンとユキナに問いかける。
「まあ、これは任務だから。こういう自由行動の時こそ、八重様は女の子たちと話すべきなのだろう。同世代の。マリア殿の結界魔法があれば少しは安全だ。それに私は近衛兵だけではなく、ミラ様の護衛も同時に行う身だ。」
「はい。私もご主人様の護衛をしまーす。」
「はい。ご主人様をお守りします。」
カミラと、シロン、ユキナは確かにそうだった。近衛兵だけではなく、僕たちの護衛も担当してくれるのだ。ありがたいことだ。
「私は、こういう自由行動の時は何よりも任務が優先。体を休めないと。」
「僕もだね。騎士たる者、任務と忠誠が何よりも大事。それにこの時間こそ、任務よりも親睦を優先する人達と一緒に姫様は一緒にいるべきだと思うよ。」
ルカとミランダはそう言って、ルカは宿に戻っていった。
「じゃ、翔太朗君。君も休むなり、トレーニングしたり、セントアリアの知らないことということで、ここら辺を散策してくるなりしてきなよ。」
ルカは、手を振りながら、僕に合図をして、宿に戻る。
「そういうことだ、翔太朗君。僕もゆっくり見物するとしよう。」
ルーベルトもそういって、ここを去っていった。
「おう、そういや母ちゃんにお使い頼まれてたんだ。じゃ、みんなまた後で。」
アンソニーもそういって、セントアリアのお店が立ち並ぶところへと消えていった。
「翔太朗様、折角です。私たちも姫様の後を追って、お店をたくさん見てみましょう。」
ミランダは僕の隣に歩み寄ってきた。僕の腕を引っ張り、そして僕と一緒に歩きだしていく。
「あ、ミランダずるい。私もご主人様と一緒に行く。」
「私もご主人様とお供します。」
シロンとユキナが僕のもう片方の隣を奪おうとする。
「お姉ちゃんずるい!!」
「何よ、ユキナだって、ご主人様にべったりくっつこうとするし。」
少しケンカになりそうだったので。
「こらこら。二人とも、ケンカするなら、一緒に僕の後ろを歩いて。」
「「はーい。」」
二人は渋々、僕の後ろへ回る。
ミランダは心の中でガッツポーズをした。
海の貿易拠点のフィオナゲートは色々なものがやはり出そろう。
「なんたって、昔の王都、いわゆる古都ですからね。翔太朗様のお好きなお魚料理もたくさんありますよ。」
そういいながら、僕とミランダはこのフィオナゲートのお店を散策すると、いい匂いがしてきた。
いい匂いのするお店は、鉄板の上に、ホタテ、牡蠣、アワビ、いろいろな貝が串焼きにされている。焼き貝だ。
「さすが翔太朗様ですね。早速魚介類のお店ですか。」
「そうだね。ミランダはどう。」
「あまり、こういったものは私は。食べ慣れていないので、ただ、ピザとかパスタに入れると美味しいですわね。」
なるほど、直接食べるのは苦手なのだという。
僕は、その串焼きにされた貝を購入する。
カミラさん、シロン、ユキナも食べたそうなので、彼女たちの分も購入して食べる。
「まあ、実家が漁師、海に面していたからな。こういったものはよく食べる。」
「私たちも海の上を飛行するときに、こういう貝はくちばしで、つついて、割って食べますよ。」
「おいしいですよね。ご主人様。」
確かにそうだ。カミラさんは生まれた環境。
シロンと、ユキナは確かに、鳥獣系の魔物でも鷲はなんでも食べる肉食というイメージが強い。
僕たちは焼き貝の屋台を楽しんだ。
ところ変わって、こちらは八重とマリア、それにリリアンのチーム。
彼女たちも、いろいろなお店を回っている。
「王女様は、那ノ国では何してたのですか?」
リリアンが聞いてくる。
「翔太朗君と同じです。ずっと一人で寂しく過ごしてました。でも同じ境遇の翔太朗君がいたから頑張れたと言いますか。」
八重は素直に言った。
「ふーん。翔太朗君とは仲が良かったのですね。」
リリアンは少し、ため息。
「マリアとも境遇が似ているよね。」
「そうですね。私も一人ぼっちでドラゴンに育てられました。こうして人間の人と話すのは初めてに近かったです。」
「そうなんだ。ドラゴンさんは優しかったのですか。」
八重はマリアに聞く。
「はい。大切なお母様です。」
「いいな。それ。」
八重は妹ばかりを溺愛する、両親で自分のことを相手にされていないようだった。
出戻り姉の娘で、実の娘ではない、というレッテルを貼られた毎日だった。
「まあ、女王様もきっといいことがありますよ。こうして今、元気そうですし。」
「はい。かけがえのない仲間に出会えたようでうれしいです。できれば、近衛兵の皆様には敬語とかもなく、普通に接したいと思っているのですが。翔太朗君のように。」
確かに、八重と翔太朗は、昔から仲が良く、八重がこの国の女王とは知らなかった時からの付き合いだ、今さら礼儀を改め、敬語に変える方が難しい。
「まあ、翔太朗君は女王様と知らなかった時期が長いですから。まあ、女王様が言うなら、私たちも頑張ります。えっと、八重さん。」
「はい、リリアン・・・さん。」
お互いの距離はまだまだ近くて遠い。
「これからのことを期待しましょう。せっかくそこに占い屋がありますね。やってみます?」
占い。魔法でもそういった術があって、この国でも人気だ。
トン吉はそう言った魔法から予言の術を編み出したのだ。
だが、魔法で占えても、占いも外れることはある。それが子どもの未来だったり、遠い将来であればあるほど外れる場合がある。
だから、全て鵜吞みにせず、参考までにというのが、魔道の国でも占いの鉄則だ。
「いらっしゃいませ。」
顔を黒い布で隠した男性定員がマリア、リリアン、八重の三人を見つめる。
「特別タダで占いましょう。この占いの魔術は私は始めたばっかりで。やってみようと思って始めたのですが。」
そういって、男性定員は魔法を唱える。
「うーん。これはかなり悪い。かなり悪いですね。中でお払いしましょうか。これも今回は特別タダで実施しましょう。」
そういって、男性店員に連れられ、店員の真後ろの建物、つまり簡易テントの中に誘導される。
「よかったですね。何か悪い霊か何かをお払いしてくれるって話ですね。」
「はい、これで皆さんとお近づきに慣れますね。翔太朗君以外の那ノ国の人達と縁を切ってくれればいいんですけど。」
八重は期待を膨らませる。そういえばトン吉さんもこういうことしていたっけな。
そう思いながら、八重は翔太朗の大叔父トン吉の姿を重ねながら、男性店員を見ていた。
「では、始めますね。」
店員は杖を振り回し、その杖は、リリアンの首もとで、止まった。そして。一気にリリアンをつかむ。
「お久しぶりですね。そして、先日はどうもお世話になりました。」
男性店員が布を取る。
覆っていた布の中から現れたのは、ギエル=ロドバンドその人の顔だった。
ギエル=ロドバンド、セントアリア王国の超重要指名手配犯である。
「さて、リリアン=ウォッカ様には私とともに来ていただきましょう。そして、先日の即位式で目立っていた女王様も一緒にね。」
「王女様、逃げてください。そして、翔太朗君に知らせて。ギエルが現れたって。」
八重はリリアンを助けようとしたが、リリアンの強い瞳の力によって、すぐに応援を頼むようにテントを出る。
「逃がしませんよ!!」
「はいっ。」
間一髪、テントから逃げる八重にマリアの結界魔法が施される。
間に合ったようだ。ギエルの魔法が無効化されていく。
「私が食い止める。」
マリアは、杖を構えて、ギエルと対峙するが。
「どうでしょうかね。リリアンさんの命はありませんよ。あなたが動くと。」
ギエルのこの言葉にマリアはどうすることもできなかった。
とにかく、リリアンを守らないと・・・・。
マリアは腕を背中に回し、その腕で、杖を必死に動かし、結界魔法をリリアンに施していく。
ギエルにバレないように。
今のマリアにはそれしかできなかった。
八重が僕のもとに血相を変えて走ってきた。
「翔太朗君、翔太朗君。大変、リリアンが、襲われて。その、ギエル何とかという人が現れて・・・・・。」
八重が僕を見つけてはしがみついてきた。
「助けて、翔太朗君。」
「「「ぎ、ギエルだって!!!!」
僕とミランダ、カミラさんとシロンとユキナは目の色が変わる。
「すぐに案内してくれ。」
カミラさんは八重に案内させるように頼んだ。
「シロン、ユキナ、みんなのところへ行って、知らせてきて。僕は先にミランダ達とギエルを倒しに行く。」
「「はい。ご主人様。」」
すぐに八重に案内で僕たちは走っていく。
「姫様に話していなかったが、ギエルという人物はこの国の重要指名手配犯だ。」
カミラさんが、ギエルについての話を走りながらする。
「そんな、マリアとリリアンは大丈夫でしょうか。」
八重は彼女たちを心配する。
「とにかく急ごう。」
僕たちはカミラさんの言葉にうなずく。
そして、ギエルの潜んでいるテントにたどり着いた。
「覚悟しろ、ギエル!!」
カミラさんの号令の下、テントに突入。
そこには、リリアンを人質に取った、ギエルがいた。
マリアも、リリアンの人質に動けないようだ。
「おっと、伝説の風魔導士と、伝統の侯爵家の方々がおそろいですか。これはたちが悪いですね。これで失礼しましょうか。今回の最低限の目的、リリアン=ウォッカは取り押さえたのですから。」
ギエルが魔法陣を発動する。
「まて、ギエル!!」
「リリアンを返せ!!」
カミラさんがギエルに対して突っ込んで攻撃を仕掛けるが、ギエルの方が早かった。
ギエルはリリアンを連れてこの場から消えていった。
「畜生、畜生、畜生!!」
僕は、うずくまりながら、地面をたたきつける。
「大丈夫です。翔太朗君。こんなこともあろうかと、リリアンには結界魔法を、かなり強力な結界魔法を施しています。一定の時間以内であれば魔法で、彼女の居場所もわかるようになっています。それをもとに、リリアンの居場所を探しましょう。」
マリアは僕にそういった。
「マリア、ナイス。」
ミランダがマリアを褒める。
「はい。ギエルを倒せなかったのは私にも責任があるから。」
マリアは自分を少し責めるが。
「そうやって自分を責めるな。こんな街の中で、攻撃魔法をバンバン打てば罪のない人も巻き込んでしまう。リリアンを人質に卑怯な奴だ。」
カミラさんが、ギエルが居た方向を見て睨んだ。
こうして僕たちは連れ去られたリリアンを探すため、ギエルを追うのだった。
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