冬の神様と、お休みの日
ことしも、冬のきせつがやってきました。
冬の神様は、毎日、毎日、おおいそがしです。
なぜなら、冬の神様は、冬の間に、たくさんの雪のもとを作って、お空の高い高いところまではこび、そこから、下の世界へと雪を降らせなければならないからです。とくに、高い高い山の上には、たくさんの雪を降らせ、いっぱい雪をつみ上げておかねばなりません。
雪は、春になって暖かくなると、少しずつ溶け、雪どけ水となって、草や木の新しい芽ぶきをたすけたり、森の動物たちの飲み水になったりします。高い高い山の上に、ちょっとしか、雪がなかったら、次の夏、水が足りなくなって、みんながこまってしまうでしょう。高い高い山の上にいっぱい雪をつみ上げるのは、水を貯金するみたいなものなのです。
「よしよし、ここからならば、雪をいっぱい、つみ上げられるな。」
冬の神様は、高い高い山のちょうど上の、お空の高い高いところにある雲のはしっこに立ち、下を見ながらいいました。
「そおれ。」
冬の神様は、はこんできた雪のもとを、ばらまきはじめました。雪のもとは、雲のはしっこから、つぎつぎと下の世界へおちていきます。そして、ゆっくり、小さな小さな雪の花に変わるのです。小さな小さな雪の花は、まるで、おどるようにくるりくるりとまわり、さながら、ワルツのように見えました。
冬の神様は、雲のすきまから、ワルツをおどりおえた雪の花たちが、じょうずに高い高い山の上に着地していくのを見守りました。
そんなわけで、くる日もくる日も、冬の神様は、いそがしくすごしていました。
しかし、毎日、毎日、おんなじことをくりかえしていると、冬の神様だって、つかれてしまいます。
「きょうは、いちにち、お休みにしよう。」
冬の神様は、ちょっとだけ、あそびに出かけることにしました。
「どこにいこうかな。」
冬の神様は、まっしろになった下の世界をながめて考えました。
「よし、森へ行ってみよう。」
冬の神様は、丸くてふわふわしたものが大好きなのです。森には、丸くてふわふわしたものがいたはずです。
冬の神様は、森のいりぐちまでやってきました。
「ここには、丸くてふわふわ、かわいいのが、いたはずなんだがな。」
森は、ゆうべの間に冬の神様がまいた雪で、まっしろになっていました。
「しまった。まっしろで、よく見えないじゃないか。」
森にすむ、丸くてふわふわしたものは、冬のきせつになると、まっしろな冬毛を着こんで、ふわんふわんのもこもこに変わります。そして、まわりの雪にまぎれて、かくれんぼをしてあそぶのです。
「わ~い、冬の神様が、おにのばん。」
ちょうど、かくれんぼのさいちゅうに、あらわれた冬の神様は、勝手に、おににされてしまいました。
「よ~し、見ておれ。みんな、見つけてやるからな。」
冬の神様は、まっしろなふわんふわんのもこもこたちを探しにかかりました。
「さぁ、どこから探すかな? おや、木の枝のところに何かいるぞ。」
木の枝の上でじっとうごかずにいたのは、ももんがのアッカムです。冬の神様は、息をひそめて、そ~っとうしろから近づきました。
「見つけたぞ!」
いきなり声をかけられて、アッカムはびっくりぎょうてん! おもわず、ばっと、てあしをひろげて飛び上がりました。ももんがは、てあしをひろげると、ちょうどマントをひろげたようになり、空中をすべるように飛ぶことができるのです。
「あ、ずるいぞ!」
冬の神様は、アッカムに文句をいいました。
「だって、見つからないっておもってたのに、うしろから来るんだもの。」
アッカムは、もういちど、冬の神様の方へむかって、飛んできました。
「次は、どこを探そうか? じめんのほうにも何かいるぞ。」
じめんにふせて、じっとしていたのは、のうさぎのイセポです。しかし、イセポはついつい、その長い耳をぴくぴくとうごかしてしまいました。
「見つけたぞ!」
イセポは、ほんのちょっと耳をうごかしてしまったせいで、冬の神様に見つかったことをくやしがりました。
「あぁ、もうちょっとだったのに。」
「いいぞ、このちょうしで、みんな見つけるからな。」
冬の神様は、楽しくなってきました。
「うん? 今、木の根の近くに、何かいたぞ。」
木の根のすきまにもぐりこんで、じっとしていたのは、おこじょのチロンです。
「見つけたぞ!」
チロンは、うしろ足で立ち上がり、こうさんのポーズをしてみせました。
「やっぱり、見つかっちゃった。」
「岩場のほうも、探してみよう。」
冬の神様は、雪がつもってまっしろにしか見えない岩場のほうへと目をこらしました。
「何にも見えないな。だれもいなかったか。」
冬の神様が、探すのをあきらめかけたその時、がさがさっと、岩場の近くのひくいしげみの上から、つもっていた雪がくずれておちました。
「あっ、つめたい!」
くずれおちた雪をかぶってしまった、まっしろなふわんふわんのもこもこは、つい、声を出してしまいました。
「そこにいたのか。見つけたぞ!」
それは、らいちょうのポリウでした。
「え~。こんなのってないや。ついてないな。」
冬の神様は、みんなを見つけることができて、だいまんぞく。
「きょうは、とってもいい日だった。あしたから、また、がんばって、雪をつもらせるぞ。」
そして、動物たちにいいました。
「おまえたちも、つかれたろう。おうちへお帰り。」
あくる日、動物たちが目をさますと、きのうあそんだ場所には、まあたらしい雪がつもり、みんなで付けたあしあとは、ぜんぶ、すっかりきえてしまっていました。
おしまい。