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4-5 ハッピーエンド

 それから数年の時が流れた。

 シェリーはオスカーの家を出て、街の一角に仕立屋を構えた。売れ行きは好調で、シェリーのドレスを着ると幸せになれる、と少女たちの間では評判になっている。

 こっそりと魔法を練り込んでいるのだから、効果は抜群なはずだ。


 毎日服を作った。そして時折、シェリーの母親のことを思った。

 彼女が魔女だったと、オスカーは言った。

 そしてシェリーを使い魔にしようとしていたのだと。だがそうはならなかった。シェリーには魔女の魔力を跳ね返す、魔法使いの力があったから。


 あの時アリスの後ろに見えた影。あれは父の亡霊だったという。娘を守ろうと、魂だけになっても側にいたのだ。女好きの浮気者だったが、娘のことは愛していたのだ。


 深紅の布を、シェリーは縫う。この色は昔から好きだった。瞳と同じ、赤。自分の魂と、同じ色を持っているからだ。


 昔から、シェリーの周りにはこの赤色が多かった。魔女は特定の色を好むから君の母親がその色が好きだったんだろう、とオスカーは言っていた。


 カラカラ、と店の扉が空く。いらっしゃい、と声をかけようとして止めた。入ってきたのがオスカーだったから。

 店の奥のシェリーを見つけると声をかけてくる。


「シェリー、僻地に魔女が現れた。一緒に行くぞ」


 だがシェリーは断る。


「いやよ。今日中にこれを仕上げておきたいの」


 彼に目を向けると、いつかプレゼントした赤いタイを着けていた。


「俺は君と行きたいんだ」

「口説いてるつもり?」

「うん、まあ、そういうつもり」


 笑うオスカーにシェリーも笑顔で応じる。


「言っておくけど、わたしは結婚なんてまっぴらごめんよ? だって世界中の人にわたしの作る服を着せたいって夢があるんだもの」

「いいさ――」


 オスカーはシェリーに歩み寄ると、口づけをひとつする。


「10年だって20年だって君がばばあになって俺がじじいになっても、だってずっと人生はつづくんだから。チャンスは巡ってくるだろう?」


 オスカーはシェリーを愛している。シェリーもオスカーが、嫌いではなかった。


 カラカラ、と再び扉が開かれる。入ってきたのはアリスだった。


「シェリー! また来ちゃったわ。注文をしたいのだけれど、いいかしら?」


 もちろんよ、とシェリーも応じる。アリスはいつの間にか敬語を使わなくなっていた。

 伯爵夫人として様になってきた彼女は、大きなお腹を抱えながら言う。


「赤ちゃんのお洋服なんて、できるかしら?」

「あら、できるかしら、なんて聞かないで? 当然、なんでも作れるわよ!」


 さすがシェリーね、なんてアリスは笑う。


「ノアはいないのか?」


 オスカーが周りを見渡しながら、アリスに尋ねた。


「街までは一緒に来たんだけど、用事があるって別行動よ」

「ノアはわたしのお店に寄りつかないわね。今度寄るように言っておいて? あ、そうだ」


 シェリーは店の奥に引っ込んで、そして手に包みを持って再び戻ってきた。


「彼にプレゼントよ。ハンカチなんだけど、良かったら」

「まあ、ありがとう! きっとノア様も喜ぶわ!」


 アリスはシェリーの体を抱きしめる。彼女の着る深紅のコートもシェリーが作った物だ。近頃、皆そうだった。どこかしらに赤いものを身につけていた。


 双子の姉妹は顔を見合わせて笑い合う。どちらの表情も明るく、幸せが浮かんでいる。


 シェリーの夢は叶った。

 アリスの夢も叶った。

 二人はこれからもずっと、幸福の中に生き続けるのだ。

二人の少女が笑い合い、舞台の幕は降りる。

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