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4-1 虐殺者の群れ

 ノアの従者は声高々に人々を煽る。


「魔女は領主様に取り憑いている! シェリーこそが魔女だ!」


「そんな」

「まさか」


 すでに深夜。

 集められた民衆はざわめく。


 従者の胸に熱く燃えるのは忠義心。それから、悪魔を野放しにしてはいけないという正義だ。


 偶然にも聞いてしまった、修道院でのシェリーとローラの恐ろしい話。

 シェリーはアリスと入れ替わっていた。

 本物の奥方は、あのご令嬢なのだ。そして領主が妻として迎え入れたのは、あろうことか――――魔女。


 許せない。

 従者はノアを敬愛していた。

 そのノアを騙し、全て奪い尽くそうとしている魔女、生かしてはおけない。


「魔女は奥方様と入れ替わり、この地を破滅に導くつもりだ!」


 人々は顔を見合わせる。不安そうだが、まだ領主の妻が魔女であると信じてはいない。

 だがもう一押しだ、と従者は思った。

 

 たった一人で魔女と向き合えば、必ず返り討ちにされる。だが、領民で結託すれば勝てる。魔女とて生物だ。殺せないはずはない。


 今日しかない。ノアはオスカーに誘い出され、留守だ。


 ノアはシェリーを愛している。だからこんな話は信じてはくれない。彼のいない今日が、絶好の魔女狩り日和だった。


「この地に蔓延る不作、疫病、おかしいと思わないか!? 今までこの地は平穏だった。それが近頃急にこれだ。全てあの、魔女のせいだ!」


 そうだ! という声が聞こえる。

 人々は奮い立つ。


「松明を燃やせ!」

「武器を持て!」

「我らの領主様を救い出すのだ!」

「魔女を!」

「魔女を殺せ!」



 * * *



 血みどろの店内になだれ込むように入ってきたのはノアの従者の一人だった。ノアとオスカーは驚きつつ彼女を見る。


 方々探し回りようやくここにたどり着いたらしく息は絶え絶え、血で染まった店内にぎょっとしたようだが、それよりも急を要するらしく、疑問を口にすることなく叫んだ。


「ノア様! どうしましょう! 大変なことに、大変なことに……!」

「なんだというのだ、そんなに慌てて」


 従者を落ち着かせるように声をかけると、彼女は今にも泣きそうに顔を歪める。


「奥方様が魔女だと、民衆達が屋敷に向かっています! このままでは、シェリー様が!」


 聞くと、修道院に行かせていた別の従者が、そこでとある話を聞いたらしい。


 令嬢シェリーと修道院の孤児アリスは入れ替わり、しかもアリスは魔女であった――。


 シェリーはそのまま、ノアの屋敷にアリスに会いに行き、聞いた従者は領民達を先導し、今、まさに魔女を殺さんと屋敷に向かって進行しているという。


「ですが私には、あのお優しい奥方様が魔女だとは信じられません! ノア様、どうか、どうか、奥方様のところへ行って、領民達の誤解を解いてくださいまし!」

 

 そう言って従者は泣き始めた。

 驚きと混乱のあまり、ノアは声すら出せない。


「なんてこった!」


 代わりに叫んだのはオスカーだった。


「まずい、非常にまずいぜ! シェリーが魔女に殺される……!」


 彼の顔には焦りが浮かぶ。そして血だらけのまま、単身外へと飛び出していってしまった。

 取り残されたノアも、慌てて馬車を拾う。


(シェリーが、シェリーではなく、魔女だと?)


 確かに、以前の印象と、結婚以後のシェリーは雰囲気が違っていた。まさか顔のよく似た他人とは。


(いや、魔女が成り代わろうと、顔を作ったのか?)


 妻が魔女? 

 いつも優しく微笑み、心癒やしてくれた愛する彼女が――?


(あり得ない。勘違いだ。全て、なにもかも……)


 会えば分かる。だからノアは帰る。

 急ぎ、妻の待つ家へと。

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