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PJ(パパ活女子)な私が、異世界転生で神パパになった理由。  作者: 炊多代
1章 パパ活女子、孤独な少女と出会う。
9/12




 ―――国の中心である城下町へ続く街道を中心に引き、挟まれる様にして北に入り組んだ森と反対側に広大な海を持つ交易都市ネクサス。


 今日も多種多様な国籍を持った人たちが行き交うこの町は、いつも通りの賑わい方をしていた。


 そんな町の一角にある服屋の前で、わたしとミズメは口論に興じている。


「ど、どうやってこんな大金を手に入れていたんですか⁉ この町に来て一時間も経ってないのに!」


 ミズメは、今まで一度も手にしたことのないほどの大金が入った袋を手に持ちながら、小さな身体を震わせている。


 金の数、銀貨がおよそ五〇枚。


 これはわたしが心優しいおじさんから貰ってきたものだ。


「いや、だから説明したじゃん。この町の開門を待っていたあの時に、列の近くにいた商人から貰ったんだよ。例の暗示魔法を掛けてみたら、気前良く渡してくれたんだ」


 そう言ってわたしは、成り上がり商人の顔を思い出す。


 その時は、この国の物価がどれくらいなのかわたしは知らなかったので、この銀貨がどれほどの価値を持っているのか分からなかったが、後でミズメに聞いてみたところ、日本円に換算して約五万円程だということが分かった。


 これを聞いて、それほど大金か………? と思ったのだが、ミズメが言うからには、この世界では大金なのだろう。


 わたしの金銭感覚は、パパ活のし過ぎで、周りとズレているのは何となく自覚しているし。


 ミズメが更に質問を続ける。


「暗示魔法………って、もしかして騙し取ったんですか⁉」


「いやいや、そんな人聞きの悪い言い方しないでよ。あくまで善意からくれたんだよ? ただ、わたしの事を魅力的な女性だと思い込んでいるだけで」


 と言うのも、からくりはこうだ。

 身なりが良い商人に『わたしはあなたにとって魅力的な女だ』と暗示をかけて雑談を仕掛けた。

 そうして、その会話の中でペースを掴めばこっちのもの。

 あとは長年のパパ活経験を活かして、わたしの事を貧乏で恵まれない女性だと思わせれば、相手は勝手にお金を差し出してくれる。


「催眠強盗とかしなかっただけマシでしょ」


「そういう問題じゃないです!」


 能天気な発言に声を荒げるミズメ。


「いーのいーの。ああいう金を貯め込んで使いもしない連中は、こうやって自分たちが正しい事をしていると思い込ませてやったほうが、精神衛生的にも良いんだから」


「………でも、これはどう繕っても暗示魔法を使った典型的な犯罪です。やっぱり、このお金は返した方が………」


 心優しいミズメはお金が入った袋を力強く握りしめ、本当にこの金を使ってもいいのか葛藤している。


「何言ってんの! そんなことする方がよっぽどたちが悪いって! さ、大切なのは使い道だよ。さ、服を買いに行こう!」


 わたしは明るくそう言い放つと、なかなか動き出そうとしないミズメの手を取りって、服屋の中へ入ろうとする。


 しかし、ミズメがなかなか歩き出そうとしてくれない。


「どうしたの?」


 わたしはミズメに振り向いて聞く。


「どうしたの? って………⁉ 私、こんな格好なんですよ⁉」


 ミズメは自分のボロボロな服を示す。


「なんだ、そんなこと………。大丈夫、わたしが何とかするから話を合わせてね」


「話を合わせるって………。ああもう! どうにでもなっちゃえ!」


 諦めてくれたミズメを引き連れ、ようやくわたしたちは店の中へ入る。




「いらっしゃいませー!」


 色とりどりな洋服が飾ってある店内に入ると、活気溢れる女性の声が響いた。

そのまま待っていると、その声の主が姿を現す。


「おお、これまた凄い恰好をしたお客さんですね! なにか訳ありですかな?」


 短く揃えられた茶髪が特徴的な彼女は、ミズメの姿を見るや否や、大仰な仕草をしながらそう言った。


 随分とフランクな店員だなと思いながら、わたしはここに来る旅の途中で、要領をだんだんと掴み始めている暗示魔法『化け狐』を発動する。この名前は、狐が良いと言うミズメにちなんでつけた。


「いや、実はこれ、『最新のファッションなんだ』」


 『化け狐』は正常に発動する。


「え、なに? お客さん、わたしの事を笑わせようとしてる?」


 しかし彼女には効果が一切現れず、新手のジョークだと処理された。


「え?」


 初めての事態に思わず面を食らう。

 それを見ていたミズメが、横から心配そうにわたしの名前を呼んだ。


「ちょ、ちょっとカオル。店員さんが困っています」


「あ、ああごめん。え、えっと………そうなんです! わたしのジョークはセンスが悪いって、友人によく言われるんですよ! ははは………」


 我に返ったわたしは、不用意に怪しまれないよう、急いで乾いた笑顔で取り繕う。


「なんだ、良かったぁ。からかわれてるのかと思いましたよ! さ、どんな服をお探しですか? うちは価格も様々だから、気に入ったものを見つけられろとハズですよ!」


 気を取り直した店員は、店の中をわたしたちに案内し始めてくれる。


(もしかして、女性相手には効かない………?)


 他の客が一人もいない店内を歩きながら、わたしはそんなことを考えた。

 確かに、今までこの『化け狐』を使ってきた相手は全員男だったので、その可能性は高い。


 やがて、レディースコーナーに辿り着くと、前を歩く彼女が足を止めた。


「サイズ的にも、ここらへんの服がいいんじゃないですかね? どうです、こんな服がお似合いだと思うんですけど」


 そう言うと、店員はセーラー服風のリボンが目立つワンピースを手に取って、わたしたちに見せてくれる。


 黒を基調としたデザインは、ミズメくらいの女の子には少々背伸びしている印象を受ける。


 わたしはうーん、と腕を組むが、隣のミズメはきらきらと目を輝かせながらその服を見つめていた。


「あれ、もしかしてもう決まった感じ?」


「はい! カオル、私これがいいです!」


 店員の持つ服を指さすミズメ。


「す、すごい判断力だね。他はどうする? 一枚じゃ足りないでしょ」


「じゃあ、これと同じものを二枚ください!」


 ミズメはさっきと同じ服を指さした。


「ええ⁉ 同じ服でいいの?」


「はい! これがいいんです!」


 予想以上に早く服が決まり、わたしは驚く。

 あわよくば、彼女を着せ替え人形にして楽しみたかったのだが致し方ない。


「ま、まあそんなに気に入ったんだったらいいけど………。あの、これ二着でいくらですか?」


「えーと、合計で銀貨四枚です!」


「じゃあ、これで………」


 ミズメからお金の入った袋を受け取り、わたしはほくほく顔の店員に銀貨四枚を手渡す。


「毎度あり! そうだ、お父さんも一緒に買ってみてはどうですか? 男性用の服も多く取り揃えていますよ!」


 銀貨を受け取る際に、たんまりと袋に入った銀貨を目撃した店員は、ここぞとばかりにわたしにも服を買うことを勧めてくる。


 お父さんと呼ばれて少し戸惑ったが、そう呼ばれるのは当然のことなので、すぐに落ち着きを取り戻して聞き返す。


「ここって試着室ありますか? 着て帰りたいんですけど」


「もちろんありますよ!」


「………じゃあ、わたしも買っていくかぁ」


「毎度ありぃ!」





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