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第10話 生きて欲しいと伝えました。

 気がつくと、私は一人別の場所にいた。

 石造りの建物で、部屋は真っ暗だ。

 【永遠の(コンティニュアル)灯火(ライト)】の呪文を唱え、壁に灯りを点した。


 周囲を見渡すと、肌着の少女……カリカの姿を見つける。

 彼女は仰向けに眠っていて胸の上で両腕を組んでいるように見えた。

 しかし、何かキラリと光るものがある。


「ん?」


 目をこらすと、両手には短剣が握られていた。

 今にも自らの胸を突き刺そうとしているようだ。


「カリカ? ちょっと、何をしているの!?」


 私はカリカの元へ走り出す。

 だめだ、間に合わない。


 そうだ!

 ヴァレリオが唱えた魔法。それを即座に思い出し、唱えた。


「【加速(ヘイスト)!】」


 時間が加速される感覚がある。

 ゆっくりと今にもカリカの胸に突き刺さろうとしている短剣。

 私は頭から床に滑り込み、カリカの左胸に突き刺さる前に、左手のひらで短剣を受け止めた。


 左手のひらを短剣が貫く感覚。

 次に伝わってくる焼けるように熱さ。


「カリカ、何をしているの!? カリカ!」

「……ロッセーラ様? ううん。ロッセーラ様は、もうとっくに殺され……た」


 あの夢……私たちが死んで倒れている夢を見ているというのだろうか?

 まずい。

 このままでは、あの夢のようにカリカの心が壊れてしまう。


 私は短剣を手のひらから引き抜き、投げ捨てた。

 左手は真っ赤に染まり、そこから流れ出る血が周囲の床に小さな赤い花を咲かせていく

 ――なんとかしなければ。

 必死にカリカのことを思うことで、痛みが引いていくように感じた。


「カリカ! カリカ! 目を覚まして!」


 カリカは声に反応したのか目をぼんやりと開ける。

 しかし、瞳に光はなく、何も映していない。


「ロッセーラ様……? 生きているのですか?」

「うん、大丈夫。私は元気」


 左手はじんじんと痛むし、血は止まらない。

 それでも、カリカを安心させようと、なんとか笑顔を作る。

 カリカの顔を見つめると、彼女の顔に私の血が付いた。

 右手の人差し指で、その血をぬぐう。

 すると、カリカの瞳に光が灯った。


「ロッセーラ様……ああ、ロッセーラさま。ご無事で……ご無事で何よりです」

「うん。カリカは平気? ひどい夢を見たのね。あんな悪夢のようなことは、もう起きないわ」

「よかった……本当に」

「うん。安心して。でも、どうしてカリカは死のうとしていたの?」


 カリカは(うなず)くと、事情を説明してくれた。

 概ね私が前に見た夢の通り。

 皆が死んでしまったのだと思い、絶望し、死のうとしたのだという。

 そして、大聖堂や学園で配られていたお菓子を配ったのは自分だったと話してくれた。

 何者かに操られ無意識に行っていて全部思い出したのだという。


「その、カリカを操っていたのが魔王なのね?」


 さっき私やレナートが対峙した悪魔の王。


「そいつを倒せば全部解決しそうね。今レナートが戦っているわ」

「確かに魔王を倒せば全部解決しそうですが……。レナート殿下は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫。彼は強いわ。必ず勝つ」

「随分信頼されているのですね」


 カリカの顔に笑顔が戻った。

 しかし、すぐにその笑顔が曇る。


「でも……私は……みんな、たくさんの人に、どんなに酷いことをしたか。それなのに、どうして生きているのか……この先も幸せが続くのか、分からなくなってしまっていました」


 せっかく宿ったと思ったカリカの瞳の光が薄らいでいく。

 彼女は、ずっと一人だった。

 強すぎる魔力のため両親ともうまくいかず、他人からは迫害される日々。


「それは……操られていただけでしょう? 大丈夫。私やレナートがなんとかするわ」

「ご迷惑をおかけするわけにはいきません。王国は私に極刑を言い渡すでしょう。私が責任をとって命を差し出せばいいと思います。処刑を受け入れます。せっかくロッセーラ様と会えて、素敵な方々と会えたのですが……結局こうやって……」


 カリカの視線が私の左手に向かった。


「ああ……そんな。ひどい怪我を……。ごめんなさい」

「すっかり忘れてたわ。【重傷治癒(ヒーリング)】!」


 しかし、魔法は発動しなかった。

 魔力切れだ。

 そこで私はカリカを抱きしめ、再度呪文を唱える。


「【集団重症治癒(マス・ヒーリング)】!」


 彼女から魔力の供給を受けたおかげで、魔法が無事発動する。

 いや、それどころか、なぜか全体魔法になって発動してしまった。

 左手の痛みが、すっと溶けていく。

 カリカの肌に見えた擦り傷も消えていく。


「ロッセーラ様、今のは?」

「わかんない。何だろう? でも、カリカありがとう。おかげで治ったわ」


 私はカリカから離れようとした。

 しかし、カリカが抱き締め返してきていて、離れてくれない。


「あたたかいし柔らかくて……素敵な香りがします」


 うっ。なんだか照れるというかドキドキするようなことを言うわね。


「ほら、もう大丈夫。生きてさえいれば、なんとでもなるわ」


 私は身体を離して、カリカの瞳を見つめる。


「それに、呪文が発動したのはカリカの魔力のおかげよ」

「でも、このままでは……私は罪を問われ処刑され——」

「絶対にそんなことさせない。もし、王国がそう考えているなら……私はカリカと一緒に王国に抵抗するわ。私のあらゆる呪文とあなたの無限の魔力があれば、きっと無敵よ!」

「ロッセーラさま」

「私を、ううん。『()()を処刑しようなんて、いい度胸だ!』そう言ってあげましょう」

「……ふふっ。それ、なんか魔王っぽいですね」

「そ、そう?」


 魔王時代に、私が実際に言った台詞なんだけどね。

 でも、まあ……カリカの笑顔が見れたことだし、これでいいかと思うことにした。


「私はね、カリカ。貴女に生きて欲しい。楽しく、過ごして欲しい。私は、あなたの気持ちが分かるから」

「ロッセーラ様……」


 抵抗が難しければ、カリカと二人でこの国から逃げてもいいかもしれない。

 その時に……レナートは付いてきてくれるだろうか?

 ……難しいだろうな。

 ヴァレリオを巻き込むわけにいかないし。

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