閑話 それぞれの戦い 2 —— ロレット・アリシア ——
今回はアリシア視点(ロッセーラの元配下)になります。
「ロレット、そっち!」
「了解! アリシア!」
ロレットとアリシアは、操られた学園の生徒と悪魔相手に戦っていた。
二人とも接近戦を主体とした戦い方をしている。
ただ、アリシアは圧倒的な心身掌握魔法の力を持っているし、多少戦闘の心得がある。
令嬢とは思えぬ体術で、レッサーデーモンを屠っていく。
一方のロレットは、体力に乏しい生徒の相手をしていた。
魔法学園に入学する生徒のほとんどは、前に出て戦う職種ではないためひ弱だ。
多少なりとも剣術の心得があるロレットは、手刀による打撃を加えることで無力化されることに気づき、次々と生徒達を倒していた。
「さて、来たわよ」
ロレットがアリシアの視線を追うと、そこにはエンリィの姿があった。
その後ろには操っていると思われる下級悪魔が控えている。
エンリィの瞳は濁り、表情も虚ろだ。
生気が感じられない。
悪魔に思考と魔力を奪われ続けているのだ。
「ああ。エンリィ…………クソっ」
「ちょっと。しっかりしてよ。他の生徒のように軽くのしてしまえばいいじゃない」
「嫌だ」
アリシアは元サッキュバスだ。
そういう意味では、考え方は悪魔に近い。
基本的に利己的であり、人間を見下すことが多い。
クラスは最近その考えを改めつつあるが、アリシアはまだその域に到達していない。
なぜ、他人なら打撃を与えて気絶させられるのに恋人ならできないのか。
おそらく操られている間の記憶は無いだろうし、攻撃した事実は黙っていればいい。
これがやっかいな恋感情というやつか。
理論的な判断を鈍らせるものか。
アリシアは厄介なものだと思うものの、自分も同じだなと考え直した。
「ほら、早く。あんたが攻撃しないのなら、アタシがするわ」
「それもだめだ」
「だーーどうしろっていうのよ!」
概ね、二人の共闘により生徒達は片付きつつあった。
アリシアは思案を巡らす。
「見なさい。エンリィが倒れた仲間を復活させている。彼女をまず先に倒すべきよ」
「しかし……」
「あなた、男でしょう? このまま奴らの思い通りにさせて、彼女が無事に済むわけ無いでしょう!? できるだけ早く止めるべきよ」
この際仕方ないと、僅かに魅了の魔法をロレットに使うアリシア。
「——そうだな。わかった」
アリシアの声に、ロレットは決意を固めていた。
魅了の魔法は必要なかったのだ。
ロレットは意を決してエンリィに向かう。
そして、手のひらでエンリィの胸を打った。
「やればできるじゃない!」
しかしよろめくものの、エンリィは倒れない。
下級悪魔の掌握の力が勝っている。
「そんな……もう一度!」
さらに強く、胸を打つロレット。
ミシッという嫌な音と共に、彼女の力が抜け、ロレットに倒れかかった。
「くそったれ!」
「えっ?」
ロレットは、エンリィの肋骨が折れたような手応えを感じていた。
さらに、エンリィの胸が赤く染まる。
下級悪魔がエンリィの身体を貫いたのだ。
同時にごぼっと彼女の口元から血が流れ出る。
「……そんな!?」
事故だった。
まさか、下級悪魔が宿主に怪我をさせるとは。
ロレットの思考が止まる。
すかさず動きを止めたロレットを庇うようにアリシアが割って入った。
素早く下級悪魔をしとめ振り返る。
ロレットは気絶したエンリィを抱えて、治癒の呪文を唱えていた。
彼女の白くなっていた顔色が、少し良くなる。
「まあ、後は任せなさい……その子についていてあげなさい」
「……」
ロレットは返事をしなかった。
抵抗する悪魔や生徒はあと僅かだ。
なんとかしてみましょうとアリシアは思った。
そしてアリシアは祈る。
何故か瞳に涙を浮かべて。
早く、ロッセーラ様、お願いします……。
エンリィは……もう長くありません。
はやく、全てを終わらせて戻って来てください……。
次回より本編ロッセーラ視点に戻ります。




