第4話 一人では行かせません。
「——先日大聖堂に行ったとき、カリカ様の姿を見ました。そして、レナート殿下とお嬢様は、そこで悪魔に襲われました」
「う……うん、でも、カリカは知らないと……」
「その言葉は真実なのでしょうか? あの場所にいた、聖堂の関係者は皆白い服を身につけていました。最初に出会った朽ちた建物、仕立て屋、そして大聖堂。そのどれもが、白い服と悪魔、カリカ様とでつながっています」
いやいやいや、どれも偶然だろう。
そう思いたいけど、もう一人の自分が否定する。
一回、二回……偶然ならあり得る。
でも、三回というのは、さすがに偶然として片付けるのは厳しい。
「そして数日前、お嬢様が気を失う直前に召し上がられたお菓子。あれはカリカ様が準備されたものだそうです」
「それが……? たまたま私の調子がおかしかっただけじゃないかしら?」
「レナート殿下にお聞きしましたが、大聖堂で配られていたお菓子と同じようなものだそうです」
マヤのその声に、わずかに棘を感じた。
「まさか……?」
「お菓子には、何らかの魔法的な効果があるものが含まれていたそうです。そのせいでお嬢様が……」
マヤの手が震えている。
確かに、大聖堂で配られていたものは何か嫌な感じがした。
「お菓子は、王城の魔術師にどのような魔法的な効果があるのか調べて貰っています。かなりの生徒に出回っており、食べてしまったようですが、今のところ影響が出たのは、ロッセだけのようです」
レナートが、腕を組んで言った。
ん?
「私だけ?」
「もしかしたら、聖女と判定された貴女だけが、何かしらの影響を受けるものだったら、どうでしょう?」
「そんな……」
「お嬢様、これだけの事が繋がると、魔王でなくても、それに近い存在であると疑わざるを得ません」
レナートが頷く。
「確かに、全ての事象がカリカさんが魔王や魔王に近い者だと示している。そうだとすると、いくつか納得できる点があります。王都に陰を落とす何者かの悪意……しかも、悪魔と関連している。または魔王と……」
「それは何?」
「ヴァレリオの誘拐事件の時の現場にあった魔方陣は、魔王の部下となる強力な悪魔を召喚しようとしていたのではないでしょうか? 大男は、記憶を消された上で、操られていたとしたら?」
「た、確かに……」
結果的に私の血が魔方陣に付着したため、縁のある悪魔グラズが召喚されたのかもしれない。
本当は、王族の生贄から悪魔を召喚しようとした。
王族の生贄を用いて魔王の部下となるような強力な悪魔を召喚しようとしていた……。
カリカが……まさか?
私の脳裏には、花が開くように微笑むカリカが浮かんでくる。
優しくて可愛らしい彼女が……そんな……?
夢の様子では、悪しき者に騙されていたように思う。
もし関係があったとしても被害者なのでは?
しかし、夢が根拠というのはあまりに説得力がない。
そもそも、あの夢は私が見た妄想なのだとしたら?
事実だとしても、あの悪しき声がカリカの内側にあるものだとしたら?
信じたくないけど、私が知っているカリカは、全て演技によるものだったとしたら?
「カリカ様の部屋に行ってみませんか? そこに、何か手がかりがあるかもしれません。彼女がいるなら、何か知っているのかと問い詰めるべきだと思います」
「うむ。今から私が向かおう」
レナートは早速、ドアの方に向くと歩き出そうとしていた。
ダメだ。
彼一人を行かせてはダメだ。
レナートがもし行ったら……。
王国を何より先に考える彼なら、カリカが魔王との何らかの関係を持っているなら、彼女の命を奪うことに躊躇しないだろう。
そうで無くても、酷いことをすることに迷わない。
カリカにどんな事情があっても、聞く耳を持たないかもしれない。
それは、ダメだ。
「私も行く」
「お嬢様……まだお体が」
「大丈夫、大丈夫よ。レナート、着替えるから待ってて」
「あ、ああ」
「絶対に一人で行かないで。約束して」
私は、彼の目を見つめて言った。
「そんな怖い顔をしなくてもいいだろう? 分かった。約束しよう」
レナートが頷いて、小指を差し出してくる。
私はその指に、私の小指を絡ませる。
なんとなく、一人では危険だからという理由に思われているような気がするけど、そうではない。
一人で行かせると、カリカに何をするか分からないからだ。
「あの、お二人のそれは何ですか?」
マヤが不思議そうな面持ちで絡まっている小指を見た。
「ふふ、内緒」
私は、マヤにちょっと得意げに言った。
レナートの顔が気持ち赤く見える。
すぐにカリカの自室に向かおうと思う。
私はマヤの手を借り、震える手で外出用の服に着替えたのだった。
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