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第3話 否定できません。

 マヤのいつになく真剣な顔に、私は身の引き締まる思いがした。

 彼女の話によると、レナートとヴァレリオは、日が暮れる頃になると毎日、この部屋に来ていたらしい。


 少し待っていると、部屋のドアが開く。

 そこから顔を出したのは、レナートだ。


「ロッセ。目を覚ましたのですね。その、よかった」

「う、うん」


 レナートは私の顔は見ているけど、目は見つめてくれない。

 それに気付き、私も目を逸らした。


「あの、ヴァレリオは?」

「弟は、少しバタバタしていて、まだ城にいる。少し遅れて来るだろう」

「そっか」


 相変わらず無茶をしていないのか、少し心配だ。

 レナートは、たいしたことではないと言っているので大丈夫なのだろうけど。


「では、これから私からお二人にお話があります」

「ふむ、その前に……ロッセ、いいかな?」


 マヤを遮るようにして、レナートが言った。


「うん、何?」

「正式に、ヴァレリオと君との婚約を破棄することが決まってしまった」

「え……」

「まあ、このことは、ヴァレリオから詳しく話を聞いてくれ。私が言うのも気が引けるが……彼を責めないでやって欲しい。ヴァレリオは回避しようと必死に抵抗したが、騎士団と、その裏にいた私の兄——王太子殿下が許さなかったのだ」


 沈黙の時間が過ぎる。

 覚悟していたから、あまり大きな衝撃はなかった。

 婚約破棄そのものより、ヴァレリオが心配でならない。


「そ、そう……ヴァレリオは平気なの」

「ああ。大丈夫だ。本当に虫がいい話だと思うが、彼の力になってやってくれないか。王国側の私にこんなこと言う資格はないが」

「ううん、ありがとう。わかった」


 辛そうな彼を見て心が痛んだ。

 このことは、ヴァレリオに会って話を聞いてからちゃんと考えよう。

 頭をマヤの話そうとしていることに切り替える。



「それで、話というのは? マヤさん」

「はい」


 マヤは、レナートと私に向かって意を決したように話を始めた。


「私は、レナート殿下とお嬢さまの話、私が見聞きした状況から推測して、魔王かそれに準じる者が分かったような気がしています」

「ふむ……」


 レナートがマヤの顔を見つめる。

 一度目を伏せたあと、再び顔を上げ彼女は口を開いた。


「それは……。それは、カリカ様、だと思っています」

「えっ?」


 私とレナートが同時に声を上げた。

 そんな、まさか?

 夢で見た光景も、何者かにそそのかされている様子から、カリカは被害者だと思っていたのだけど……?


「いやいや、そんなはずは……。まさか、カリカが」

「マヤさんは確信しているようですね。なぜでしょう?」


 マヤに詰め寄る私とレナート。

 彼女は一息つくと、落ち着いた声で話し始めた。


「お嬢さま。まず、最初に出会われた時を思い出してください。あの、朽ちた建物に、なぜカリカ様がいたのでしょう?」

「それは、あの白装束の者達に浚われたから」

「なぜ、カリカ様を、カリカ様()()を、浚う必要があったのでしょう?」


 つまり、マヤはカリカだけがあそこにいたのは不自然だというのだ。

 誘拐であるなら他にも被害者がいてもいいのではないか、と。


「それに、カリカ様は拘束されていたわけでもないのでしょう?」

「そういえば……うん」


 確かに、腕や足を縛られてはいなかった。


「あの白装束の者達、ヴァレリオ殿下を誘拐しようとした二人の内一人はカリカ様だと私は思っています」

「っ!」


 ヴァレリオは、二人組に浚われた。

 内一人は、最奥の大きな魔方陣が床に描かれていた部屋にいたのだが、もう一人は見つからなかった。

 それがカリカであるとすると、辻褄が合う。


「だからといって、カリカが魔王などと……」

「他にもあります。眠り病は魔王の仕業だとされています。カリカさんは、仕立て屋さんの、コリノさんのところにで働いていましたよね?」

「う、うん。そうだけど」

「彼の奥さんが眠り病にかかり、そして、仕立てのお店には、白い服がありました」


 そうなのだ。

 確かに、私がアロエの令嬢などと呼ばれるようになったきっかけの、眠り病の調査。

 あのレッサーデーモンが現れた仕立て屋に、カリカが勤めていた。

 全てが繋がってくる。


「まだ他にもあります——」


 マヤはあくまで冷静に、静かに話し続ける。

 それは、多分、私のことを思いやってのことなのだろう。

 おかげで、私は落ち着いて話を聞くことができる。

 否定できない事実におののきながら。

お読みいただきありがとうございます。

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