第1話 友人らとお茶を楽しみます。
※投稿後、しばらく待ってからテスト的に改題します。
旧タイトル:魔王、乙女ゲームの悪役令嬢に転生す 〜 私を処刑しようとはいい度胸だ 〜
新タイトル:バレてはいけない悪役令嬢~正体を隠さないと破滅が待っているので乙女ゲームの記憶を頼りに元勇者と協力します!~
数日後。
相変わらずレナートやヴァレリオは姿を見せない。
私が寂しそうな顔をしていたためか、エンリィとロレットに誘われた。
講義が終わった後、彼らとお茶を飲むことに。
私達は学園の食堂でテーブルを囲む。
食堂は百人くらいが席に着けるくらいでかなり広い。
ここは夜まで開いているし、とても広い。
「改めて、ロッセーラ様。私を眠り病から救って頂き、ありがとうございました」
そう言って彼女は、少し目を伏せた。
前もお礼を言われたし、何度も言われると少し照れくさいな。
「いいえ、私は何もしてないわ。レナート主導で王家側が動いた結果でしょう?」
「でも、王家を動かしたのもロッセーラ様だと聞いております。貴女がいなかったら、今頃私は……どうなっていたか」
エンリィはそう言って顔を曇らす。
「いや、やっぱりあれはレナートの——」
「ロッセーラ様。そんなに謙遜されなくてもいいではありませんか。私の推しでもありますので、是非胸を張って……尊いものを見せて頂ければ」
ん? 推し? なんか理解しがたい言葉が出たような?
エンリィはぱっと顔を明るくする。
「俺……私からも、お礼を言わせてください。どうしても目を覚まさぬ彼女に、私は絶望していた。貴女はエンリィだけでなく、私をも救ってくれました」
彼はややぎこちなく私に微笑みかけてくれた。
私は照れ隠しでえへへと言いつつお茶を頂く。
午後のひとときはゆっくり流れていく……はずだったのだが。
見知らぬ中年のおじさんがどすどすと足音を響かせて歩いてくるのが目に入る。
関係者だろうか? と思っていると、なんと私達のテーブルの横で立ち止まってしまった。
「エンリィ。お前は……また、このような平民と——!」
その中年のおじさんは、お父様ほどでないにしても、やや豪華なスーツを着ている。
「お父様。こんなところまで……!」
どうやらエンリィのお父様みたいだ。
私は席を立ち挨拶をしようとするのだけど、彼らは激しい言い争いを始めてしまった。
「黙れ。お前は、儂が準備していた縁談も——」
エンリィは父上と上手くいっていないようだ。
しかも、その原因がロレットとの付き合いにある。
ロレットに目を向けると、彼は何か言いたそうにエンリィの父親を見つめていた。
「ふん。平民のくせに儂をそんな目で見おって。やはりこの学園はエンリィには合わぬようだな」
そう言って、エンリィの父上は、エンリィに手を伸ばした。
「お待ちください!」
ロレットが立ち上がり発言を続ける。
「最近は、貴族と平民の垣根をなくそうという動きもあります」
「ふん、小汚い平民の分際で何を」
さすがに、私はその言葉にカチンときた。
そこまで貴族が偉いというのだろうか。
いや、実際偉いのだろうけど……だとしても、小汚いとか普通言う?
状況は良くない方向に向かっている。
「今の発言、取り消してください」
彼は失礼にならないように振る舞いながらも、言葉には棘があった。
その棘がさらに、エンリィの父上を苛立たせているようだ。
彼が何を言ったところで、エンリィの父親は引かないだろう。
「ふん。不埒な。平民のお前など、いくらでも手を回して追い出すことができるんだぞ」
「そのような横暴なことを……」
私はつい我慢できず、参戦してしまう。
「えっと、その。私もロレットの意見に賛成です」
こんな言葉一つで態度を変えるような人ではないだろうけど、言わずにはいられない。
「横暴だと? それに賛成? 貴様ら、我が大切な娘を誑かすなどと、いい加減にしろ。これまでずっと、そうしてきたのだろう——」
はあ。なんとなくどう続くのか分かってしまった。
エンリィが立ち上がる。
たぶん、父親の暴走を止めようとしているのだろう。
「——お前らをこの学園から追放する。いますぐ、ここから出て行ていけ!」
シーンとするみんな。
いきなりそんなことを言われても、という反応だ。
何が彼にそう言わせているのか、不気味な力を感じる。
その様子に、エンリィが冷たい目で父上を見つめて口を開いた。
「お父様、この方がどなたかご存じですか?」
「ふん、知らぬが……名は何という?」
エンリィの父親が偉そうに聞いてきた。
私は立ち上がり、挨拶をする。
「ロッセーラ。ロッセーラ・フォン・クリスティーニと申します」
「ん? クリスティーニ? ロッセーラ……どこかで」
怒りに赤くなっていた顔が、次第に青く変わっていく。
ちょっと面白い。
「クリスティーニ公爵家の……もしやヴァレリオ殿下と婚約されているという……?」
私は、静かに「はい」と答える。
「そうですわ。お父様。間違いありません」
エンリィが追撃をしてくれた。
すると、彼は私に対して一礼を始める。
「こ……これはこれは、ロッセーラ様。エンリィから聞いております。貴女には本当に、いくら感謝しても——」
急に態度が変わった様子が滑稽だと思った。
権威を振りかざす者は、権威に弱いらしい。
「あの。差し出がましいかもしれませんが、一言言わせてください」
「あ、はい……何でしょう?」
借りてきた猫のようにしゅんとするエンリィの父上。
なんだか随分小さく感じる。
「彼は学園内でも有望視されています。彼の適性は神官職ですが、いずれは、王国の主要職に就くかもしれないと言われているのです」
「な、なんと? そうなのですか?」
「はい。ですので、エンリィ様とロレット様の仲には、あまり口を出されない方が良いと考えます」
「……そうですか……しかし、儂は、エンリィのため思って」
歯切れが悪い様子から推察するに、どうも納得できないらしい。
まあ、そういう世界にずっといたのなら、今さら急に考え方を変えるのも難しいだろう。
そう理解しつつも、私はさっきの言葉を許せず、彼をきゅっと見据えた。
だいたい、「誰かのためだと思って」っていう言い訳の殆どは、誰かのためではない。
私は乙女ゲームで悪役令嬢が口にする言葉を思い出した。
「わかりました。では、王子殿下に相談を……」
たったこの一言を伝えただけなのに、彼の顔は突然目を見開き、顔色が白くなっていった。
劇的な変化。
「ひ……。たたた大変失礼しました。その、ちょっと急用を思い出しまして……これにて失礼させて頂きます」
そう言うと、エンリィの父上は、見かけによらぬスピードで食堂を去って行ってしまった。
す、素早すぎる……。
私が驚いていると、エンリィとロレットが立ち上がり、寄り添って私に礼をした。
「ありがとうございます……」
「本当に、俺からも何て言っていいか」
「いやいや、そんな気にしないで」
自分の力によるものじゃないし。
なんだか嵐のように過ぎていく時間に私は早く楽しく彼らと話したいとだけ、思ってしまう。
「さて、静かになりましたし……。頂いたお菓子も頂きましょう」
手際よくエンリィが、お菓子を皿の上に並べていく。
見た目は、貴族御用達のお店で扱っていそうな、高級そうなものだ
「美味しそう」
「ええ。明日から魔法学園創立祭の準備が始まるでしょう?」
「うん、そうね」
創立祭というのは、魔法学園の創立記念日に行われる行事のことだ。
王都民を学園内に招き、学園の紹介や魔法の実演、それぞれの学年で企画出店がある。
私はとてもそれが楽しみに思っている。
「その準備の休憩で頂いてくださいと、クッキーなどを準備してくださったの。ちょっと気が早いけどたくさんあるから先行して食べちゃいましょう」
エンリィは単純にすぐに食べたいだけだな……これは。
私が手に取ると、エンリィも手を付け、彼女が先行して食べ始めた。
上品に頬張る顔はとても幸せそう。
「ロレットは食べないの?」
「ちょっと甘いものは苦手で……」
まあ、男の子はそう甘いの苦手な人多いよね。
私は彼の分も食べてしまおうとクッキーを頬張った。
その瞬間。
目の前が急に暗くなる。
身体中から力が抜けていく。
その怠さに勝てずテーブルに突っ伏しまった。
ガシャンとお茶が入ったカップが床に落ちる音が聞こえる。
「ロッセーラ様!? ロッセ——」
マヤの声が聞こえた。
だが、その声は次第に小さくなっていく。
暗闇に覆われる視界。
私は、眠気に抗うことが出来ず、意識を手放したのだった——。




