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閑話 元部下の務め ——アリシア—— 後編

「じゃあ……」


 ぎゅっと目を瞑るアリシア。

 カリカは腕を大きく振り上げた。


 そして……。


 カリカの手のひらは、そのままゆっくりとアリシアの頬に触れる。

 ほんの少しだけ、かすかにぺしっという音が聞こえる。

 きっと痛くはないだろう。


「え?」

「今までの事はこれで……。これから、よろしくお願いします、アリシア様」


 やっぱり。

 少しも嫌な顔をせず、あっさり許してしまうカリカ。

 弾けるような笑顔が眩しい。

 眩しすぎる。


 うーん、この様子だと、アリシアはカリカのことを、ちょろいって思わないだろうか?

 思うのだろうな……きっと。


「ねえ、カリカ。本当にそれでいいの?」

「はい。その、何かあったら……ロッセーラ様がなんとかしてくれるかなって」


 ああもう。

 なんて可愛いのかしら。

 なんだか私の方が攻略されそうだ。

 そう思っていたら、案の定——。 


「ああ、カリカさん、あなたは本当に可愛いわね……ねえ……あなた……今夜一緒に——」

「アリシア!」


 油断も隙もあったものじゃない。

 アリシアは、相変わらずカッコいい、またはかっこいい子には、男女構わず見境がない。


「う……ごめんなさい……」

「お二人は、いつのまにそんな関係になられたのですか?」


 カリカが不思議そうにしている。

 私たち二人の関係の変化はさすがに気付くか。

 アリシアは、なぜか顔を赤くして頭をかいた。


「あっ。いや、それほどでも……」

「何照れてんのよ。まあ、ほどほどよ、ほどほど。アリシアがさっきみたいに頭を下げたのよ。それに、私とカリカとの関係には負けるわ」

「ロッセーラ様……」


 ふふっと笑いかけると、カリカはちょっと嬉しそうな顔をした。

 よかった。

 なんとか……誤魔化せたかな?

 聡明なカリカのことだから、疑問には思ってるかもしれないけど。

 まあ……なんとかなるでしょ。


「少し元気になられましたね」


 カリカが気遣ってくれる。

 確かに、今朝までの暗い気持ちは、少し和らいでいた。

 彼女らに感謝をしなくては。


「うん、ありがとう。カリカのおかげよ」

「いいえ。ロッセーラ様は、ずっと私のために良くしてくださったので、お力になれて嬉しいです」


 そういって、彼女ははにかんだ。

 相変わらず可愛い。



 私たちは学園から出て、寮に戻った。

 平民向けの寮は、貴族向けの寮より遠いところにある。

 アリシアは、いつの間にか姿が見えなくなっていたので、カリカと二人で帰った。

 貴族の寮の入り口付近にはマヤが待ってくれていた。

 

「ロッセーラ様、お帰りなさい。カリカ様……お久しぶりですね」

「マヤさん、こんにちは」


 ふと、昨日のことを思い出す。

 カリカに直接聞いてみよう。


「そういえば、昨日……大聖堂の方に何か用があった? 大聖堂に向かうあなたを見かけたわ」

「いえ? 人違いじゃないですか? 私は大聖堂には行って……ないので」


 むむむ。間違えでは無いと思うけど……。

 マヤも少し首をかしげている。

 まあ、詮索するのも気が進まないし、だからどうだという話でもあるから、ま、いっか。


 カリカと別れ、マヤと二人で寮に入る。

 自室の近くまで行くと、マヤが眉を下げ困ったような眼差しで私を見てきた。


「そういえば、お嬢様。お部屋に問題が」

「問題?」

「とにかくお部屋へ」


 そう促され、中に入る。

 割と大きな部屋だったので、結構持て余していた。

 しかし今は、空いたスペースに、見知らぬベッドがある。


「ナニコレ?」

「はい、このことを聞きたくて……」


 いや、知らない。

 さてどうしようかと考え始めたとき、ガチャリとドアが開く。

 そして、さも自室のような勢いでアリシアが鼻歌交じりに入ってきた。


「ああ……今日はこれからロッセーラ様と一緒に過ごせるなんて!」


 スキップして入ってきた彼女は、私たちがいることに気づき、急にピシッと背筋を伸ばした。


「なんであんたが……」

「……いや、だって、家は閉鎖されちゃったし、私の自室も立ち入り禁止になってて

「ええぇ」


 いや、どういうことだってば?


「とりあえずベッドだけ新しく買ってきたの」

「いや、そういうことじゃなくてね……」


 どうやら行く当てがなくなった彼女は、寮の管理人に勝手に了解を取り、同室にして貰ったのだという。

 魅了というわけではないが、何か誘惑をしたのかもしれない。

 どうやら、両親もあの儀式のこととは無関係のようだが、アリシアの部屋を含め王国の衛士が調べて回っているらしい。

 落ち着いたら、戻れるようになるということだ。


 なんだかやたら嬉しそうなアリシア。


「前と違ってイロイロできないのは残念ですが……じゅるり」

「あのね……」


 とはいえ、追い出すわけにもいかないので、受け入れることにする。

 私も甘いわ。

 しょうがないわね、と言うとマヤが顔を真っ赤にしてアリシアに詰め寄った。


「ロッセーラ様と同室など……うらやま……じゃなくて、いけないと思います」

「あら、嫉妬かしら……マヤさんでしたっけ?」

「そうですが、何を」

「……あら、貴女もなかなか……美しいじゃない。控えめな大人の魅力が……」

「ゾゾッ。あ、あの……?」


 この淫魔め……マヤに手を出すなんてとんでもない。


「こら! アリシア……。まあ、仕方ないわ。一緒に寝ましょう」

「ロッセーラ様っっ!」


 ん? マヤの様子がなんだかおかしいけど……。

 とりあえずアリシアの監視という意味でも、一緒にいることは良いのかも知れない。



 少し落ち着くと、マヤが一通の手紙を差し出してきた。


「今日はこれで失礼します。あと、これを……。ヴァレリオ殿下から伝言を言付かっていました」


 なんだろう?

 そう思い、恐る恐る封を解く。


「ロッセーラ、二人で話をしたい。明日、授業が終わったら、学園の広場まで来て欲しい。大事な話がある」


 手紙には、サインと共に、そう記してあった。

 大事な話……レナートの言っていたことを思い出す。

 

 まさか、これって……婚約破棄イベントじゃないでしょうね……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 撫でる様なビンタが出ましたね(笑) 王子から呼び出しですねー。 何を言い出すやらww
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