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第16話 思いを、封じました。

「もご……もごもご……」

「魔王様? ふむ、ロッセ、もしかして?」


 ああ、やはり聞かれていた。

 もう誤魔化せないよね。これ。


「あー、いや、その」

「前世の部下ですか?」

「はあ。そうね。でもね、あの、悪さはさせないから!」


 必死に庇ってみる。

 話せば、分かる。きっと、たぶん。

 幸い、レナートから殺気は放たれておらず、話は訊いてもらえそうだ。


「あの、魔王様?」

「アリシア。まず、私のことはロッセーラと呼んで」

「……はい、分かりました。魔王様」

「あのねえ。人前で絶対その名前で呼ばないでね。あと、この人はね」

「この素敵な……第二王子、レナート殿下じゃなくて?……じゅるり……」


 はあ、正体を知らないと取って食うつもりなのかしら……。

 そんなことをしたら、あっというまに狩られそうだ。

 私は、警告の意味を込め、彼女の耳元で低い声で言った。


「——彼は元勇者よ。手出ししたらすぐ狩られるから気をつけなさい」

「ええっ?」


 ちょっと脅すような口調で告げると、身をすくませた。


「……あの時……ワタシを、まお……じゃなくて……ロッセーラ様共々殺した……」

「はあ、だから、違いますって」

「そ、そうなのですか?」

「はい。それであなたは、前世では……あの淫魔でしたか。今は、人間なのですね」


 うんうんうんうん、と、すごい速さで頷くアリシア。

 そして涙を溜め、上目づかいでレナートを見る。


「うん、人間です。だから……狩らないで」

「はあ。まあ、いいでしょう。少し調べたい事もありますし。あなたはこの王城に一晩泊まって下さい」

「し、調べるって、ワタシの身体を弄ぶつもりなのですの?」


 アリシアは微妙に顔を赤く染め、自らの身体を守るように両腕で抱き、レナートを見つめた。

 まるで、襲うの? と言いたげな、期待と恐怖の混じったような目で。


「あのですね……。対悪魔専門の魔術師がいますので、まあ、頑張って下さい」

「え……な……なにを頑張るの……でしょうか?」


 ブルブルと震えるアリシア。

 レナートも相変わらず人が悪い。

 まあ、これくらいした方がいいのかもしれないけど。


淫魔(アリシア)は、何らかの形で記憶を封印されていたのか、あるいは、あの儀式がきっかけで戻ったのかどちらなのでしょう」

「そ、そうね」

「問題は、あの儀式に関わっていたかどうかです。そうであるなら、しばらく王城から返すわけには行きません。王都都民も相当な人数が集まっていましたし……あの悪魔に変身した司祭のことなど、徹底的に調べたいと思います」


 レナートは、強い意思を持って言った。

 王都を、王国を。

 彼は自らが守る義務があると、信じているようだ。


 アリシアを王城に残したまま、私は学園に帰ることになった。

 寮までは、レナートが送ってくれるそうだ。



 帰りの馬車の中。

 レナートと二人きりだ。


 いつもだったら、何気ない話をしていたのだろう。

 でも今は……。


「どうしました?」

「ううん……。あの……その悪魔との戦いの時……」

「う……。あれは、なかったことに」


 彼は汚点だと言うかのように、口ごもった。

 そんなことないのに。

 私は、少なくとも嫌な思いはしなかった。

 それどころか……。


 距離を開けようとする彼に、私の口が止まらなくなる。


「分かったことがあるの」

「何が?」


 レナートが、私を見つめる。

 その目は、とても真剣で、眼差しは、少し冷たい。

 私は、頭では言うべきではないと思いつつも、言葉を止められなかった。


「私は……あなたのことが……」

「ッ……」

「好き」


 ああ……遂に……。

 言ってしまった。

 本当は、思ってはいけないことなのに。


 レナートは、表情を変えぬまま口を開く。


「…………本当はあってはならないことですが……嬉しいと思っている自分がいます。」

「ほんとう?」


 少し、胸を締め付けていたものが緩んだ。

 とても嬉しくて、とても温かい気持ちになる。

 次第に緊張が緩んでいく。


 ……しかし——。


「私は、その気持ちに応えることができません」

「…………そ……そう」


 彼は、私を、拒絶した。

 当然のことだ。

 当たり前のことだ。

 少し期待したことが、あるはずがない。


「ロッセーラ……今の言葉は、聞かなかったことにします。貴女は、私の弟の婚約相手です」

「でも……」

「そして、私は。貴女の婚約相手の兄です。それを、忘れないで下さい。決して」


 彼は、冷たく硬い表情のまま、そう答えた。

 感情を感じない、低い声。

 私に、言い聞かせるように圧力を加えた、鋭く尖った声。


「……はい」


 私は、目を逸らし、そう答えるしかなかった。

 感情を込めない、冷たい声で。


 それからは、乾いた静寂だけが、馬車の中を支配していた。




「うーー!」


 自室に戻るなり、ベッドに寝転がり、ベア吉を抱き締める。


「おや、ご主人様。お帰り……んんっ」


 戸惑うベア吉をよそに、ぎゅっと、力を込める。

 すると……私の口か小さな嗚咽がこぼれた。


「う……うぅ……」


 涙が溢れ……滲む。

 声を押し殺して、私は泣いた。


「いろいろあったみたいだな」


 ベア吉は、私の頭をただ静かに撫でてくれる。


 私は、ただただ、突っ伏して、涙を流し続ける。

 そんな私たちを静かに、月の光が照らしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 仕方ないよね…弟の婚約者なんだから… ここからどう婚約破棄してレナートと幸せになるんすかねー。 楽しみです!
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