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第7話 女二人で、恋の話をしました。

「アリシア様、すごかったですね……大丈夫でしょうか……?」


 私はソイン教授の部屋を後にし、カリカと学園の廊下を歩いている。


「そうね……彼女、様子がおかしかったわね」


 アリシアの金色に輝く瞳。精神だけではなく、体にも何らかの異変が起きていたのだろうか?

 あの後、アリシアはハッと我に戻った様子になり「失礼しました」と言ってソイン教授の研究室を足早に立ち去ってしまった。

 まるで、その場から逃げるように。


 残された私達に「もう帰っていいですよ」とソイン教授が告げ、その場は終わったのだ。


「はい。今は、ロッセーラ様と二人で帰れて嬉しいです」

「そ……そうね」

「はい!」


 レナートは「王城に用があるので、その後二人で話をしましょう」とだけ言い残し、あっという間に姿を消した。

 カリカと私だけが残され、こうして廊下を歩いている。


 夕日を浴びているせいか、カリカの頬がやや赤く染まっているように見える。

 コツコツと私達の歩く足音だけが廊下に響いていた。

 壁が厚いためか、外の音が殆ど聞こない。

 学園の建物は、いざというときは王都市民の避難場所としても使えるように、とても頑丈に作られているということだ。


 互いに無言でいるのも落ち着かない。

 そうだ、さっき聞こうと思ったことを聞いてみよう。

 私は周りに誰もいないことを確認し、思い切って質問した。


「ねえ、カリカ……あなたは、ヴァレリオのことをどう思っているのかしら?」

「どうって……素敵な方だと思います」


 カリカの顔が、さっきより赤みを増したように見えた。

 ああ、やはり……。

 ヴァレリオに惹かれ始めているのだろうか?

 まあ、無理もないことだ。


 第三王子にして、剣の扱いにも長け、先ほどは【将星(ウォーロード)】という上位職の判定も出た。

 優しく、私を大事にしてくれる。

 彼の大切な人になることができたら、誰でも幸せになれるだろう。


 レナートのように王国、王国、と国のことを優先に考える姿とは対照的だ。

 最終的に、より国民に愛されるのはヴァレリオのような気がする。


「そ……そう。その、好きとか、そういう風には?」


 ああ、こんなことを聞いて話してくれるのかどうか。

 デリカシーに欠けた質問のような気もするけど、聞かずにはいられない。


「そうですね……私はヴァレリオ殿下のこと、慕っています。それに、多分それ以上の感情もあるのだと思います」


 なななあ……ぬぁんですって?

 彼女は少しだけ力強く、少し艶のある声で堪えた。

 さらにさらに、彼女の頬が赤く染まっていくように見える。


 ああ……やっぱり……。

 カリカやヴァレリオは今まで私が住む館で出会い、テーブルを囲み、他愛ない話をすることもあった。

 彼の人柄に触れ、惹かれない女性はあまりいないように思う。


「そ……そうよね、彼、素敵だし……」


 ああ、これはきっと……宣戦布告イベントだ。

 コツコツと廊下に響くのは破滅、処刑への足音なのかもしれない。

 ある程度ヴァレリオとの好感度が上がると発生する宣戦布告イベント。

 乙女ゲームの主人公であるカリカは、ロッセーラに対し「負けない」と挑戦を叩きつけるのだ。


 少しずつヴァレリオとの信頼を勝ち取り、自信を持っていく主人公。

 彼女の勢いはこの宣戦布告イベントを経てさらに増していく。

 それを受け、悪役令嬢ロッセーラは主人公に対しさらに露骨なイジメを行うのだ。

 そのイジメや嫌がらせをヴァレリオに知られ……婚約破棄へと事態が進行していく。


 カリカは、やや俯きがちになった私の手を取った。

 歩くのを止め、私の瞳をしっかりと見つめてくる。その、とてつもない真剣な眼差しに、ドキドキしてくる。


「…………ロッセーラ様」

「は、はい?」


 イベントを起こさないためにも、逃げた方が良いのかも知れない。

 だけど、私は、カリカのその真剣な瞳から目を逸らすことが出来なかった。

 時々見かけた、彼女の戸惑う姿から想像できないほど凜とした姿勢と声。

 カリカの口から、どんな言葉が紡がれるのか……。

 破滅へのイベントなのに、なぜか続きを見てみたい。

 そう思う。


「私は……ヴァレリオ殿下が、好きです」


 き、きたぁーーーー。

 ああ、やはり。

 私はキュッと目を閉じた。


 きっと、この後に、「ロッセーラ様には負けません」と続くのだ。

お読みいただき、ありがとうございます!


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