7話 オバちゃんの恩返し
異世界二日目。
余程、疲れていたのだろう。
枕が変わってもグッスリと眠れたリコは、気持ちのいい朝を迎えた。
早速、リコは朝食を準備を始める。主婦に出来るせめてもの恩返しだ。
温野菜を添えたチーズオムレツに、カブのあっさりスープ。それと黒パン。
ガスや電気のない台所にかなり苦労したリコだったが、オバちゃんの意地でなんとかテーブルに並べた。
リコの気遣いに喜ぶダン。料理の出来に驚くケツァル。彼らは「美味しい」とおかわりまで所望した。
賑やかな食事も終わり、ダンが仕事に行こうと席を立つ。
すかさずリコは朝食の残りをパパッと籠に入れ「お腹が空いたら食べなさい」と彼に手渡した。
ダンは、それをハニカミながら受け取る。
「あっ! ダン、ちゃんとハンカチ持った?」
ダンは「ハン……カ……チ?」と首を傾げる。
リコが汗を拭くジェスチャーをすると、彼は「ああ!」と言って手拭いらしき布を振って見せた。そして「リコさんにもあげる」と一枚、差し出す。
その布はリコの知っている手拭いとは違い、ゴワゴワしていてあまり使い勝手のよろしくない代物であった。
だがリコは、目を輝かせながら「ありがとう」と布を受け取る。
なぜならオバちゃんである彼女は、タダで貰える物なら何でも有り難く貰って帰る習性があるからだ。
例えば――旅行先のホテルに置いてあるアメニティグッズ。お祭りなどで配られる試供品は彼女の大好物なのである。
そしてまさにこれは別格だ。異世界の布。リコには、最早お宝にしか見えない。
異世界の記念にと、リコは大切そうにポケットにしまい込んだ。
「よし、忘れ物はないね。ダン! 気をつけていってらっしゃい」
リコはダンの背中を、軽くポンポン叩き送り出す。
「おっ、おう……リコさんってなんか母さんみたいだ……じゃあ、行ってくる」
ダンは照れ臭そうに、そう言い残し家を後にする。
そんな彼を見送ると、メグルとの約束があるリコとケツァルは、ライデルの家へと向かった。