6話 オバちゃんの疑問
早速リコとケツァルは、ダンに連れられ村長の家へと向かった。
「ん?」
道すがら、足を止めて何かをジッと見つめるリコに、ケツァルが問いかける。
「リコよ、どうかしたのか?」
「うーん……別にどうってことはないんだけど……」
煮え切らない態度のリコ。
ケツァルもその方向に目を遣る。すると、そこには畑仕事をしている女子供の姿があった。
「あの者たちがどうした? 畑仕事をしているだけではないか」
「んー、そうなんだけど……。最初はね、子供がお手伝いをして偉いなって感心してたの。でもさ、転んでバケツを倒しても、母親たちは知らんぷり。ちょっと無関心だなって。それによく見ると……ほら、働いてるの子供たちだけなの」
そう言われ、ケツァルはもう一度よく女子供を見た。確かに忙しく働いてるのは子供たちだけで、母親たちはその横で会話に勤しんでいる。
「おーい! どうした? 置いてくぞー」
先に歩を進めていたダンが、リコたちを呼ぶ。
「気にしすぎかな? ……行こうか、ケツァル」
「うむ」
リコたちは気を取り直し、ダンに追いつくべく先を急いだ。
目的地である村長の家は、村の中心にある広場のすぐ側にあった。
リコたちを迎えたのは、まず村長夫婦のライデルとユズリ。
リコよりも少し若めの夫婦で、村長のライデルは線の細い優男。眉の間にある皺が、神経質そうなイメージを与える。
あまり似ていないが、嫁のユズリはダンの姉なのだそうだ。
黒髪を肩口で揃え、ホンワカした女性である。臨月であろう大きなお腹を抱えていた。
それからもうひとり、ライデルの祖母メグルである。気難しそうなおばあちゃんという印象だ。かなり背が小さい。
リコたちは広々とした台所兼居間に通され、さっきダンを丸め込んだ「お涙頂戴作戦」をライデルたちの前でも披露した。
リコの迫真の演技が終わると、難しい顔をしたメグルが口を開く。
「……その魔獣は?」
「え? ああ、友達のケツァルです」
「⁉」
ライデルたちが驚いたと言わんばかりの顔をする。
中でも、メグルは「ほう!」と感嘆の声を漏らし、態度を一転、優しい笑顔をリコたちに向けた。
「そうかい。友達かい……リコ、ケツァル。遠慮しないで、この村に好きなだけいるがいいさ。ダン! お前の家で面倒みておあげ。そうじゃ。わしが村を案内してやろう。明日、またウチにおいで」
「お祖母さん! 急いではいけません。きちんと考えから判断しましょう」
勝手に話を進めるメグルに、ライデルから待ったがかかった。
滅多に人など来ない辺境の村に、突然現れたオバちゃんと珍獣。村を守る長ならば、慎重になるのも当然である。
(この村長、なかなかしぶといね。それにしても……メグルさんの変わり様は何? ダンもそうだったし……一体、何が彼らの琴線に触れたのかな?)
リコがそんな思いを巡らせていると、メグルが「はぁ」と大袈裟な溜息を吐いた。
「ライデル、お前は冷たいね。リコたちは無一文で困っているんだよ。二つ返事で承知するのが男ってもんじゃないか! ……そんなんじゃ、ユズリに嫌われるよ」
メグルの駄目押しが決め手となり、ライデルが渋々了承した。
見事リコたちは、村の滞在許可を手にしたのである。
その夜、ダンが用意してくれた部屋で、ベッドに横たわるリコとケツァル。
一先ず、寝床の心配は解消されたと喜ぶリコに、ケツァルがぼそりと呟く。
「リコ……ワシを友と呼んだが……」
「えっ? だって異世界の謎に挑む同志じゃん。違うの?」
「……いや、そうじゃな……ああ、今日は疲れた。ワシはもう寝る」
ケツァルは目を瞑り寝たフリをする。どうやら照れているらしい。
そんなケツァルに微笑み「おやすみ」と言うと、リコも目を閉じた。
(……旦那と娘はちゃんとご飯食べたかな? 心配してるよね。早く帰る方法見つけなきゃ。でもまずは王都だよなー。はぁー、タダで行けないもんかなぁ……)
そんなことを考えながら、リコは深い眠りに落ちていった。