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5話 オバちゃんの痛恨

 村の入り口から少し歩いたところに、青年の家があった。

 山小屋風のこぢんまりとした家で、木のかぐわしい香りがなんとも言えない安らぎを与えてくれる。


 青年が「簡単な物だけど」と用意してくれた食事は、リコの世界とさほど変わらない物であった。

 紫色したニンジンや干し肉を煮込んだ温かいスープ。トロッと溶けたチーズをのせた固めの黒パン。

 素朴で優しい味のする料理に舌鼓を打ちつつ、青年から簡単な異世界情報を入手した。


 青年の話によると、この大陸は中央にV字の如く連なる険しい山脈によって、大きく二つに分かれているらしい。

 V字の上の部分が、人間の暮らすエスタリカ王国。

 下の部分は鬱蒼うっそうとした大森林が広がる――なんとそこが魔族たちの住処、カランデの大森林なのだそうだ。

 ちょうど山脈を挟み、大陸の上が人間、下が魔族とお互いの領域を分けている形である。

 因みに魔族とは、魔獣や亜人あじん獣人じゅうじん等の総称で、なんでも彼らを束ねる魔族まぞくおうなる者が存在すると言う。


 ここはヨーク村。エスタリカ王国の最南端、山脈のふもとにある小さな村だ。

 80人程が暮らし、主に林業で生計を立てている。

 華やかな王都や大都市から大分離れたこの辺境の村では、太陽と共に寝起きする昔ながらの生活が今も続く。


 初の異世界人にして、親切なこの青年はダン。

 ガタイが良く、日焼けした健康的な肌。少し硬そうなボサボサな黒髪、笑うと出来る目尻のシワは、彼の人柄の良さを物語っている。

 現在28歳。自ら建てたというこの家で、寂しい独身生活を送っていて、お嫁さん大募集中なのだそうだ。


 説明と共に見せて貰った大まかな地図によると、ケツァルの力が奪われている方向に王都があった。王都であれば、異世界情報の収集に事欠かないであろう。


 次に向かうべきは、エスタリカ王国、王都。


 目的地が決まり意気揚々とするリコたち。しかし、深刻な問題が発覚した。



 ――お金がない。



 お金がなければ、これから食べることも宿に泊まることも出来ないのだ。


 リコは考えた……申し訳ないけれど、ここはダンに同情して貰おうと。存分に哀れんで貰おうと。

 そして涙ながらに語るのであった。


 遙か遠くの大陸から数々の苦難を乗り越え、命からがらヨーク村に辿り着いた無一文の旅人というベタなキャラ設定を……。


 純朴なダンは「世界はなんて広いんだ」とそれを信じ、リコの目論見通り、村の滞在許可を村長に頼んでくれると言う。お涙頂戴作戦、大成功である。


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