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43話 オバちゃんの……。

 底冷えする寒さを感じ、リコは目を覚ました。



(あれ?)



 パチパチと瞬きを繰り返すリコの目に映るのは、見慣れない天井。



(え? 外じゃない? ま、まさか!)



 慌てて起き上がり、周りを見回すリコ。

 すると、その目に祭壇や賽銭箱が飛び込んできた。



(ここ……見覚えある。そうだ――あの神社の拝殿だ)



 リコは、黒光りする床に手をつき立ち上がる。



(あ! 体が軽い)



 さっきまでの体の怠さが、まるで嘘のように消えている。



「私……戻って来たの?」



 そう呟くと、リコは拝殿の外に出た。


 冬晴れした空、寒そうに佇む木々。

 掃き清められた参道。

 そして、賽銭箱の横に立つ足もとには、リコの鞄が転がっていた。



「やっぱり、ここにあった……」



 リコが鞄を拾い上げた瞬間、携帯の着信音が鳴り出す。

 携帯の存在を忘れていたリコは、驚き危うく鞄を落としそうになった。



(う、うおっ! ビ、ビックリした! 携帯なんて久しぶりだから心臓に悪いよ)



 そんなことを考えながら、鞄から携帯を取り出し、液晶の画面を確認する。



 ――娘からであった。



 リコは携帯を耳に当て、恐る恐る話しかける。



「も、もしもし?」



「あ! 母さん? 今日、病院だったよね? 結果はどうだったの?」



 リコは懐かしい娘の声を聞き、嬉しい反面、一気に現実に引き戻された感じがした。



「病院……結果……」



 言葉を詰まらせるリコ。



(もしかして……夢……見てたの?)



 彼女は今、異世界のことがすべて夢だったように思えてきたのだ。

 よく考えてみれば、やっぱり異世界転移なんてあり得ないことだから……。



「母さん! ちょっと、聞いてるの?」



「あ……うん、聞いてるよ。検査結果……でしょう? それは……顔を見ながらゆっくり話そうかな……」



 リコの返事に、何かを察した娘は彼女を気遣う。



「……そう。なら私、早く帰るようにするね。そうだ! なんか甘い物、買って帰るわ! だから母さんは、ブラブラしてないで大人しく家で待ってるのよ! じゃあ……後でね!」



「うん……じゃあね」



 通話を終え、ひとつ溜息を吐くリコ。



(……そうだよね。異世界転移なんて……オタクのオバちゃんの儚い夢物語だよね。癌だって宣告されてきっと心が現実逃避したんだ。でも……凄い楽しくて……幸せな夢だったな)



 そう考えると、目頭が熱くなり、自然と涙が溢れてきた。

 リコはハンカチを取ろうと、ポケットを探る。 

 するとその指先に、ゴワゴワした物が触れた。

 弾かれたように、それを取り出すリコ。


 それは――ダンから貰った布であった。


 異世界の記念にと、ポケットに大切にしまって置いた布。

 その布を握り締め、泣きながら歓喜の声を上げるリコ。



「夢なんかじゃない! 私……本当に異世界から戻って来たんだ!」



 リコはここでやっと、異世界からの帰還を実感した。

 途端に、寂しさ、物悲しさ。そして……安堵。そんな色々な感情が、一遍に込み上げてくる。



「そっか……私……里子に戻ったんだ……」



 後から後から頬を伝う涙。それをリコ――里子は拭いもせず、暫くその場に立ち尽くした。











 一頻り泣いた里子は、拝殿の前に改めて立ち、賽銭箱にお賽銭を投げ入れる。そして二礼二拍手の後、静かに手を合わせた。



「私、頑張って手術を受けます。だから、早く病気が治りますようどうぞ見守ってください。あと……異世界に行けたこと、とても感謝しています。ありがとうございました」



 もしあの日――正しくは今日――この神社に来なかったら、異世界に行くことはなかった。

 あの賑やかで楽しい仲間たちと、出会えなかったのである。

 里子は、大切な仲間との縁を結んでくれた神社の神様に心から感謝した。

 一礼して、もう一度「ありがとう」と呟く里子。



 ――その時。



 彼女の耳に、騒がしい声が飛び込んで来た。



「リコー! 感謝するならワシにじゃぞー! ワシのおかげで異世界に行けたのじゃからなー!」



「ちょっと! アンタは不注意でリコを巻き込んだだけでしょう! 本当にウザイんだから! このウザゴン!」



「な、なんじゃと!」



「まぁまぁ、お二人共。それより……ここは異世界ではないのですから、リコさんではなく里子さんですよ! 里子さん……どこか暖かくて、いいお名前です!」



「もう! 皆うるさい! 早く里子さんのところに行くよ! 里子さーん! 会いたかったよー!」



「ああ、ずるい! 里子ー! 約束通り、未来に行くわよー!」



 そんな聞き慣れたやり取りに、里子の顔は自然と綻ぶ。



(まったく、せっかちだねぇ。今、戻ったばかりなのに。でも……いいか。さぁ! 今度は舞台を変えて、また思いっ切り楽しもう! ……但し、嫌な病気をサッサと治してからだけどね! ふふっ)



 里子は心を踊らせ、満面の笑みで振り向く。



 すると、そこには……。


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