42話 オバちゃんの仲間たち
リコの体は、日を追うごとに弱っていった。
この頃は、ベッドから出れない毎日が続いている。
「リコさん? ダンが貴方の好きな桃を、持って来てくれましたよ。少し食べませんか? きっと口の中がスッキリしますよ!」
ベッドに横たわるリコに、ネーヴェが綺麗に剥かれた桃を差し出した。
「……わぁ、美味しそう!」
目を輝かせ起き上がろうとするリコを、ケツァルが支える。
「おお、リコ! 随分と気分が良さそうじゃのう」
「うん」
頷きながら、リコは太陽の光が差す眩しい窓を見つめる。
「今日は天気がいいみたいだね。ケツァル、ネーヴェ。せっかくだから外で食べたいなぁ。久しぶりに村の皆にも会いたいし……ねぇ、ダメかな?」
甘えるように首を傾げるリコ。
ケツァルとネーヴェは、顔を見合わせ微笑む。リコの久し振りのお願いが、二人はとても嬉しいのだ。
「ダメなもんですか! いい考えですよ。この際、皆さんを呼んで外でお茶会を開きましょう! 早速、用意しますね!」
ネーヴェがウキウキしながら、お茶会の準備に取りかかる。
ケツァルは、指でリコの髪を梳きながら語りかけた。
「皆もそれは嬉しがるであろうな。ワシも楽しみじゃ。じゃが……リコよ。余り無理はしてくれるなよ」
「うん、分かってる」
「よし! ならばワシは、ひとっ飛びしてルカたちを呼んで来るとしよう! リコ、ちょっと待っておれよ!」
ケツァルの言葉に、リコは嬉しそうに目を細めた。
◆
晴れ渡った初夏の日差しの下、賑やかお茶会が始まる。
ネーヴェが用意してくれたスイーツが、所狭しと並べられていた。
旬の桃がふんだんに使われたタルトやロールケーキ。カラフルでキラキラして乙女心を擽るゼリーやプリン。
そのすべてが可愛くて、フォークを入れるのがもったいないくらいだ。
お茶からも桃の甘い香りが漂っている。
思ったよりも本格的なお茶会に、リコはワクワクが止まらなかった。
リコの両脇に座るケツァルとネーヴェ。
そしてその周りには、リコの大切な仲間が大勢駆けつけてくれていた。
「リコさん! 今日はお顔が輝いていますね! なんでしたらもっと輝くように、私を辱めてもいいんですよ! さぁ、リコさん! ご存分に!」
相変わらずのアスワド。
リコは、ちょっと残念な彼に優しく微笑む。
「まったく……アスワドがいると楽しくて仕方ないよ……ふふっ」
「そのような嬉しいお言葉! このアスワド、どうにかなりそうです! 大好きですよ! リコさーん!」
満面の笑みで両手を広げるアスワドを、無情にもルカとルイがドカッと押し退け、彼らがリコの視線を勝ち取る。
「リコさん! 今日はお茶会、楽しもうね!」
「そうよ、リコ! 変態は放っておいて、目一杯楽しまなきゃ!」
「お、おう。楽しもう!」
心の中でアスワドを不憫に思いながら、苦笑いで答えるリコ。
次いでグラウが、地面に転がったアスワドをポーンと蹴り飛ばし、とうとうリコの見えない場所まで追いやってしまった。
ズイと前に出るグラウ。
「リコ! 会いたかったぞ!」
「グラウ!」
リコはアスワドの悲劇を見なかったことにして、グラウとの久々の抱擁――控えめなモフモフ――を楽しんだ。
そこへカイルが登場する。
「リコー! 俺の話を聞いてくれよ! あいつら鬼だー!」
叫ぶその顔はゲッソリとやつれ、長い耳は憐れに萎れていた。
リコは「カイルは頑張ってる」と、彼の背中をあやすようにポンポンと叩く。
カイルは今、クスタルとヨーク村をコンスタントに行き来しているのだ。内心はヨーク村に定住希望なのだが、そうも行かない。
年中、頭の中がピンクの彼ら――リドルとガーズ――に目を光らせてないと、とんでもないことをしでかしそうで気が気じゃないのである。
面倒見のいい損な性分なカイル。きっと彼は、このままずーっとリドルとガーズのお守り役であろう。
「もう、嫌だっ! 俺、あいつらと縁を切りたいーーーーっ!」
「カイルー。愚痴もほどほどにしろよー。せっかくのイケメンが台無しだぞ!」
うち拉がれるカイルを、ダンが茶化した。
キッと睨むカイル。
「何だよ、ダン! お前はいいよなー! 可愛い嫁さんと娘に囲まれててさ!」
ダンは「あはは!」と豪快に笑いながら、隣に座るカレンと娘を愛おしそうに見つめる。
「オレの嫁さんと娘は可愛いだけじゃない。サイコーに優しいんだ!」
「はいはい。またのろけ? カイルはね、クスタルで大変な思いをしてるのよ! ダン、少しは同情してあげたら?」
そこにティーラが参戦。
心強い援軍を得たカイルは、ティーラの膝に泣きつく。
「ティーラ! アンタは分かってくれるんだな! 俺、辛いんだよーーっ!」
ティーラは、カイルの頭を優しく撫でる。そして、しみじみと語り出した。
「カイル……私にはよく分かるわ。私だって毎日、同じような思いをしてるもの。女に目のない男なんて、一回痛い目を見るといいんだわ。いいえ、いっそ消えてしまえばいい!」
カイルはパッと顔を上げ、ティーラに向かって両手を広げる。
「ティーラ!」
「カイル!」
お互い辛い者同士のカイルとティーラは、ひしっと固く抱き合う。
そんな二人の横で、お茶を啜っていたメグルが言い放つ。
「おや! アンタたち、いいコンビだね! 丁度いい。くっついちまいなよ!」
「お祖母さん、それはいい考えですね! さて、式はいつにしますか?」
生真面目なライデルも加わり、話が本格的になる。
「そりゃあ、村長。早いに越したことないよ! なぁ、皆!」
村人たちもその話に乗っかり、皆「そうだ! そうだ!」と口々に賛同した。
顔を真っ赤にするカイルとティーラ。
「ティーラよ。ラドルフの承諾なんぞ要らん! 儂が許そう!」
端っこにちょこんと座っていた長老が、すました顔で頷いた。
その後ろに控えるクスタルの元護衛たちも「その通りだ!」と言わんばかりに頷き合う。
すると皆が、カイルとティーラを楽しそうに囃し立てる。
「わー! 結婚だー! おめでとう!」
「二人共、お似合いよ! お幸せにねー!」
――この場にいる誰もが、はしゃぎ笑っていた。
ケツァルとネーヴェの肩に頭を預けたリコは、そんなひとりひとりの笑顔を眺め、顔を綻ばせる。
「ふふっ。思わぬカップルが誕生したね。それにしても、皆……幸せそうだ」
「そうじゃな。皆、幸せそうに笑っておるのう」
「ええ、本当ですね」
満面の笑みを浮かべるケツァルとネーヴェ。その目尻は下がり、彼らも実に幸せそうであった。
リコは澄み渡る異世界の空を見上げ、大きく深呼吸する。そして、ケツァルとネーヴェの手をそっと握った。
「ねぇ……ケツァル、ネーヴェ。私……幸せだよ。側にいてくれてありがとう……ね。ああ……願わくば……大好きな仲間たちがずーっと幸せでありますように……。そしてね……また……笑顔で会えると……いいな……」
リコは大切な仲間の笑顔に囲まれ、まるで眠るようにその目を閉じた。




