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39話 オバちゃんの感謝

 モフモフ騒動も収まり、リコの新居へと移動した一行。



「いやー、落ち着けるいい家ですね! 木の香りも芳しい!」



 アスワドが気持ち良さそうに深呼吸した。



「本当だね! でもヨーク村の人たちは凄いよね! こんな素敵なお家をパパッと建てちゃうんだから!」



 ルカも目を輝かせて、家の中を見渡す。

 木目の揃った綺麗な壁に、グラウが入れるようにと高く造られた天井。そして、すべて木で設えた丈夫な家具たち。シンプルで使い勝手のいい食器。


 ――そう、これらは全部村人たちからの贈り物であった。


 ダンの家で、ずーっと厄介になることを心苦しく感じていたリコ。ここに来てネーヴェも増えたので、余計迷惑がかかると思い悩む毎日が続いた。

 そして、そこにもうひとつリコを悩ます――嬉しい悩みだが――問題が持ち上がる。


 それは……ダンの結婚であった。


 相手はあのカレン。心を入れ替えた彼女と急速に愛を育んだらしい。裏にティーラの強烈な後押しもあったとか……。

 リコは、当然我がことのように喜んだ。喜んだのだが……。

 そんなラブラブ新婚生活に、オバちゃんと珍獣二匹のお邪魔虫など言語道断である。馬に蹴られて死んでしまう。

 当のダンとカレンは「大所帯! わーい! 大歓迎!」なんて呑気に笑ってくれたが、リコは気が気じゃなかった。

 それならばと村人たち総出で、家を建ててくれたのである。

 新婚さんのプライバシーは守られ、しかも素敵な家を持てたリコは、村人たちに心から感謝したのであった。



「そうだ、リコ! 近くにエルフの集落が出来たのよね! ワタシ、ずーっと気になってたから凄い嬉しい!」



 ルイが弾むように口にした。


 ルイの言うエルフの集落とは――。

 各地に散らばっていたエルフたちが、長老の噂を聞き、このヨーク村にワラワラと集結。

 それを機に彼らは、リコとケツァルが出会った泉の森を少し開拓して、集落を復活させたのだ。

 そしてめでたく、エルフの集落とヨーク村は、お隣さん同士となった次第である。


 リコはルイに頷く。



「うん、そうなの。でもね。本当はこの村で一緒に暮らそうって意見もあったんだけど……例のあの人がね……」



 言葉を濁すリコ。

 その意味を察したように、ルイがしみじみ語る。



「あーそうよねぇ。ティーラのお父さんがトラブルばっかり起こすもんね……それも女性関係。まったく、タチが悪いわ。でもよかったわね。これで少しはトラブルも減ったでしょう?」



「いや、それは甘い考えじゃ! 村を出たと言っても隣の森じゃからな。奴はちょくちょくやって来て、あちこちで騒動を起こしておるわ!」



「ええ、毎日てんやわんやです。ティーラと長老さんは気苦労が耐えません。色ボケエルフ恐るべしですよ」



 ケツァルとネーヴェが口を挟んだ。

 彼らはブツクサ文句を言いながら、手慣れた手つきでお茶を配り、クルミのパウンドケーキを切り分けていく。

 そんな二人に、アスワドが感心したように口を開く。



「色ボケエルフはともかく……ケツァルさんとネーヴェさんは、人間の姿が大分板についてきましたね」



「む? そうか? まーそうかもしれんな!」



 ケツァルは、満更でもないらしく白い歯を見せて笑った。

 実はこのケツァルとネーヴェ。人間の姿になってから非常に働き者なのだ。

 朝は日の出と共に起き出し、村の肉事情の為に動物を狩りに行く。そして、昼間は畑仕事と村の雑用をこなし、忙しく飛び回っているのだ。

 今ではここヨーク村にとって、なくてはならない存在なのである。

 リコも彼らの存在を頼もしく思っていた。



「でもさ……なんでその姿なの?」



 ルイの素朴な疑問に、首を傾げるケツァル。



「なんじゃ、ルイ。どこかおかしいか?」



「おかしくはないけど……ちょっとイケメン過ぎない?」



 眉を顰めるルイに、ケツァルは食ってかかる。



「イケメンのどこが悪い! どうせなら見目麗しい方が良いではないか! メグルや村の女たちは、目の保養になると喜んでおるわ!」



「うわー! ケツァルってば、女の人にキャーキャー騒がれて調子に乗ってるんだ。これだから男って嫌よねー。鼻の下、伸ばしちゃってさー」



 口に手を当て、意地悪な笑いを浮かべるルイ。

 ケツァルは、クワッと目を見開き怒鳴り声を上げる。



「な、なんじゃと! この小娘が!」



「何よ! 本当はウザいドラゴンのくせに! このウザゴン!」



 言い合いを始めるケツァルとルイ。

 どうやらこの二人は、馬が合わないらしい。

 ケツァルはリコを母と慕い甘えるルイに嫉妬を覚え、ルイは何かと口うるさいケツァルを鬱陶しく感じているのだ。

 水と油、犬と猿。まさにそんな二人である。

 しかし今日の言い合いは、リコに言わせると「ケッ、イケメンと美女が何を言ってやがる」であった。

 何やらムカムカしてきたリコ。

 彼女は騒がしい二人を鎮めるべく、話題をガラリと変えることにした。



「ところでさー、ルイ。ずーっと疑問だったんだけど『ドラゴン・ジュエル』だっけか……そんな物、なんでドラゴンがいないこの世界にあったの?」



 大好きなリコに呼ばれ、ルイはパァッと目を輝かせた。そして、うるさいケツァルを放って意気揚々と話に乗っかる。リコの作戦が見事成功したようだ。



「あの『ドラゴン・ジュエル』はね。父が開発してハルカさんにプレゼントした物なの。二人はこの世界でよくデートしてたから。でも……そうねぇ……」



 そう言いながらルイが、顎に手を当て首を傾げる。



「ワタシも不思議に思ってたわ。なんでドラゴンがいないのにって……」



 そんなルイの代わりに、ルカが楽しそうに答える。



「それはね。母さんが怒って、この世界からドラゴンを逃がしちゃったからなんだよ! 魔力を奪うなんてサイテー! ドラゴンが可哀想だってね。父さん、かなりヘコんでた!」



「ん? あれ? じゃあ、ルカ。一週間位、ハルカさんが父さんとまったく口を利かなかったのって……もしかして……それが原因だったの?」



「そうだよ、ルイ姉さん! 母さん、めちゃくちゃ怒っててさー! 父さん、許して貰おうと毎晩外食に連れてってくれたよね!」



「そうそう! アレでワタシ、かなり体重が増えちゃったのよ! でも……楽しかったなぁ。ハルカさんがいたあの頃……」



 不意に目を細め、昔を懐かしむルイ。その手をルカが、ギュッと握り締める。



「ルイ姉さん! ボクがいるよ! ボクが必ず父さんのこと叱るからね! もう、ルイ姉さんを悲しませたりしないよ!」



「ルカ……ありがとう」



 ルイは微笑み、ルカの手を握り返した。

 そこにリコも加わる。



「そうだよ! 私も未来に行って、あなたたちのお父さんを絶対にヘコましてやるんだから! そんで皆で未来の食事を、お父さんにご馳走になりましょう! ハルカさんの時が一週間だったんなら……そうだねぇ、私たちは一ヶ月ね!」



 ルカとルイが、目を丸くして「そんなにー!」と驚く。

 リコは「当然!」と言い切った。


 それにしても……ルカたちの父親は、少し残念な人のようである。

 二度も愛妻を亡くすという不幸を経験した父親。もちろん彼には、同情を禁じ得ない。


 それにしても……である。


 前にエルフの長老が言っていた先代の魔族王とその妃の逸話は、きっと父親とハルカさんのことであろう。

 ということは、湖に向かってしょーもない愚痴を叫んでいたのが彼である。



 ――残念な人だ。



 ならばきっと彼も悪い人間じゃない。というか、変人……いや、どこか間抜けで面白い人物である。



「ふふっ、会うのが楽しみだ! 待ってろよ、ダメ親父!」



 リコは密かにほくそ笑んだ。

 そんなリコを、恍惚に……舐めるように見つめる四つの目。



 ――ネーヴェとアスワドである。



「ねぇ、アスワド。あのリコさんの表情……もう堪りませんね」



「……ええ。何か悪巧みを考えてらっしゃるリコさんは、私の大好物です!」



「ふふふっ。アスワド、貴方もお好きですねぇ」



「ネーヴェさんこそ……ふふふふふっ」



 不気味な笑みを浮かべるネーヴェとアスワド。

 そんなことは露知らず、リコは賑やかな昼下がりを満喫するのであった。

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