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26話 オバちゃんの再会

「リ、リコーーーーッ! 何故なにゆえ其奴そやつと一緒にいるのじゃーーーーッ!」



 リコが謁見の間に入った途端、ケツァルの絶叫が響き渡る。

 いくら警備が手薄とはいえ、こんなに騒いだら見つかってしまう。

 リコとカイルは、慌ててケツァルのもとへと急いだ。


 玉座の両側に置かれた鳥籠。

 右側には見慣れたケツァル。左側にも白いケツァル……。



「……ケツァルが分裂した? ……ってか突然変異?」



 目を丸くするリコ。

 ケツァルは、鳥籠の格子から鼻を突き出して喚いた。



「そんな訳あるか! 此奴こやつはワシが捜しておった我が同胞、ムシュフシュだ!」



 リコは腕を組み「ほーう」と深く頷く。



「やっぱりお友達、ここにいたんだね。カイルからケツァルみたいなのがもう一匹いるって聞かされて、そうなんじゃないかなぁと思ってたんだ。見つかってよかったね。ケツァル!」



 朗らかに語るリコに、ケツァルの目が据わる。



「よかったねじゃと……。リコよ、何を呑気な! オヌシ、怪我はどうしたのじゃ! それに何故なにゆえ、その悪党と親しくしておる!」



「あーそれねー。ケツァルが連れて行かれてから色々ありまして。怪我はティーラが癒やしてくれて……カイルは相棒になったの。こう見えて、結構頼れるナイスガイだよ。そんで二人でケツァルを助けに来たんだ!」



 ケツァルが「はぁ?」と目を剥く。



「まぁまぁ、落ち着きなさい。ケツァルコアトル。わざわざ助けに来てくれたリコさんに失礼ですよ!」



 ムシュフシュと呼ばれた白い生き物が、ケツァルを窘めた。そして、リコに目を移すと丁寧なお辞儀をする。



「初めまして。ムシュフシュと申します。リコさんのことは、ケツァルコアトルからお聞きしました。大変なご苦労をされたとか。巻き込んだケツァルコアトルに代わり、私からお詫び申し上げます。あっ、リコさんとお呼びしても?」



 ケツァルと同じ生き物の筈なのに、もの凄い低姿勢のムシュフシュ。



(おっ! か、堅いな。それになんかズイズイ来る感じだ)



 リコはバカ丁寧なムシュフシュに、どう接していいか分からず、顔を引き攣らせた。



「え、ええ。どうぞお好きに……」



「本当ですか? 嬉しい! ありがとうございます! ところでリコさん。私の名前……ムシュフシュなのですが……」



 ムシュフシュがモジモジしながら、チラチラとケツァルを見る。



「その……出来ましたら……私にも……」



 言いにくそうにモゴモゴと話すムシュフシュ。

 その態度に、リコはデジャブを感じた。



(ん? これって……ケツァルの呼び名を決めた時と同じじゃない? モジモジしとるがな。なんだー。かなり可愛いい奴じゃないさ。白くてモフモフだし。大好物! 大好物! ならば……)



「えーと、私があなたの呼び名を決めてもいいの?」



 リコはムシュフシュに尋ねた。

 ムシュフシュは、モジモジをピタリと止め、格子をガシャンと掴む。



「は、はい! ぜひっ! ぜひっ! リコさんに決めて頂きたいです!」



「ほ、ほーう……よし! 引き受けましょう! じゃあ……」



 リコは唇を指でトントンと叩き考えると、ムシュフシュにニッコリ笑う。



「あなたは真っ白で雪みたいだからネーヴェ! イタリア語で雪って言う意味なんだ。ピッタリでしょう? どうかな?」



 パァーッと目を輝かせるムシュフシュ。

 彼はその名をいたく気に入ったのか、赤い尻尾をものスッゴイ勢いで振り回した。

 すると、ケツァルは格子にかじりつき抗議する。



「ちょっと待てっ! そこはムシュかフシュではないのかっ! 何故なにゆえそんな洒落た名を――」



「――ヤキモチは見苦しいですよ、ケツァル。それにしてもリコさんは、ネーミングセンスが抜群ですね! ネーヴェ! イタリア語で雪! ああ、素晴らしすぎるっ!」



 ウットリしながら自慢するムシュフシュ改めネーヴェ。

 ケツァルは、口をカパッと開けたまま固まった。

 そこにカイルが呆れた声を出す。



「コントは終わったか。そろそろ城を出たいんだが……」



「はっ! そうです。ここを抜け出さなくては! ……ですが……この鳥籠はもう女王でなければ開けれないのです」


 鳥籠の中で悲しそうに俯くネーヴェ。

 リコは「本当?」と、アホ面で固まっているケツァルの鳥籠を、シゲシゲと観察する。

 そして、試しに扉を引っ張ってみた。




 ――パカ。




 いとも簡単に開いた。



「あらやだ、普通に開くけど? ほら、ケツァル。いつまでも固まってないで、早くこっちにおいで!」



 笑顔で腕を広げるリコ。



「リッ……リコォーーーーッ!」



 ケツァルが目を潤ませ、リコの胸に飛び込んだ。

 リコはケツァルをギュッと抱き締める。

 久々のケツァルの温もりに、リコはポッカリと空いていた心の隙間が埋まっていくのを感じた。



「ケツァル……あの時、助けられなくてごめんね」



「何を言う! リコはこうして助けに来てくれたではないか! ワシこそすまんかった! 痛い思いをさせてすまんかった! リコーーッ!」



 ケツァルが例の如く、リコの頬にグリグリと頭を押しつけた。



「こ、これは……どういうことです!」



 今度はネーヴェがポカンとする番であった。

 ケツァルは、グリグリを続けながら自慢げに語る。



「だから言ったであろう。リコは傀儡石を石コロにしてしまう凄い奴じゃと! リコにかかればこんな鳥籠を開けることなんて、ヘソで茶を沸かすようなものなのじゃよ!」



 ネーヴェが「ふーむ」と難しい顔して考え込む。



「ネーヴェ? どうしたの? ほら、ネーヴェも出ておいで!」



 そう言いながら、リコはネーヴェの鳥籠もしれっと開ける。

 ネーヴェはつぶらな瞳でリコをジーッと見つめ……やがて、感極まったように小さな体をプルプルと震わせた。



「そうです! きっとそういうことなんです! リコさーん! 私を受け止めてー!」



 ネーヴェはそう叫びながら、ケツァルをドカッと蹴り飛ばし、リコの胸に飛びついた。



「う、うおっ! ネ、ネーヴェ? いきなりどうしたの?」



「分かったのです! リコさんはまだ女王に存在を知られていない! だから傀儡石を石コロにしたり、鳥籠を開けたり出来るのですよ!」



 リコは、ネーヴェの言っている意味が分からずに「ん?」と首を傾げた。

 そんな彼女の代わりに、大理石の床に転がる哀れなケツァルを拾い上げながら、カイルが口を出す。



「女王が知らない人間なんて、この国にはごまんといるぞ! だけど誰ひとりそんな力は持ってないぜ!」



 ネーヴェはリコにしがみついたまま、カイルに目を向ける。



「リコさんはこの世界の人間ではありません。ケツァに巻き込まれて、偶然この世界に来てしまった極めて異例な人間なのです」



「はぁ?」



 調子はずれの声を上げたカイルが「本当か?」とリコに目を遣る。



(うわっ。ネーヴェさん……トップシークレットをヌルッと暴露しやがったわね。でも……カイルなら、まぁいいか)



 リコは、頭を掻きながら苦笑いをする。



「とんでもない話だけど……そうなんだ。オマケでたまたま、この世界に来ちゃいました。この世界でいうところの……異世界人なんだな。ワタクシ」



 目を白黒させるカイル。だが、やがて納得いったように天井を仰いだ。



「カァーーーーッ! 異世界人! どーりで変なオバちゃんの訳だよ! 好奇心旺盛で警戒心なさ過ぎだし、すーぐ調子に乗るしさー。俺、見ててハラハラ……って、あ? 何だよ、ケツァル」



 騒ぎ立てるカイルの腕を、ケツァルがしつこく揺さぶる。



「そのくらいにした方がオヌシの身の為じゃぞ……ほれ、見てみるがいい」



 ケツァルの指さす先に、カイルはどす黒いオーラを見た。それを纏っているのは言うまでもない……リコであった。

 カイルは「ひぃ!」と顔を引き攣らせ、慌ててネーヴェに話を振る。



「え、えーと、ネーヴェ。リコがとても希有けうな人間だというのは分かった。だから……頼む! 話を進めてくれ」



 ネーヴェは、リコの腕の中で仰々しく頷く。



「では、進めさせて頂きます。さて、私もケツァルも偶然にこの世界に来たのですが……私たちは人間ではなくドラゴンです。なので『ドラゴン・ジュエル』が私たちの魔力を奪い反応した為、女王に存在を知られてしまいました」



「ドラゴン?」



 カイルが首を捻る。



「ええ。私たちドラゴンは、この世界にはいない魔獣なんです」



「へぇー、アンタらドラゴンっていう魔獣なんだ。どーりで見たこと――」



「――そうじゃぞ! 最強で最高神とも謳われた魔獣・ドラゴンじゃ!」



 カイルの言葉を遮り、胸を張るケツァル。

 カイルは「スゲー、スゲー」と一応褒めて、すぐネーヴェに視線を戻す。



「で? アンタの魔力を奪う『ドラゴン・ジュエル』って何だよ」



「女王のペンダントです。その『ドラゴン・ジュエル』の所為で、私は力を奪われ続けずっと女王に囚われていました。そんな私を助ける為にケツァルまでこんなことに……」



 辛そうに俯くネーヴェ。

 リコは、そのモフっとした頭をそっと撫でる。



「そうだったんだ。辛かったね」



 すると、ケツァルがカイルの手を離れ、リコの肩に飛び乗る。



「リコよ。女王は奪ったワシらの魔力を、好き勝手使っておるのじゃ。あの傀儡石だってワシらの魔力で……生み出しておる。ワシらさえこの世界に来なければ……魔族たちはあんな目に合わずに済んだのじゃ……」



 シュンとする二匹を、リコは優しく諭す。



「ケツァル、ネーヴェ。勘違いしてはダメだよ。あなたたちは決して悪くない! ドラゴンなんちゃらだっけか? そんなものを悪用する女王が悪いんだ!」



 弾かれたように、リコを見つめるケツァルとネーヴェ。



「リコ……」



「リコさん」



「とにかく私は、この世界に存在する筈のない人間。だから女王の……いや、ドラゴンなんちゃらの力を無効に出来る……っていうことでいいのかな? ケツァルに巻き込まれただけって思ってたけど……私って、もしかして無敵な存在?」



「そうだよ! やっぱオバちゃんはスゲーんだよ!」



 カイルがリコの背中を勢いよくバシッと叩く。



「だーかーらっ! カイル! 痛いって!」



「リコ、照れんなよー。よっ! 無敵の英雄リコ様! なんだったら、その『ドラゴン・ジュエル』も石コロにしちゃえよー!」



「もう! そんな都合よく……ん? 待てよ」



 リコは顎に手を当てる。



(ここまで来たら、もう四の五の言ってられないか。ダメならダメでまた考えればいいし……ってダメだったら殺されるの確定だけど……。うーん。いや、しかーし! この際、当たって砕けろだよね! 日本の主婦を舐めんなよ! こちとらご近所トラブル、ママ友問題、そんな数々の試練を乗り越えて来たんだからね! 根性ならピカイチだよ! よっしゃー! 傀儡石でもドラゴンなんちゃらでもバッチ来いってんだ!)



 覚悟を決めたリコの目がキラリと光る。



「ふっふーん。一か八か試してみるかね」



 ほくそ笑むリコに、ケツァルがワクワクした顔を向ける。



「おっ! リコよ、何だかやる気だな!」



「うん。女王の悪行にはもうウンザリだよ。怒りのK点軽く越えましたから」



「ならば皆さん。コロシアムに急ぎましょう! 魔族王が殺される前に! ……また悲劇が繰り返されてしまう」



 ネーヴェの最後の言葉は、リコに聞こえるかどうかの囁きであった。



(ん? 悲劇が繰り返される?)



 どういう意味なのか聞こうとリコが口を開きかけたが、カイルから横槍が入る。



「ただ、問題は厳重な警備なんだよな……あっ! そうだ!」



 突然大声を出したカイルに、リコたちは注目する。

 するとカイルは、ニヤリと悪い顔でリコたちを見回した。



「俺にいい考えがある。俺について来な!」

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