表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/48

23話 オバちゃんの宣言

 時間を少し巻き戻して、神官が女王にケツァルを恭しく渡していたその頃、リコとカイルはやっと王都に到着した。

 王都は、女王のお膝元だけあって小洒落た店が建ち並び、通りを歩く人々もどこか垢抜けている。



「王都って言うから、もっと古めかしい感じを思い浮かべてたけど……なんか有名な推理小説に出て来るロンドンの町並みだね。まるでベー○ー街だ」



 リコがキョロキョロと周りを見回しながら口にした。



「べー……なんだって? それよりリコ、ちゃんと前見て歩けよ。転ぶぞ?」



「ほーい。ところでカイル。私たちはどこに向かってるの?」



「あ? 俺の馴染みのメシ屋。兵士らがよくたむろする場所だから、そこで情報収集しようと思ってさ」



「へぇーって……それ大丈夫なの? カイル、兵士を突然辞めたのに」



 心配するリコに、カイルは軽く片手をヒラヒラと振る。



「平気、平気。前にも言ったろう? 俺、下っ端兵士だったから誰もそんなの気にしないさ。さあ、行くぞ! リコ!」



 カイルがリコの背中をバシッと叩く。

 リコは「だから痛いって」と口を尖らせカイルについて行く。


 綺麗に整備された大通りから狭い路地に入ると、すぐにその店はあった。

 安くて美味いメシ屋だからいつも混んでいると、カイルは言う。

 本当にそうらしく、店の中からガヤガヤと賑やかな声が聞こえた。


 ガチャッと扉を開く。

 兵士でごった返す店内。



「チッ。今日は一段と混んでやがるな。んー、空いてる席は……っと」



 店内を見渡すカイル。

 すると、奥のテーブルから声がかかる。



「おっ! カイルー! こっち、こっち! ここ空いてるぞー!」



 小柄で顔のソバカスが印象的な兵士が、大きく手を振っていた。

 カイルはそれに応じて、リコと共に兵士のテーブルに着く。

 早速、口を開く兵士。



「カイル。お前、兵士辞めたって?」



「ああ。今はこのオバちゃんの相棒だよ」



「リコと言います。よろしく」



 兵士は、挨拶するリコを見て目を丸くした。そして、カイルの首にガシッと腕を回し、小声で囁く。



「お前……大分趣味変わった? いくらなんでも年上過ぎるだろう」



「ちっげーよ! 相棒って言ったろ! ア・イ・ボ・ウ! このバカっ!」



 カイルが兵士の腹を思いっきりド突く。



「うごっ!」



 拳を鳩尾に食らい悶絶する兵士。



「ぐぬうぅぅっ~~。い、痛い。痛いよ……カイル」



「変に勘繰るお前が悪い!」



 兵士は「分かった、分かった」と、まだ痛む腹を擦りながら話題を変える。



「でもカイルさー。兵士、辞めて大正解だよ。オレも辞めよっかなー」



「あ? 俺もって……リドル、それどういうことだよ」



 リドルと呼ばれた兵士は周りを見回し、リコとカイルに顔を近づけろと手招きする。それからヒソヒソ声で喋り出した。



「いやさー。魔族王が女王に捕らえられたんだよ」



「えっ⁉」



 目を見開くリコ。

 だが、カイルは別に驚いた様子もなく淡々と口を開く。



「リコ、そんなに驚くことじゃない。女王には、魔族の攻撃がまったく効かない傀儡石があるんだ。遅かれ早かれそうなったさ」



 カイルはそう言うと、リドルに視線を戻した。



「で? お前が兵士を辞めたいのと、魔族王が捕まったのとなんの関係があるんだよ?」



「大ありだよ! 今回ばかりは流石に魔族たちも怒ってさー。人間に報復を始めたんだよ」



「ふーん。そうなるだろうな、当然」



 その現場を見てきたカイルは、腕組みしながら余裕の顔で答える。



「カァーー! 辞めたからってそんな呑気に! オレのような傀儡石を持たせて貰えない下っ端は、堪ったもんじゃないぜ。ある意味、丸腰でそこに送られるんだから。魔族相手に剣や盾でどうしろって言うんだよ!」



 プンプン怒るリドルの頭上から、大柄な兵士がヌッと覗き込んでくる。



「なんの話だ?」



「魔族の報復の話!」



 ぶっきらぼうに答えるリドルに、大柄な兵士は「ああ、それか」と空いている椅子にドカッと腰を掛けた。そして、テーブルの上で手を組むと、開いてるかどうか分からない細い目をもっと細くする。



「実はな。そのことで妙な噂を耳にした。クスタルの街も魔族に襲撃されたらしいんだが……捕まっていた魔族が傀儡石から解放されて、すんなり鎮まったそうだ。しかも魔族たちは仲間を助けてくれたお礼に、街の怪我人を癒やしたんだと」



「へ? ガーズ、それどういうこと?」



 首を傾げるリドルに、ガーズと呼ばれた大柄な兵士がグッと顔を寄せる。



「何でもな、獰猛でいかつい爺さんとウェアラビットの可愛いウサ耳娘が、傀儡石を石コロに変えたらしい」



「はぁ⁉」



 間抜けな声を上げるリコとカイル。



「ど、どうした?」



 目を白黒させるリドルとガーズ。

 思いもよらないクスタル情報に、カイルは「いや~」と目を泳がせて、リコはブンブンとかぶりを振りながら顔を伏せた。



(オルガさんよ……なぜ、獰猛で厳つい爺さん? なぜ、そのチョイス? 美少女戦士……いや、せめて屈強な戦士とか……そういう選択肢はなかったの? カイルのウサ耳娘はこの際どうでもいいけどさ! よりにもよって爺さんって……爺さんってなんじゃい!)



 リコが頭の中に沢山の疑問符を浮かべている間に、彼女の葛藤を知らないリドルとガーズはそそくさと会話を再開させるのであった。



「でもさー。傀儡石が石コロになるなんてホントかなー……っていうかオレ、見てみたい。ウサ耳のかわい子ちゃん!」



「おっ! それな! 俺も思ってしまった!」



 ウサ耳娘の話で盛り上がるリドルとガーズ。

 カイルは、さっさと話題を変えるべく「コホン」と咳払いをした。



「ところで、俺はヨーク村に行っていたんだが……」



「ん? あーそれ、聞いた、聞いた。女王のペットをもう一匹捕まえたんだって? あの神官、すんげー褒美が貰えんじゃねーの」



 リドルが頭で腕組みしながら、椅子を揺らした。

 そんなリドルにリコは尋ねる。



「リドルさん。ケツァ……いえ、そのペットはどこにいるのかしら?」



「へ? 女王のとこに決まってんじゃん」



「そうじゃなくて、城のどこで飼われるの? まさか女王が連れて歩くとか?」



「うーん、女王ってペット連れてたっけか? オレ、そういうのあんまり興味ないからなぁ」



 悩むリドルに代わって、ガーズが口を開く。



「謁見の間に置かれた鳥籠で飼われてるらしいぞ……でもなんで、そんなことを?」



「えっ? い、いえね。あの女王様が飼ってらっしゃるペットですもの。どんな生き物かと思いまして。生きてる内に一度は見てみたいなぁなんて。おほほほ!」



 リコのワザとらしい言い分けに、ガーズは丸太のような腕を組み渋い顔をする。



「そうか……でもなぁ、飼い殺しにされているペットなんて、見ても悲しくなるだけだぞ。やめとけ、やめとけ。そんなことよりだな。今さっき嫌な話を聞いてしまった。今度、コロシアムでデッカイ出し物をするらしい。何でも、魔族王とその腹心の狼を闘わせるとか」



 リドルが仰け反り顔を顰める。



「ひゃー、マジかー。女王もえげつないこと考えるよなー。あー嫌だ、嫌だ。何お前、見に行くの?」



「そんなモン見に行くかっ! まったく、あの女王のすることは、おぞましくて吐き気がする」



 心底嫌そうに話すリドルとガーズを、リコは不思議そうに見つめた。



(ほう? この二人……女王にいい感情を持っていないのか。まぁ、カイルは魔族だから別だけど……。ふーん。どうやらエスタリカの兵士は一枚岩じゃないみたいだね)



 リコの視線に気づいたリドルは、彼女を覗き込む。



「リコさんだっけ? 何きょとんとした顔してんの?」



 そう言いながらリドルは、何かを思いついたのかポンと手を打つ。



「あっ、そっか! 兵士が女王の悪口を言ってるからビックリしてるんだな! ならばその理由をお教えしよう! それはーオレらがー魔族贔屓だからでーす! だってー魔族って超かわいい子多いじゃん! だからーそのかわい子ちゃんたちをイジメル女王なんか大っ嫌い! なぁ、ガーズ!」



 リドルに肩を組まれたガーズは「その通り、その通り」と何度も頷いた。

 するとリドルは、また何かを思いついたのか声を弾ませる。



「あっ! ガーズ! この際、オレらも兵士辞めちゃおうぜ! そいでーいかつい爺さんとウサ耳のかわい子ちゃんを捜して、弟子にして貰おう!」



 リドルの意見に、ガーズの細い目がキラリと光る。



「ほう! それはナイスなアイデアだ!」



「だろ? そんで散々、虐げられてきた魔族のかわい子ちゃんたちを助けて……ムフッ、ムフフフッ」



「いい。それは……とてもいい……」



 リドルとガーズはるはずのない桃源郷(実際は店の天井)を見つめ、何かを妄想し始めた。

 リコとカイルは「はぁー」と大きな溜息を吐く。


 決して悪い人間たちではない。

 悪くはないが……如何せん、欲望に忠実すぎるきらいがある。


 リコは心の中でオルガに呼びかけた。



(あなたの嘘の情報は、敵を攪乱するどころか、青年たちを桃色の世界に送ちゃってるよ……)



 まだ妄想の世界に漂うリドルとガーズ。

 カイルが終止符を打つべく、二人の頭を引っぱたく。



「おい! お前ら、いい加減戻ってこい!」



 リドルとガーズは、頭を擦りながら抗議する。



「やい! カイル! お前何すんだよ! せっかくいいとこだったのに!」



「まったくだ。もう少しでウサ耳娘が、俺にあんなことやこんなことを――」



「――だぁーーっ! もういい! 行くぞ、リコ!」



 カイルが首を掻きむしり、勢いよく席から立ち上がる。

 じんま疹でも発症したのだろうか。だが、気持ちはよく分かる。ウサ耳娘とは、即ちカイルのことなのだから……。

 リドルがテーブルに片肘をつき、恨めしそうにぼやく。



「何だよ。ツレねーな。お前も誘ってやろうと思ってたのにー」



「きっぱり断る。ところでコロシアムの出し物っていつやるんだ?」



 カイルの問いに、ガーズは「知らん」と首を横に振り、リドルが非難の声を上げる。



「うわー、やだー! カイルさんはオレたちの誘いを蹴って、そんな野蛮なものを見に行くつもりですか?」



「ちげーよ。きっと貴族や神官は必ず来るだろうし、何より女王が当然いるんだから警備が厳重になるだろう? きっとお前たちも駆り出されるんじゃね? 爺さん捜しに行くなら早く兵士を辞めた方がいいと思ってな」



 カイルの意見に、ガーズは重々しく頷く。



「その通りだ。お偉いさんたちが集まるコロシアムの警備は、騎士たちや上の連中がすることになるだろう。そうなれば王城が手薄になる。そこで俺たち下っ端の出番となる訳だな」



「うひゃー面倒くせー。じゃあ、傀儡石を持ってないオレらで城守るのー? そんなの魔族に襲われたら一溜まりもないじゃん!」



 頭を掻き毟るリドル。

 そんな彼にカイルは「ふん」と鼻で笑う。



「な? 早く辞めた方が身の為だろう? まぁ、これは俺からのご忠告。じゃあな! 行くぞ、リコ」



「ん? あーはいはい。ではリドルさん、ガーズさん。ご武運を祈ってます!」



 苦笑いで別れを告げたリコは、スタスタと出口に向かうカイルの背中を追う。

 二人は、店から出て扉をパタンと閉めた。


 途端、リドルの絶叫が響く。



「うおおおお! 辞めてやるうぅぅ! 待ってろよおぉぉ! かわい子ちゃんたちいぃぃ!」






 ◆






 店を出て少し歩くと、カイルがリコに告げる。



「出し物の日、ケツァルを奪い返すぞ!」



「王城の警備が薄くなるから……だね」



「ああ。コロシアムの場所は、王城から少し離れている。その上、王城を守るのは傀儡石の持たない兵士たちだ。俺の敵じゃない。絶好のチャンスだ」



 リコもその日がチャンスだと頭では理解しているが、浮かない返事を返す。



「そう……だけど、もしその日、魔族王に何か間違いがあったら――」



「――リコ、優先順位を考えろ。俺たちは二人。あっちもこっちも助けられない。それにケツァルは人質なんだ。ケツァルを盾にされたら、それこそ何も出来なくなる」



 そうだ。カイルの言う通りである。

 二兎追うものは一兎も得ず。気持ちを改め力強く頷くリコ。



「分かった。まずは、ケツァルを奪い返す! 待っててね! ケツァル!」



 リコは城を見据え、高らかに宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ