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幕間

 ――エスタリカ王国。


 王都。その最深部に白亜の王城がそびえ立つ。

 城の中にある謁見の間は、見上げるほど高い天井に豪華なシャンデリアが連なり、磨き上げられた大理石の床が広がっている。

 中央に敷かれた深紅の絨毯。その先は階段になっており、それを上がると黄金の玉座が、広間を見渡すようにドッシリと置かれている。


 その玉座に腰をかける妖艶な美女。

 豊満な肉体を大胆な漆黒のドレスで包み、長くしなやかな脚を惜しげもなく組んでいる。恐ろしいくらいに整った顔は、美しく誰をも魅了す。



 彼女こそ、この広大なエスタリカ王国の女王、その人である。


 女王の前には、鎧に身を包んだ騎士とローブを身に纏った神官が跪き、静かに主人からの命令を待っていた。

 それを気にかけることなく、女王は玉座の左側に置かれた鳥籠に顔を近づける。そして、中の生き物に囁くような甘い声で語りかけた。



「ねぇ。アンタみたいなマヌケが、もう一匹迷い込んで来たわよ。今までとは比べものにならない程の力を、手にすることが出来たわ。ふふっ」



 そう言いながら女王は、胸元にあるペンダントを愛しそうに撫でる。それにはブラックダイアモンドような黒い石が禍々しく輝いていた。



「今回は存分に楽しめそうね。さぁ、どんな風に苦しめようかしら? アンタならどうする?」



「…………」



 生き物は何も答えない。

 女王はそれを咎めることなく、嬉々とした声を上げた。



「そうだわ! あの狼! きっと簡単に操れる。やっと、使い道が出来たわ。アハッ! アイツ、腹心に裏切られたらどんな顔をするのかしら……うふふ。想像しただけでもゾクゾクしちゃう」



 子供のようにはしゃぐ女王は、胸元からペンダントを摘まみ上げた。

 形のいいポッテリとした唇が少し開き、濡れた舌が姿を現す。その舌で己の唇を味わうように舐めると、黒い石に口づけをした。

 唇が触れた瞬間、黒い石は硬さを失いユラユラと波打つ。

 まるで命を与えられたかのように揺れ動くそれは、やがてその胎内たいないから血のような赤い石を産み落とし始めた。

 幾つもの赤い石をポロポロと床に撒き散らし、黒い石はもとの姿に戻る。


 その様子を満足そうに眺めていた女王は、控えていた騎士と神官に散らばった赤い石を拾わせた。そして彼らに命令を下す。



「お前たち! 魔族王とその腹心を捕らえてらっしゃい! ああ、それと……これに似た生き物がこの国のどこかにいるはず。必ず見つけてきなさい」



 鳥籠を顎でしゃくる女王の命令を受け、騎士と神官は一礼すると、この場から静かに立ち去った。


 女神の如く微笑む女王は、その目に歪な輝きを宿す。

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