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emotion  作者: 長谷川 未来
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出会い

今日の朝はラフマニノフの「鐘」のような気分の朝だ。少し気味が悪い。いやな予感がする…。しかし今日は部活動紹介。1日寝て少し興味が湧いてきている。僕は期待を抱き学校へ向かった。


僕のクラスには小学校から仲が良かった人がたくさんいる。正直気が楽だ。しかし周りには違う小学校からの人もいる。生憎隣の席は知らないやつだ。僕の見た目が怖かったのか隣の席の彼女は、恐る恐る話しかけてきた。


「あのー、よろしく。」


俗に言う陰キャというやつだろうか


「よろしく。名前聞いてもいい?」

「エリナ。名前はカタカナなんだ。佐藤エリナ。ハーフでもなんでもないんだけどね。」

「へ〜。僕は未来。」


カタカナでエリナは第1印象が濃い。


「未来はなんか部活入るの?」

「友達に誘われて吹奏楽部に入ろうかと思ってた。」

「え!ほんと!!じゃあ一緒だね!これからよろしく!」

「おう、よろしく。」


めんどくさいことになった。彼女も吹奏楽部。僕は平凡な日々を送りたかったのだが、運が悪かった。僕の中学校生活は無事に終わる気はしなかった。


「でもすごいね!男子で音楽ってなんかかっこいいよ?やっぱり音楽やってたからここの吹奏楽部入るんだよね?」

「いや、適当に入るだけ。」

「え!?一回か演奏聴いたことある!?」

「ないよ?なんでそんな熱くなってるの。今日の部活動紹介で初めて聴くかなー」


彼女はニヤニヤしていた。なんか僕はしたのだろうか。そうこうしているうちに授業が始まり、やっと部活動紹介の時間になった。


僕が通う清翔しんしょう中学校は運動部が強いらしい。詳しくは知らない。運動とはほぼ無縁だからだ。野球部、ハンドボール部やバレー部、たくさんの紹介が終わり、ついに吹奏楽部だ。

緊張に押し潰されそうなこの空気感はなんだろうか。指揮者が棒を振る。会場の体育館全体に音楽が広がり、演奏している曲のイメージが凄まじく伝わってくる。演奏時間はたった5分。音楽からものすごい物語を感じた。僕は心拍数は上がっていた。

演奏が終わり部長挨拶が始まる。


「私たち、清翔中学校吹奏楽部は、去年、全国大会銀賞を受賞することができました。私たちはこの結果で満足せず次の夏のコンクールで金賞を受賞し全国大会へ出場し金賞受賞して全国に名を残せるように頑張ります。新しい一年生をむかえ、大変にはなると思いますが吹奏楽部をよろしくお願いします!」


(全国…)


僕には重い話だった。今まで何もしてこなかった僕が全国など行けるのだろうか。不安で胸がいっぱいだった。

部活動紹介が終わり放課後を迎えた。後ろから叫び声が近づいてくる。尊だ。


「吹奏楽部いこーぜー!」

「わかった。」


僕は心拍数を上げながら音楽室へと向かった。音楽室には約70人くらいの先輩がいた。全員吹奏楽部だ。体験に来ている一年生は30人程度だろうか。僕は不安だ。楽器などやったことない。幼馴染の先輩から聞いた吹奏楽部のことだが、この部活はどうやら3年間コンクールに乗れるかわからないらしい。いわゆる実力主義だ。3年間部活を頑張ってもいい思いはできないかもしれないらしい。確かに全国まで行っている部活がそんな年功序列な訳がない。そんなゆるくはないのだ。

担当楽器を決めるらしい。僕は楽できればいい。しかしどの楽器も音が出ない。気が遠くなりそうだ。さっき部活動紹介で話していた部長が話しかけてきた。


「きみ暇?今私の担当楽器空いてるから吹く?」

「はい。お願いします。」


先輩から話しかけてきた。あんな素晴らしいスピーチをしてる人が目の前にいる。僕は先輩の後光を見た。


「先輩、僕まだ楽器一個も吹けてないです。」

「そうなの?まだ時間も日もあるから頑張って?じゃ吹いてみようか!」


そうやって出されたのはバスクラリネットだ。クラリネットのでかいやつだ。下には棒が付いていて、楽器を持つ必要がなく、楽だ。もう吹奏楽部を諦めかけていた。なぜか、バスクラから暖かい音が出ていた。


「吹けるじゃん!バスクラ音出た人いなかったからちょうどいいかも!」

「あ、ありがとうございます。」


音が出た。希望を感じた。そして何より楽できる。そう思っていた。とりあえず一件落着だ。僕は心から湧き上がる勇気を抱き部活体験が終了した。

学校を出て帰っていると、後ろから声がした。


「未来、一緒に帰ってもいい?」


隣の席のエリナだった。


「いいよー、ってか楽器吹けた?」

「うん吹けたよ!一個だけだけどね。バリトンサックスってやつなんだけど…ちょっとでかくてねまだ完璧には吹けないや。未来は?」

「僕はバスクラリネットってやつ。俺も一つしか吹けなくてこれだけだった。」

「へー!じゃあ同じパートかな?」

「よくわかんない。」


まためんどくさいことになってきた。隣の席という関係で終わるならまだしも、同じ部活、帰りも一緒というこの状況。


「私家こっちだから、じゃあねまた明日!」

「おう、じゃあな」


エリナと道が分かれてから心拍数があがっていることに気づいた。なんだか悪くない気もする。僕は、今日をドビュッシーの「月の光」を聴いて終らせた。

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