君に花を
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―――日々の感謝と僕の気持ちをこめて―――
― 君 に 花 を ―
仕事の関係で、僕は数日の間王都を離れていた。
明日の朝にはこの街を出るつもりだったため、賑わう商店街でお土産を買っていた。この街のおいしいお茶やお菓子をいくつか購入し、宿で荷物をまとめた。
翌朝、まだ早いうちに宿を出た。
街を出る前、一軒の花屋が目にとまった。
店先にある、優しい感じの朱色の花に心を奪われた。
しかし、まだ早い時間帯であるため、店はやっていなかった。
すぐには諦めきれず、店の前で立ちつくしていると、中から出てきた女の人に声をかけられた。
「その花、きれいですよね」
「ええ」
「買っていきますか?」
「えっ、でも、まだ開いてないんじゃ…」
さりげなく言われたので、驚いてしまった。
「いいのよ。もう帰るんでしょう?」
その女性は、フワリと笑った。
「…じゃあ、この花ください」
戸惑いつつも、僕はずっと眺めていた朱色の花を指差して言った。
「よろこんで。花束にしますね。少し待ってて下さい」
女の人はそう言うと、店の中へ戻っていった。
少しして、僕の頼んだ花が花束になった。お金を払い、店の人からその花束を受け取る。そして、僕は街を出た。
花が弱くならないうちに城へ戻ることにした僕は、空間移動魔法を使って城の中へ飛んだ。
「ただいま」
「おかえり。ごめんね、仕事頼んじゃって」
「いいって。それより、これ、お土産」
今朝、一目惚れして買った花束をアヤに渡した。
「わぁ! 綺麗な花」
花束を受け取り、アヤは嬉しそうに笑った。
「喜んでもらえてよかった。今朝買ってきたから、弱くなっちゃう前に渡したくてすぐに戻ってきたんだ」
「だから早かったんだね」
「うん。あ、そうだ。お店の人がね、その花の花言葉を教えてくれたんだ」
僕はアヤに近付き、耳元でその花言葉を囁いた。そして、アヤの顔をまっすぐ見て、一言付け足した。
「アヤ、好きだよ」
花言葉を聞いて顔を赤くしていたアヤが、さらに耳まで赤く染める。恥ずかしいのか、ずっと下を見つめていた。少しして、弱々しい声で言ってきた。
「私も、だよ…。だから…」
言葉が途中で止まり、不思議に思ってアヤの方を見ると同時に、アヤの綺麗な笑顔が目に入ってきた。
「ありがとう!」
アヤは、花束を抱えて幸せそうに笑っていた。
その笑顔を見て、僕は自分が言ったことを思い出していた。
『花言葉はね「恋の告白」っていうんだよ。アヤ、好きだよ』
――花言葉と共に、君に花を――
fin.
初出:H24 2/24