赤紙徴兵
「それで貴方の意見ですが、概ねそれで合ってるわ。悪性精神体を倒す者、それが進化種よ」
「でも俺、今まで生きてきた中でそんな奴ら見たことねぇぞ?」
「当然よ。見えないようにしてるんだもの」
俺が頭にはてなを浮かべていると、永夜のペンが走り出した。
ホワイトボードに新たに書かれたのは現実世界という円と、それと横に並ぶ虚構世界という円だった。
「まず現実世界、貴方が今まで生きてきた世界がこれよ。こっちはもう説明なんて不要でしょう?」
「ああ、気になるのは虚構世界って奴だな」
「虚構世界は、そうね、生物のいない現実世界。一般人には探知できず、建築物や自然が残り、精神体が存在する世界よ」
現実世界から虚構世界へ矢印が。その逆も然り。
往復する矢印の上には進化種と書かれた。
「進化種はこの二つの世界を自由に往き来できるの。まあ、向こうに行く理由は基本的に精神体関連だけね。それと、貴方が見た黒い物体、あれが悪性精神体よ、覚えといてね」
「えっ、じゃあさっき俺とお前が出会ったのが、虚構世界なのか?」
「そうね。何故こっちに来れたのかは不明だけど、良い経験になったじゃない」
素直に喜べないな。
「まあ、あんな怖い思いするのはもうコリゴリだけどな」
「何言ってるの。虚構世界に来たのだから、貴方も進化種なのよ。当然こっち側」
「……つまり?」
「私みたいに戦いなさいってこと」
嫌です。絶対に嫌。あれと戦うとか、もう体が震える。
大丈夫、俺はここで落ち着いてノーが言える大人な男だ。問題ない。
「悪いが、俺には……」
「拒否権なんて無いわよ。こっちは人手不足で猫の手も借りたいぐらいなんだから、諦めて頂戴」
いや、だって、お前さん血ィ出してたじゃん。その腕の包帯血が滲んでるじゃん。そんな危険が過ぎる使命やだよ。
「ちなみに、進化種は戦場に出る義務が有るわよ」
「出なかったら?」
「さあ?報告には消失としか」
「……やります、やればいいんでしょう」
「ん、よろしい」
俺の渋々とした了承を聞いて握手するよう手を差し出す永夜。
これを握ったら、もう戻れなくなる。けど。
「よろしくね、正宗くん」
握るしかねぇんだよなぁ……。