エーヤのアトリエ ~常闇の刻の進化種~
再び俺は、あの謎の部屋にいる。
「少し待ってて」
女性が指を鳴らすと何処からともなく、椅子が二つ現れた。驚きながら、それに座らせてもらう。
ここは彼女のアトリエ、つまり仕事場なんだとか。
んで、彼女曰く、自分は魔女だという。つい口から愛想笑いが出てしまった時、恐ろしいほど睨まれた。魔女コワイ。
「はい、どうぞ」
「おっ、ありがとう……ございます」
彼女からお洒落なコップが渡される。中にはお茶が、そのコップに恥ずかしくない量だけ入っていた。
「まずは飲んでリラックスして頂戴。今から話すのは、多分刺激が強いと思うから」
「はあ、では、いただきます」
すっと一口。
美味い。こういうのは詳しくないが、美味いものは美味いと分かる。
「如何かしら、私のお気に入りのミントティーなのだけれど」
ミントティー?
俺はジロッと鍋を見る。中は緑色に発光し、ポコポコと鳴っている。まさか、アレから…?
視線の意味を理解したのか、女性が口の前に手を当て、フフッと笑う。
「心配しなくても大丈夫よ。アレ、どんなもの入れても緑色に光るのだけれど、あくまで一時的なものよ。取り出す時に元に戻るし、品質に変化は無いわ」
「はぁ。んじゃあ、その泡立ってるのは?」
「沸騰してるよ」
「……なんか、凄いっすね」
欲しいとは一片も思わないが。
二口目をいただく。相変わらず美味いのだが、あの鍋から出てると思うと、味よりそのテクノロジーに感動を覚える。
「さて、そろそろ話してもいいかしら?」
女性が俺の顔を芯に捉える。その雰囲気は真剣そのものだった。
「はい、お願いします」
それを皮切りに彼女は話だした。
「まずどれを説明するにしても、先に知っておいてほしいのがあるの。それが私たち、進化種のこと」
エヴォリア、彼女が一言だけ言っていた言葉。あの時、まったく真意を知らなかったが、どういう意味なんだ?
女性は再び指を鳴らす。すると煙と共にホワイトボードが姿を表した。
そしてもう一度鳴らし、ペンを掌に出す。まるで魔法のような芸当に心の中で感動する。
女性はホワイトボードに一般人という文字と進化種という文字を書いた。進化種にはエヴォリアとルビが付与されていた。
「進化種とは、一般人という殻から抜け出し、特殊な力を持ってる人を指すの」
女性は一般人から進化種へ矢印を書き、その矢印の近くに様々なワードを書き続けた。
魔女、獣、機械など、統率の無い文字が綴られていく。
「例えば、私は魔女の進化種。といっても、世間一般が想像する魔女とは程遠いけどね。他にも獣の進化種、機械の進化種等がいるわ」
女性は進化種の下に一つ悪性精神体と書き、その上にあくせいアストラルというルビを足した。
その悪性精神体に向けて、進化種から矢印が伸び、この横に討伐の文字が加わった。
「私たち進化種が虚構世界に闊歩している存在、悪性精神体を倒すことによって、一般人たちを守っている。そんなところね」
「えっとつまり、悪者と戦ってるそのエヴォリアっていうスゲー超能力者がお前……ってことですか?」
「ねえ、さっきからその微妙な敬語は何かしら?接触は少なかったとはいえ、クラスメイトでしょう?」
「いや、なんかこう、凄い人って感じがしてさ、他の奴らと同じタメ口で良いものなのかと」
今さらながら、コイツは永夜 可憐。うちのクラスの委員長をしている。
鋭い目付き、どこか気だるげな雰囲気、けれど仕事はしっかりやる。先生からも生徒からも人気が高い奴だ。
クールな性格にロングな髪、そして凛とした態度。一部からは委員長任命前に委員長呼ばわりされていたらしい。
ポーカーフェイスのため感情が読み取れないこともあって、俺は自分からあまり話しかけなかった。ずっと話しづらいと思っていたが、これがクールビューティーとかいう奴なのだろうか。
「タメ口で構わないわ。寧ろ、特別扱いの方が好きじゃない」
「あー、そいつぁ失礼した。次からはタメでいかせてもらう」
永夜は仕切り直すように小さく咳払いをした。