未知との遭遇
ドアを開け、目に飛び込んできたのは見慣れた廊下。それはすぐに学校の、ここに入る前までいた3階だと理解できた。
廊下に人がいないか確認。
人がいないと分かるや否や、そそくさと飛び出しドアを閉める。別にやましい事などほとんどしていないが、何か秘匿を暴いてしまったようでドキドキする。
胸に手を当て、深呼吸。うん、すごく落ち着いた。
なんて瞬間、少しだけ鉄の匂いがした。すぐさま鼻に手を当てるが、どうやら自分の鼻血では無いようだ。
何処から?と考えてると階段から足音が聞こえてきた。
音へ向かうと、二階へ続く階段の踊り場で女性が壁に寄りかかっていた。真顔で息は整っているものの、腕からは血が滴っている。
「大丈夫っすか!?」
慣れないシチュエーションでつい声を荒げてしまった。
女性は俺の声に気づいて顔を見上げる。その顔は、まるで有り得ないという言葉を表情で示したような、驚愕の顔だった。
「危ないっ!」
そう声を荒げる女性。
彼女の視線の先は俺の後ろを見ていて、俺はその視線を目でなぞるように振り向く。
そこにいたのは、正体不明の何かだった。
人の形をしているというのは分かるが、それを覆う黒いものが全くと言っていいほど分からない。有機物というのは分かるが、石炭や黒の折り紙とは違う、底の見えない、吸い込まれるような黒。
悲鳴を上げる暇も無かった。なにより、この状況を必死に理解しようとパニック状態の脳をフル稼働させていた。
非現実的なそれに回答が浮かぶはずも無く、化け物の腕が振り挙げられる。
「こっちへ!」
後ろからの声に、反射的に反応する。
その言葉のままに、といっていいのか分からないが、彼女へ向かって大きくバックステップする。脚が浮いた直後、黒い腕が眼前を通り抜けた。
緊張と浮遊感の最中、黒い紐のようなものが背後から現れ横切ったかと思うと、それは高速で化け物の頭を貫いた。化け物はピクピクと痙攣しているものの、倒れることはない。
脳ミソがパンクしそうな俺を、彼女は優しく受け止めてくれた。
「良い判断ね」
そう言って女性は化け物を見る。俺もつられて化け物へ。その瞬間、先ほどの黒い紐が何本も現れ、一瞬で化け物を四方八方から貫いた。
僅かな静寂の後、化け物は静かに霧散して跡形もなく消えた。
俺はそれをただ唖然と見ていた。
「そろそろ離れてもらってもいいかしら?」
女性の声にハッと意識が戻る。彼女に受け止めてもらった後、くっついていたままだった。
「あっ、すみません」
ささっと離れる。女性にベタベタするなんて、クールじゃないからな。
俺を横目で一瞥すると、女性は階段を登ってゆく。
「まったく、ヒヤヒヤさせないで頂戴。貴方、本当に進化種なの?」
「エヴォ?いや、俺の名前は三蔵 正宗だぞ?」
彼女の呆れたような問いに、精一杯の回答をする。
が、その答えはお門違いだったらしく、彼女は登る脚を止め、溜め息。そして気だるげな目のまま振り返った。
「もういいわ、私のアトリエに来なさい。そこで話してあげるわ、進化種のこと」
彼女はそういって、俺を手招きする。
嫌な予感を全身で感じながら、俺はただ、黙ってそれに付いていった。
この場合進化種と記入し続けるべきか、エヴォリアで通していいのか、分からんねぇなこれ