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友の時間 1/1

 楓が立ち去った部屋。椅子には大天狗が座っていて、そこへ浮かんだ湯呑が近寄ってきた。大天狗はそれを手に取り、喉を潤す。

 

「大天狗様、教えてあげなくてよかったの?」

 

 誰もいなかったはずの部屋の隅から、突如として声が聞こえてきた。続いて可愛らしい少女が、狐の耳と尻尾を有する天狐が姿を現す。

 

「あれが限度じゃ」

 

「管理は酒呑様だよね? だったら大天狗様が知っていることを教えたところで問題ないんじゃないの?」

 

 大天狗に近寄った天狐はね~ね~と問うように顔を覗く。

 

「酒呑が受け持っているだけで私に責任がないというわけではないからの。それに、だ。知っているはずの親しいものに聞かぬあやつが気に食わなかった」

 

「いや~……でもさ、イザナミ様は酒呑様と似たようなものだよね? だったら聞いても意味がないって、楓なら理解してると思うよ?」

 

 天狐は苦笑いを浮かべて、そう言った。

 そんな天狐を見て、大天狗は自分の隣の椅子をぽんぽんと叩く。同時に奥へ続くドアが開き、そこから浮いた湯呑が近寄ってきた。

 

「イザナミが話すわけがなかろう。あやつに聞くくらいならば、酒呑に聞いたほうがなんぼか可能性があるわ」

 

「だよね? だったら大天狗様で間違ってなかったってことにならない?」

 

 大天狗が示す通り椅子に座った天狐は、近寄ってきた湯呑を手にとって喉を潤す。

 

「わからぬならいい。それはそうと、なぜ楓が扉を調べているかわかるかの?」

 

「けちんぼ。えっと、理由はサリアちゃんだよね? だってガンマだもん」

 

「金狐に聞いたのだがの、あやつは死ぬらしい。死の間際を停止という法をもちいて強引に生きている状況とでも言えばいいか」

 

「……え? え、どういうこと!?」

 

 天狐は湯呑を放り投げて、立ち上がり、大天狗の肩を握り締める。

 

「呪いだそうな」

 

 空を泳ぐ湯呑は口を天井に向け、テーブルへと着地した。

 

「呪いだったら金狐に任せればいいじゃない! まさか世界が違うからって、金狐が躊躇してるわけじゃないよね!」

 

 天狐の食らうような視線を受けた大天狗は平然としている。普段通りの落ち着いた表情で天狐を見返している。

 

「金狐はサリアを気に入っておるからの、それはない。そもそもが1人で抱え込むあやつを見かねて、私が無理に聞き出したのだ。刑部も気づいてはおったが、やはり私にしか話さんでな」

 

「……じゃあ、なんだっていうの?」

 

 勢いを落ち着かせ、心の中で煮えたぎる思いを覗かせ、天狐は静かに問いかけた。

 

「楓には言っていないようだが、解くことは不可能ではないと。ただし、生き残ったそれはサリアではないと。ぬしならどうする?」

 

「……侵食がそこまで酷いの? なんで、なんでそれで今まで生き残れてるの?」

 

「まあ金狐を止められた天才だからの、魔法か何かしらで抵抗しておったのかもしれん。しかし、金狐が言うには情報体を通して魔法を使っていたそうな。精霊族ともなれる逸材が、なぜそのまま魔法を使わないのか……予想はつく」

 

「だったら、魔法が使えるようになったら生き残れるの?」

 

「無理ではないか。それが叶うのならば、呪い自体が消えているはず。違うのだから呪いの侵食を止めるのがやっとだったのではないか、と私は思っておる」

 

 いまだ諦めを見せない視線を見て、大天狗は笑みをもらした。そして思い返す、いつ以来かと。

 しかし、そんな大天狗を見た天狐はこの状況を笑われていると思い、静かに口を開いた。

 

「何がおかしいの」

 

「なに、ぬしがそこまで肩入れするなどカナエ以来だと思ってな。後悔しておるか?」

 

「……別に。長が他世界に"強く"干渉してはならないっていう決まりは大切だと思ってるから」

 

「面倒な約束事だとは思うが、あやつらを護るためには大切な事ゆえな。許してくれ」

 

 そう言った大天狗は、震え俯く天狐をぎゅっと抱きしめた。

 

「まあ扉にはついて行くし、先に行ければ足くらいは担ってやろう。それで我慢せよ」

 

「……え? それっていいの?」

 

「私はユウの領土に所属しているゆえ、ゲーム内での行動に関しては長に倣う。それに移動する程度で"強い"干渉と捉えられてはたまらんわ」

 

「じゃあ私が行ってもいってこと!?」

 

 期待に満ち溢れた天狐の声が部屋に響き、大天狗の耳を打つが

 

「では楓の領土に所属するか? 無理よな?」

 

「……うん。金狐と刑部がいる大天狗様のところだから、修行って名目で納得されてるだけだもんね」

 

「笑わせるな。このゲーム内において、どこに所属するかを縛る決まり事など無い。ぬしが動けぬのはぬしの所為よ」

 

 優しげに諭すような声音は一転、静かでありながら厳しく叱るような声音に変化した。天狐はその声を聞きビクッっと身体を震わせて……口を開く。

 

「もう寝る」

 

「おい、帰らぬか」

 

 寝ると言って奥へ向かおうとした天狐の肩を、大天狗はがっしりと掴む。

 

「こんな時間に可愛い女の子が歩いてたら危ないからさ? 大丈夫、ユウはいつでも泊まっていけばいいって言ってくれたから」

 

「いつの間に……というか、どこで寝るつもりか?」

 

「大天狗様の部屋か、ユウの部屋。イナバの部屋は危ないからダメだって」

 

「妖界の長の1人、天狐をして危ないとは……むしろ気になるぞ」

 

 肩を離された天狐は足取りゆっくりとドアの奥へ消えていった。

 

「……はぁ。狐は人を化かして楽しむくせに、なぜ気に入った相手には尽くすのか。やはり単に寂しがりだからという予想は間違っておらぬのか?」

 

 腕を組んでむぅ~と唸った大天狗は立ち上がり、天狐がくぐったドアへ向けて足を進める。


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