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くじびき 2/x

アクセス記録を見てみたら、継続的に読んでくれている人がいそうでした。

なので念のため。当初の予定通り5/週の投稿は守りますのでご安心ください。今週は土・日も投稿します。

……私の週は月曜から始まるのです(´・ω・`)

「おまたせ! 2回分にしかならなかったけど、用意できたよ!」

 

 肩を揺らすサリアが、こちらに情報アクセサリーを突き出してきました。適正価格よりもかなり安く売っていたのは見えていましたが、あれはサリアが悪いです。「これでくじを引きたいの」なんて言われれば、それができる価格でしか買い取ってもらえないでしょうに。そのうえサリアが去った後で「いらなかったんだがねぇ。まあ急いでたみたいだし、こっちは損がないからいいか」と呟いている姿を見れば、優しさから買い取ったようにしか思えません。

 というかこのくじ、値段から考えればほとんど当たらないのではないですかねぇ。ハズレもありますし。

 

「イナバのために、ありがとう」

 

 困ったような、謝るような笑顔でお礼を告げるユウ。さっき『ドーナツ』とか言ってたのは誰でしたっけ。

 

「ううん。イナバちゃんにはカマキリから助けてもらったから、これはもともとイナバちゃんのもの。だから気にせず、欲しいものを狙ってね」

 

 微笑むサリアが突き出している情報アクセサリーに、私の情報アクセサリーを触れさせます。視覚拡張により『カロリーの移譲が提示されています。受け取りますか?』と表示されたので、腕で『はい』に触れることにより了承を示しました。

 

「うん? なにをしているの?」

 

「さっき教えてもらったんだけど、この街の通貨は情報アクセサリーを通じて管理システムにアクセスしてやり取りするみたい。他の情報体を扱う感じで街に繋がる端末を起動してメニューを開いて、そこから色々できるんだって」

 

 可愛らしく首を傾げたユウにサリアが説明をします。通貨の単位がカロリーなのはきっと、消費しろということでしょうね。

 

「そうなんだ。教えてくれてありがとう」

 

「えへへ。チェスではあんまり役に立てなかったから、役に立てて嬉しいかな」

 

 実はサリアが最後から4番目なんですよね、負けてしまったのは。あれ自体がどう考えても実力以上の敵を差し向けられている気がしたので、そこまで気にする必要はないかと。まあ伝えませんけど。

 

「さあイナバ、引いてみようか」

 

 2人並んで店先へと移動すれば、視覚拡張を利用した仮想ウィンドウが表示されました。その中にある『くじ引き券』を購入して、いざゆかんです。

 ユウに抱きかかえられたままで腕を伸ばし、長テーブルに乗っているがらがらの回し手を掴みます。そしてがらがらがらと回してみれば見事、水色の玉がコロコロと転がり出てきました。直後、から~んから~んとベルの音が響き渡ります。音に驚いたのか通行人も足を止め、こちらに視線を向けました。

 

『5等、ドーナツセットが当たりました!』

 

 快活そうな女性の声が響き渡ります。宣伝に利用された気分ですが、まあこういう仕様なのでしょう。それよりもドーナツですよ、ドーナツ。当ててしまいましたよ、本命よりも先に。

 

「どーなつ? なにかな?」

 

「これがアルファ世界のものなら、甘くて美味しいお菓子だと思うよ」

 

 長テーブルのがらがら、その横にぽんっと出現した白く横長の箱。中からは甘い匂いが漂い、食欲を刺激してきます。

 

「とりあえず私が持っておくね」

 

 ありがたい申し出に『ありがとうございます』と空中に描いておきます。ユウは私を預けられて両手が塞がっていますし、私が運ぼうにも引きずるしかないように見えますからね。

 サリアが箱を持ち上げたところで再びがらがらの回し手を掴み、回します。がらがらがらと音を立てて回るがらがらから、次はオレンジ色の玉が転がり出てきました。再び鳴り響くベルの音に通行人が足を止めます。先程から見ており、この場から離れていない人も1人や2人ではありません。

 

『2等、情報体が当たりました!』

 

 先程と違い、足を止めた人達から呟きが聞こえてきます。「おお~」や「いいな~」や、「あれって当たるんだね」など。まあ当たりはするでしょう、この場所に設置できているのですから。

 

「すっご~い! 大当たりだよ、大当たり! イナバちゃん凄い!」

 

 当てた私よりもサリアのほうがはしゃいでくれていますね。拡張視野に表示された景品となる情報体の一覧から狼男の情報体を選べば、情報アクセサリーに情報体が追加されたのが確認できました。怪しければ弾こうかと思っていましたが、欠損すら無い完成された狼男の情報体であり、街に入った時に接続しておいた街の基幹システムを経由して送られてきたので大丈夫でしょう。この街の基幹システムは信じるに値するできをしているようですから。

 

「イナバ、どれを選んだの?」

 

「やっぱり人魚? それとも半妖精?」

 

『秘密です』

 

 空中にそんな文字を描き答えます。人魚も半妖精も完全な人型にはできませんからね、選びません。それに狼男は完全な人型を有するだけでなく、便利な能力が備わっていますからね。

 さて、ここでお礼を言いたいところですがそれは後にしましょう。

 

『お待たせしました』『ドーナツはおやつの時間に皆で食べましょう』

 

 空中に描く文字を切り替え、2人に部屋へ行くことを促します。

 

「ええ」

 

 嬉しそうなサリアが開いている手でユウの腕を取り、歩き始めました。そんな彼女を見て、私も少しだけ嬉しくなります。これならもう少し踏み込んでもいいでしょうか、魔物を前にした彼女の表情の意味について。

 

 

 

 街の中央にある大きめの噴水、そのすぐ傍できょろきょろと周囲を見渡す少女が1人。近くで苦笑いを浮かべる可愛い少年が1人。少年の足元で空を見上げる兎が1人。

 ええ、迷いました。サリアが、ですが。

 

「高級な宿は街の中央にあると思ってたんだけど……」

 

 肩をがっくりと落としたサリアの呟きは間違っているとはいえないでしょう。街の中央はある意味、魔物から最も遠い場所になるので価値のあるものを置くには適しているともいえるのですから。

 

「そこの子ら、どうしたのかえ?」

 

 可愛らしく、それでいて芯を感じさせる声。サリアがそちらに顔を向けてみれば、そこでは小さな少女がこちらを向いて立っていました。

 肩上までの黒髪に、澄んだ黒い瞳。身長はユウよりも少し高い程度でしょうか。見た目だけで考えれば小学校を卒業するかどうかですが、様々な種族が混じり合うこの場所で萎縮することのない様子と、身に纏う黒を貴重とした着物を着こなしている様子から見た目通りの年齢とは思えません。

 

「えっとね、宿を探しているの。お嬢ちゃん、『たこ焼き発生源』っていう名前の宿の場所を知らないかな?」

 

 今更ですが、凄いセンスの名前ですよね。これに反応を示せばアルファ世界からのログイン者である可能性が高そうです。

 

「そこなら、ここから東……ではなく、あちらの方に行けば大きな家屋が見えるゆえ、そこに向かうと良い」

 

 噴水から伸びる道の1つを指差し、「それにしても愉快な名前じゃの」と続けてくっくっくっと笑う黒髪の少女。なんだか引っかかりを感じますが、まあ急ぐ必要はなさそうですので放置です。

 

「教えてくれてありがとう。えっと……」

 

 ポケットを探ろうとしたサリアですが、途中でその手は止まります。今の自分が何も持っていない状態だと思いだしたのでしょう。なので足元に移動してドーナツの箱をこんこんと叩きます。

 

「え、いいの?」

 

 頷くことで了承を示します。サリアは"チョコがコーティングされた"ドーナツを同封されていた紙ナプキンで包んで箱から取り出し、黒髪の少女へと差し出します。

 

「ぬっ、ドーナツとは珍しい。返礼と考えてもいいのかえ?」

 

「ええ」

 

「それではありがたくいただくとしようかの。それにしても第3陣でこのタイミング……幸運な子らよ」

 

 笑顔のサリアからドーナツを受け取る黒髪の少女。そのままかぶりつき頬を緩ませる姿は、見た目通りの少女に見えます。

 

「それではの」

 

「ええ、また会うその時まで」

 

 振り向き遠ざかる黒髪の少女をそんな言葉が追いかけます。それは足を止めなかった黒髪の少女に届いたのか、少なくともすぐそばにいたサリアの耳には届かなかったようですが。

 

「それじゃあ宿に向かおうか。イナバ、残念だったね」

 

「え、なにが?」

 

 ユウの言葉に首を傾げるサリアですが、別に知らなくてもいいです。私の狙っていたチョコドーナツが、1つしかなかったそれが黒髪の少女の胃に収まっただけのことですから。

 

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