表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/169

幻破り 1/2

************************************************************

 

 

 

 ご飯ですよと目を覚まし、3度寝の誘惑を振り切って食事部屋へと来てみれば、既にテーブルの上に料理が並んでいて。椅子にはイナバちゃんとユウくんと大天狗が座っていて。そこに見知らぬ姿が1人いる。

 綺麗な金髪と幼さを感じる黒い瞳を持つ、深青色の着物を着ている少女。それでいて不思議な色気と、対象的な元気に遊び回っていそうな雰囲気を併せ持つ、ユウくんよりも少し大きな女の子。

 

「えっと……初めまして? 楓ちゃんの領土に所属しているサリアです」

 

「勢力は気にしないで。今日は大天狗様の知り合いとして呼ばれているから。えっと……『あまつ』でいいかな。気軽にあまつんって呼んでね」

 

 少女『あまつ』はそう言って、きゃはと活発そうに笑う。

 大天狗の知り合いみたいだし魔力の感じが金狐さんや大天狗に似ているから、きっとアルファ2からログインしているのだろう。あそこは年上しか存在しない気がするので、お姉ちゃんを名乗るのはやめておく。

 

「うん、じゃあ『あまつん』って呼ばせてもらうね。ところでこんな朝早くから来たってことは大天狗と街に行くの?」

 

「……そ、そうなの」

 

 不思議な間と微かな苦笑いが私の思考に首を傾げさせる。まさか私にサプライズの用意を……ないか。誕生日なんて教えていないから。

 

「ぬしでも気遣いをするのだな。サリア、今は昼だ」

 

 感心したようにあまつんを見た大天狗は、こちらを向いて驚愕の事実を告げてきた。

 

「あ、あはは。朝にしては量が多いかなって思ってたんだ」

 

 仮想ウィンドウに時計を表示させてみれば正午を超えていて、少しだけ顔が熱くなる。よくよく考えてみれば気づける要素はあったのだ。

 まずテーブルに並んだ料理が軽くというには多いこと。私が心地良い朝陽を受けて2度寝をしたこと。起きてすぐ、つい見てしまった掲示板の書き込み時刻。

 そんなことを並べていきながらも、とりあえず空いている椅子へと座る。

 

「約束はしていないのでしょう? それなら気にする必要はありませんよ。常識は前提として動くべきですが、それに縛られすぎるあまり自分を壊してはいけませんから」

 

「そうそう。ここはゲームなんだから、好きに過ごせばいいよ。まあ人の迷惑も無視してってわけにはいかないけどね」

 

 イナバちゃんとユウくんの優しい言葉が心に染みるようだ。もう、バッチリと甘やかしてほしい。

 と甘さを噛み締めていたが、目の前の料理を見て気づく。

 

「って、ごめんね。私を待っててくれたんだよね」

 

 慌てて立ち上がり、頭を下げようとすればそれは叶わない。ふんわりとした空気の壁のようなものに阻まれている気がする。

 

「ぬしと一緒に食べたいから、私達が"勝手に"待っておったのだ。それよりも早く食べようぞ」

 

 その声に顔を向ければ、大天狗が優しく笑ってくれていた。

 なんというか……自分が焦っているのが実感できてしまう。他の皆に余裕があるだけというのは理解できているが、それでも自分の焦りが際立って見えてしまっている気がして……。

 

「ほら、座ってください」

 

 後ろからそう聞こえれば、暖かな手が肩を掴んで座るように導いてくれた。

 

「じゃあ、いっただっきま~す!」

 

 無邪気な声が響けば、追うように3つの声も続いて。最後に私が続いて箸を取る。

 

「う~ん、おいっしい!」

 

 弾けるような声につい笑ってしまう。そう、イナバちゃんの料理はとても美味しいのだ。普通の美味しいではなくて、普通じゃない美味しいでもなくて、なんというか……そう、ユウくんと楓ちゃんを足して良いところだけを残したような感じだろうか。

 そうは言っても誰の料理が一番美味しいかと聞かれれば、きっとユウくんの料理と答えるけど。

 

「え、なに。大天狗様は毎日これを食べられるの? ずるくない?」

 

「私はそのぶん掃除をするからの」

 

 勝ち誇った表情の大天狗を見れば穏やかな気持ちになれた。

 ある程度の歳を知っていても、その小さめな身体も相まってとても可愛い。ちゃん付けで呼びたいけど、ちょっと呼べる年齢ではない。だからといって様付は『いらぬ』と言われたから、結局はユウくんに倣って大天狗で落ち着いた。

 

「して、てん……あまつよ。今日は何用だ?」

 

「ん~挨拶に来ただけだよ。というか君、ユウくん。どこかで会ったことがない?」

 

 あまつんはユウくんを見て、そう言った。

 街のどこかで会った、見かけた、ということだろうか。

 

「どうだろうね。でもあなたが覚えていないのなら、きっと会っていないよ」

 

「気になる言い方をするね」

 

「こやつらはこんなものだ。気にするだけ無駄というものよ」

 

 そう言った大天狗は再び料理を食べ進める。というか料理を食べながら"口を開けずに"喋っている時があるけど、なぜか皆にそれが見られるけど、どういうことだろうか。特に魔法が使えないはずのユウくん。

 そんなことを考えていれば突然、仮想ウィンドウで着信の通知が主張を始めた。相手はイナバちゃんだったので迷わず許可しておく。

 

『サリア、幻想破りは扱えますか?』

 

『幻想破り……? ああ、幻系統の魔法に対する手段かな。うん、使えるよ』

 

 さすがにこちらの世界だからといって遊んでばかりはいない。戦う時に備えて、魔法の情報体は集めている。その中に属性無しのものがあり、それを通せば系統外の魔法も実用的な魔力量と難易度で扱えたので、幻に対する魔法も使えるはずだ。

 

『試されているようなので受けてみてください』

 

 イナバちゃんはそれだけを言い残して通信を切断した。当然、頭の中はハテナで埋め尽くされる。

 幻系統に対する魔法はただ使えば見破れるものではなく、魔法を組み合わせてきちんと対応した上で発動させなければならない。イナバちゃんの言葉をそのまま受け取るなら、この場で幻魔法が発動していて、それを見破ることになるのだが……まあ無理だろう。対応した魔法は使えるが、その事前情報を得ることができないのだから。

 魔法一辺倒が『これだから』と言われる所以でもある。『魔法とは手段の部品でしかない』とは誰の言葉だったか。まあ魔法が大好きなエルフだろう。

 と、そんな事を考えていればあまつんに見つめられていた。どうやら考え事に熱中して箸の動きを止めていたらしい。そう思い料理へと箸を伸ばせば

 

「サリアは精霊族だよね?」

 

 と聞かれた。

 これは何度か言われたことがある。

 

「違うよ。私は妖精族。パパもママも妖精族だし、間違いないよ」

 

 どうやら私には精霊族に見える部分があるようだ。それでも私の世界自体に精霊族が存在しない。そのうえ両親ともに妖精族なので、精霊族の可能性は無いはずだ。

 

「なに、そうなのか? 私も精霊族だと思っていたぞ」

 

 大天狗が箸を止めてこちらを見る。

 

「あまつに大天狗、あなた達の種族が最も曖昧なのですから、そこまでにしておいてください」

 

「そうだね。種族はそこに住む人達が決めた記号でしかないのだから、本当に知りたければよく見たほうがいいよ」

 

 種族は記号、その言葉を聞いてたしかにと納得してしまった。

 ハッキリいえば人族と私達、妖精族の違いなんて背中の羽と魔力適正くらいしかないのだから。そのうえ『王』という例外は妖精族の羽も魔法で再現していたし、魔力適性どころか魔力すら妖精族を上回っている。

 それを考えれば種族は"一般的な"特徴を記号で示したものと言えなくもない。それでも例外さえ除けば種族の特徴は当てはまるのだから……やはり積み重ねてきた知識を活用するには種族を知ったほうがいい。

 ……うん、葵ちゃんだけがこの考えを支持してくれている気がする。最近、そう思うのだ。

 

「あ、ごめんなさい。私達のところは種族が多いからさ、まず知っておいたほうが失敗しにくいの」

 

 あまつんはしょんぼりとした様子でそう言ってくれた。

 世界や地域の差、ということだろう。私も自分の常識がすべての常識だとは思っていない。それどころか私の常識は非常識だとすら思っている。

 

「ううん、私を知ろうとしてれたってことだから嬉しいよ。だからじゃんじゃん聞いて。なんならスリーサイズも教えちゃう!」

 

 そう言って親指をぐっと立てれば

 

「え、男の子の前で教えてくれるの?」

 

 唖然とした表情でそんな言葉が返ってきた。

 ……そうだった、ユウくんが男の子だった。というか同年代の男の子と遊んだ経験なんて無いから、そのへんの線引がわからない。

 

「それは嬉しいけど……サリアさん、自分のスリーサイズ知ってるの?」

 

「ううん、知らないよ」

 

 情報体適正を調べた時のデータに含まれてるらしいけど……あちらは解析はできなかった。まあ同年代の平均程度だろうか。

 

「ああ、私が知っていますよ。必要なら教えておきましょうか?」

 

「うん」

 

 知っておけば役立つ場面があるかもと頷けば、イナバちゃんはユウくんを手招きして、ユウくんは耳を寄せて

 

「え、私にじゃないの!?」

 

 隣りに座っていたユウくんを抱き寄せて止めるしかなかった。今のやりとり、私がおかしかったのだろうか。

 

「なんだ、恥ずかしいのではないか」

 

「最初はなんとも思ってなかったけどなんとなく……まあ言葉の綾ってことにしておいてくれると嬉しいかな」

 

 改めて言われると恥かしいかも、と思ってしまった。やはり男の子相手では経験値が足りないのだ。

 

「その割には抱きしめたままだよね」

 

「え、それは別じゃないの?」

 

 可愛い子を抱きしめて何がおかしいというのか。もう新常識の構築は諦めたい気分になってきた。

 

「ほう。では一緒に湯浴み、はどうか?」

 

 そう訪ねてきた大天狗は興味深そうな様子に見える。

 

「それが普通じゃないことくらいは知ってますぅ~」

 

 頬を膨らませて、そう答えた。

 

「そうか。ぬしがあの中に混じっていられる理由がようわかった。おそらく、うちに混じってもうまくやっていけるだろうよ」

 

 そう言った大天狗は嬉しそうに微笑んでいる。なにがわかったというのか、私にはわからない。それでも大天狗にとって嬉しいことであり、私も褒められて嬉しいので問題はない。

 

「む~」

 

 今度はあまつんが頬を膨らませているが、どうしてだろうか。まさか慕う大天狗を私に取られたと思って……と考えてみたが心の中で首を横に振っておく。

 この子はそんな可愛い性格はしていない。普通に混じろうと、普通にあろうとしているって私でもわかる。

 ……そうか、この子か。

 

「ところでユウよ、ぬしは女性と湯浴みをしても動じそうにないな」

 

「ぼくは「この子は動揺しますし、恥ずかしがりますよ」」

 

 その言葉が、ユウくんの言葉を遮ったイナバちゃんの言葉は考え事をしていても思考に入り込んできた。しかし疑問に思うところはなかったので思考を考え事に戻す。

 

「ほう?」

 

「ただ隠せるだけ。最近、それがよくわかりました」

 

 あの子は妖族で、特徴は人族と変わらなくて……。

 

「では私と湯浴みをするかの?」

 

「いいけど、おそらくあなたじゃあ見破れないよ。ぼくのこれはそこまで甘くない」

 

 でも人と変わらない妖族って少なかったはずで……。

 

「むむ、そうなればより試してみたくなるの」

 

「ああ、大天狗は無理ですよ。もう試したでしょう?」

 

 あのゲームの中に妖怪が出てた気がするから、そこから情報を思い出して……。

 

「じゃあ私と入ってみる? なんちゃって」

 

「あなたはもっと無理ですよ。金狐ならあるいは、と期待していたのですけどね」

 

 サトリ、ぬらりひょん、座敷わらし……違うかな。

 

「え゛……金狐で無理だったなら私には無理かな。あの子って私より幻想耐性が高いからな~」

 

「ふふ。まあ姉さんは特別で、見破れるイナバがおかしいんだけどね」

 

 幻想耐性……幻想、幻覚……。

 

「つまり過ごした時間ではないということか。まあ、ついぞわからなかった私には無理なことよな」

 

「そうでしょうか。あなたのあれは、縛られていたからこその目を瞑っていただけだと思いましたが?」

 

 きつねとたぬき、あとはぬえ。

 

「……ぬし達が特別なだけであろう」

 

 それなら構築は……ちょっと難しいけど、知ってる情報だけで……。

 

「サリアさんならわかると思うよ」

 

「わかった!」

 

 テーブルに手をついて立ち上がれば、皆の視線がこちらに向いていた。会話のほとんどを聞き流していたから、今がどういった流れからのどういった状況なのかわからない。

 ただ

 

「あまつんは狐さんだったんだね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ