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蜂と狐の内緒話 2/2

『……なんだ?』

 

『あ、やっぱり機嫌悪いよね。でも聞いておきたことがあるんだ』

 

『……まあ、天狐様の恩人の恩人で、うちの子達も助けられているからな。問い程度は聞いてやる』

 

『ありがとう。どうして、あの子を1人で行かせたんだい?』

 

『コアを奪って残りが2人だとわかっているし、その2人も攻撃手段に乏しい少女と、魔物にも勝てない副総代だからな。それに彼女は……まあ、あなたになら明かしてもいいか。彼女はサトリだ。圧倒的な力でねじ伏せない限りは見つからないだろう』

 

『……そうか、そういう認識なんだね』

 

『なんだ、気になる言い方をするな。まあこれで問いは終わりだな?』

 

『あとは暇だから話し相手をしてくれると嬉しいんだけど、どうかな?』

 

『そこで油断して手を抜くような真似はしないぞ?』

 

『そんな魂胆はないけど、大天狗が関わっているのだから君は手を抜かないだろう? それに手を抜く抜かないの問題じゃないからね』

 

『……届かぬと知っていても抗うぞ?』

 

『ああ、そういう意味じゃないんだけど……まあ、刑部さんの方が相性は"マシ"だったとは思うよ。あれが切り札なら僕とは相性が悪い』

 

『謙遜か? 相性差が勝敗の要因になるほど実力が近くないと私でも理解しているぞ?』

 

『謙遜じゃなくて……まあ、僕はそんなに強くないからね。あの子が言うには外と内、両方同時に存在できる特異点らしいよ』

 

『外と内? なんだそれは?』

 

『きっと絶対的な壁の外と内だろうね。内にいる限り外には勝てない……みたいな?』

 

『ではあなたには勝てる可能性があると?』

 

『まあ客観的に見て、君では勝てないね。君は勝てる相手と勝てない相手がハッキリとしている、良くも悪くも安定した強さしかもたない。それに比べて楓ちゃんや大天狗は格上に勝てる可能性を秘めていても、格下に負けることもある。というか楓ちゃんは格下に負け過ぎかな』

 

『そこで相性差か。刑部を連れてくれば勝てるか?』

 

『う~ん……多分、刑部さんは来れないかな。うん、絶対に敵に回したくないって改めて認識できたよ』

 

『刑部とはそこまで相性が悪いのか?』

 

『いや、刑部さんじゃなくて……まあいいや。ところで残ってる2人についてはどこまで知ってる?』

 

『1人が時雨という少女で防御系統の能力がとても高いと聞いているな。なんでも攻撃から避けていく、悪運を避ける情報体を始まりに貰ったとか、途中で手に入れたとか。一応、魔物と戦っている姿を確認したが攻撃能力については……第3陣最低かもしれないな。まあそれを防御で釣り合わせていると考えれば、最初に貰える情報体が強力な防御能力を有していても不思議ではないか』

 

『最初の情報体ね~。僕は何も貰えなかったんだけどな』

 

『あれは足りないものを補う祝福のようなものだろう。私も通話の情報体しか貰えなかったぞ』

 

『まあ質問に対する答えによって変えてる節はあるよね。ところで2人目は?』

 

『副総代だな。可愛い少年だ』

 

『……ああ~君か』

 

『何がだ?』

 

『たぶん大天狗に報告したよね? そこでも違和感を感じなかった?』

 

『たしかに感じたが……うん? なぜ私は可愛い少年で調査を打ち切っているんだ?』

 

『まあ別人かもしれないからね。今から写真を送るけど、その子を見たことはある?』

 

『……ああ、知っているな。ドウシが共有してくれた写真で見たことがある。たしか……第3陣のチュートリアル最終日に突破して、噴水広場にいた子達だったはずだ』

 

『ドウシ? 仲間ではなくて?』

 

『ああ。あれ以来、その子の写真は共有がなくてな。もう居なくなってしまったのかと不安に思っていたところだ』

 

『なんだか、深月が似たことを言っていた気がするけど……』

 

『ドウシかもしれないが、別の枠かもしれない。ところでこの少年に会った記憶はないが?』

 

『ああ、君は本質を知りたいのか。まあそれは置いておいて……ああ、いいのか。それじゃあ、君が噂として聞いた内容を隣で話していたのがその子だよ』

 

『……そうだが?』

 

『言ってておかしいと思わない、か。まあ僕もちょっと意味がわからないからね』

 

『……いや、待て。たしか可愛い少女だったはずだが?』

 

『どう? 興味が湧いたよね?』

 

『……しかし話す機会は遙か先だろう。なにせ、私が所属する領土を潰したのだからな』

 

『それは解決してるかな。むしろ君達が……ああ、そろそろ連絡が来た?』

 

『……まあ、そうなってしまったものはしかたがない。刑部が止められなかったのなら納得するさ』

 

『相変わらず刑部さんと仲が良いね』

 

『まあ唯一の同期で、競い合った仲でもある。これで険悪ならば、私は別の里に移っていただろうな』

 

『大天狗のもとを離れて?』

 

『……それよりも、あなたこそ仲睦まじいらしいではないか。総代に、元主神に、天狐様の恩人から想いを寄せられているのだろう?』

 

『あれ、それどこで聞いたの?』

 

『黒音様などべったりではないか。何を今更……』

 

『いやいや、黒音が元主神だってところ』

 

『ああ、それか。情報通のドウシに聞いたのだ。しかし元主神であったとしても可愛い方だな。クリームを口元につけている姿など、評判が良かったぞ』

 

『……それを気軽に明かしてくるのか。やっぱりあの子は君を好んでいるんだね』

 

『なに、私は好かれているのか? 誰だ、教えてくれ』

 

『ほら、この子だよ。それよりも複数人で見てたのか?』

 

『まあ気にするな。悪いようにはしていな……なんだこの可愛く尊い光景は。うまく加工したものだが……これで口を割れということか?』

 

『いや、なんでそうなるんだい? その膝枕してる子が件の子だよ』

 

『……そうか。大天狗様が、このような表情を浮かべておられるのか』

 

『それを見た時、つい笑ってしまってね。誤解されるとは思ったけど、あれは嬉しい光景だったから、ついね』

 

『……あなたは大天狗様を救うために待っていてくれたのか?』

 

『そのつもりだったけど、救うは間違っているよ。僕に彼女は救えなかった。だから今まで傍観していたんだけど……本当に危ない状況なのは知っていた』

 

『どういうことだ?』

 

『大天狗がどこに向かおうとしていたか、知っているかい?』

 

『日本領土内の……おそらく、現実の日本に繋がる門ではないか?』

 

『そのあとは?』

 

『まあ、想像はつくさ。しかしあなたと、イザナミ様から逃れて門につけるとは思わない』

 

『……今回、イザナミ様は"見過ごす"つもりだったと思うんだ。だから僕が依頼という形で君達を止めに来たんだ』

 

『イザナミ様が、日本国民に及ぶ危険を放置する? 馬鹿話も大概にしろ』

 

『君もそうなんだね』

 

『……私は間違っているのか?』

 

『正しいよ。正しさしか見ていないから、その光しか見えていないから……まあ、気にする必要はないかな。あれはイザナミ様が望んだ光景なんだから』

 

『……強い方達は、そうやっていつも隠す。あなたも、イザナミ様も、大天狗様も』

 

『それは僕自身も感じたことがあるな。それを相談したらね、こう言われたよ。『知ってほしいから隠すんだ』ってね』

 

『知ってほしいから、か。それにしても、あなたもそんなことを感じた時期があったのだな』

 

『最初から外側にいる人を見たことはないね』

 

『……失礼した。この頃、大天狗様の影すら見えなくてイライラしていたのかもしれないな。これが終わったらゆっくり休む……とはいかないか』

 

『え……ああ、伝言だ。そうやって無茶をすると眠らせちゃうぞ♪ だと』

 

『申し訳ないが、似合わないな。それはおいておいて、誰からだ? もしかしてあなたの仲間が見守っているのか?』

 

『いや、大天狗に膝枕してる子だよ。あの子も千里眼で見てることには気づいているからね』

 

『……よくわからないな。傍受か?』

 

『君ならわかるだろう、これを傍受することの難しさが。真白が頭を抱えていたよ』

 

『まあ、そうだろうな。これは通信の到達点の1つと言っていいほど、できが良い。しかし接続していれば私にわかるのだから……やはりよくわからない。まあ通信しているのなら返答を贈ろうか、気持ちだけで良いとな』

 

『いや、通信はしてない……というか、僕はあの子の接続情報を知らないからね。眠らせられた後にでも伝えてくれ、笑ってあげるから』

 

『通信をしていない? ならば読唇術か』

 

『いやいや、千里眼って音も拾えるからね』

 

『……え?』

 

『"振動を見える"のだから音は拾えるよ。まあ千里眼って遠方を把握する能力の総称みたいな意味合いで使ってるから、どうやって把握しているかで差は出るかな?』

 

『待て……待て……おお、本当にできた。やはり柔軟な発想というものは凄いものだな』

 

『……これだから天才は』

 

『発想を得てから、どれくらいかかったのだ?』

 

『まあすぐできたよ。今の言葉は真白や陽介のだし』

 

『……これだから天才は』

 

『一瞬でできた人に言われたくはないね。まあ後追いだから、本当の天才は最初に……いや、自力で見つけた人達か』

 

『習ってできても秀才でしかないからな』

 

『……なっ!?』

 

『ど、どうした?』

 

『……いや、これは……まあ、君にも相談があるかもしれない。ただまあ……戦うことしかできない僕には羨ましく思えることだよ』

 

『短い期間で多くを救ってきた者がよく言うよ』

 

『それでも救えなかった人達はいるからね。大天狗も、イザナミ様も、そして君も』

 

『……あれで救われていないと言ったら、誰にも知られず死んでいった同胞に申し訳がない』

 

『君を止めたのは僕だけど、君を救ったのは僕じゃない』

 

『……あなたが止めなければ、止めてくれなければ今頃、私は大天狗様のもとを去っていた。それは救われた、と言っていいはずだ』

 

『最初は仕留めるつもりだったんだ』

 

『結果として助かったのだから良いではないか』

 

『言葉を変えよう。僕達には、君を殺して止める以外の方法が思い浮かばなかった』

 

『……ええい、ぐちぐち言うな。救った者は、救われた者の感謝を受ける義務があるのだ。要らないものではないのだから、素直に受け取っておけ』

 

『それを救ってくれた者に伝えてほしい、と言いたかったんだ。多分ね』

 

『あなたが手伝ったのは事実なのだろう?』

 

『……これは僕の我が儘なんだ。陽介も深月も救ったことに違いはないと言ってくれるが……まあ気にしないでくれ』

 

『譲れないこだわりのようなものか? まあ、救われた私がどうこう言うことではないな。それよりも……本当は誰が救ってくれたんだ? 当然、教えてくれるのだろう?』

 

『あはは、教えないさ。当然だろう?』

 

『……いい度胸ではないか。よもや私が無意識に手を抜かないようにと謀ってくれるとはな』

 

『君は既に感謝を伝えているんだから、あとは言葉で伝えられるかどうかに過ぎない。願うなら、言葉で伝えられますようにということさ』

 

『どういう意味……と聞いても意味はないんだろう?』

 

『じゃあ意味があったことにしよう。君の望みなど聞いてくれないよ、きっとね』

 

『よけい分からなくなったが……まあヒントなのだろうから感謝しておく』

 

『まあ僕の我が儘でもあるんだから気にしないでくれ。さて、話はここまでにして戦いに備えていようか』

 

『ああ、そうするか。なんだか悩み事を増やされた感じがしないでもないが……まあ、暇潰しにはなった』


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