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狐が2人で 1/1

********************

 

 

 

 第3陣は知らない『ダンジョン』へと繋がるゲートが収められた建物の中、金髪からちょこんと狐の耳を覗かせる女性『金弧』は見知った人物を見かけた。

 

「天狐様、お久しぶりです」

 

「あら、金弧じゃない。1人でこんなところに来てるなんて珍しいわね」

 

 応えたのは妖美な金髪といたずらが好きそうな黒色の瞳を持つ、中学生程度の身体を白雪色を貴重とした着物で飾る少女『天狐』。

 大天狗にはいたずらばかりする彼女だが、"下の"同族に対しては基本的に優しく接する。強いだけの長は要らないし、認められない。

 

「なんだか『夢』のダンジョンが発生したと聞きまして。大天狗様からは『まだ、やめておけ』と言われているので情報だけでも集まらないかな、と」

 

 金弧は天狐の問いに笑顔で答えた。その様子を見て微笑んだ天狐は表情を暗くする。してしまった。だから金弧は続く言葉で問いかける。

 

「どうされました?」

 

 それは純粋な心配であり、同時に長に何かあっては大変だという考えからでもあった。

 長は絶対ではない、妖界の集まりも絶対ではない。中にはその地位を狙ったり、長に恨みを持っていたりする者もいないわけではないのだ。

 

「……大天狗の動きには気をつけなさい」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 言葉だけを受け取れば、金弧は激怒するだろう。

 表情だけを受け取れば、金弧はすぐさま動き出しただろう。

 その2つが組み合わさったからこそ、金弧は問い返すという冷静な判断ができた。

 

「あなたには言えないわ。ただ、私も大天狗には恩があるから……まあ、あなたにだけは忠告しておくの。なにもなければ私のいたずらだったってことでいいじゃない」

 

「……いえ、信じます」

 

 僅かに考えた様子を見せた金弧は、にっこりと笑ってそう言った。

 天狐が大天狗にどのような恩を受けたのかは知らない。それでも天狐の本性が優しいということは知っていた。目の前の同族が頬を僅かに染めて、それでも暗い顔をしているように見えた。

 それだけあれば信じるに足るだろう、と。

 

「そもそも、あなた様が大天狗様以外にいたずらすることなど、ほとんどないでしょうに」

 

 そう言った金弧は口元を手で隠してくすくすと笑う。

 

「……私はそれしか知らないのよ。あの方が1人にならないように、私に目を向けて貰う方法を、それしか知らないのよ」

 

 天狐は悲しそうに、そう呟いた。

 金弧は天狐の過去を知らない。突然、長候補として紹介されたと思えば長になれたのだから。その時点で、それだけの力と知恵と心を備えていたのだ。

 

「酒呑様は放任主義だし……でも、あなたがいれば安心だと思ってた。それが私の気のせいにならないように、お願いね」

 

「……任されました。貴重な言葉、ありがとうございます」

 

 そう言い終えた金弧は恭しく礼をする。

 それと同時に長と候補の違いをハッキリと自覚した。遊び回っているようですべてに目を向けているのが長であり、全力を尽くしてなお見逃してしまうから候補止まりなのだと。

 

「まあ、あんまりに手を焼くようだったら言って。それは長として動けるから」

 

「はい。ですが、そうならないように頑張りますね」

 

 笑顔でそう言った金弧は、手を振って天狐と別れる。

 その後姿を見つめる天狐は誰にも聞こえないように、こっそりと口を開いた。

 

「私では無理でも、あなたなら……」

 

 願うような呟きは風に消える。

 金弧が天狐を知らないように、天狐は大天狗を知らない。なぜあそこまで英雄や勇者に固執するのか、その理由を知らないのだ。

 最も古くから居たもう1人の長や、本来ならば長になるはずだった1人であれば知っているかもしれないと天狐は思っていたが、その2人を動かすことはできない。

 そもそも知っていて動かないのならば、動かせるはずがない。

 

 天狐は諦めたように溜息を付いて、振り返る。

 金弧が口にしていた『夢』を調べにきたのだが、気が削がれたのだ。そのため気分を持ち上げるため2つの道を検討する。

 1つは『救いの勇者』に会いに行くこと。

 1つは『安らぎの歌』を聴きに行くこと。

 しかし、そのどちらも無理だろうと首を横に振る。勇者は何かを調べ回っているようだし、歌姫は見つけられるものではない。そうであればと思考を巡らせて……結局、新しくできた領土の長を化かしに行くことにした。

 ようは顔見せなのだ。これが天狐にとっての、挨拶なのだ。

 そうと決まれば即行動。天狐はダンジョンの館を後にする。


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