ドゥ王国襲撃
その耳を疑う報告がもたらされたのは、年々下がる税の報告に大臣達を一喝している時であった。
「何故こんなに税収が下がっているのだ!ちゃんと家の中まで捜索して取り立てておるのだろうな!」
「はっ!勿論でございます!」
「では何故、毎年税収が減るなどという事が起こるのだ!」
「それは…年々王都の人口が減っておりますので、それに伴って税収も…」
「ならば、近くの村から連れてくれば良いではないか、この国に住めるとなれば喜び勇んで付いてこよう」
「それが…近くにある村は、以前追放した者達が住まう村一つだけしか残っておらず、しかもその村の住民で王都に戻って来たい者は一人もおりませんでした」
「何だと?どう言う事だ?」
「どうにもおかしな話しがありまして…」
曰く、100を超える数の獣を一人で屠った。
曰く、15mを超える魔物を一瞬で倒した。
曰く、一夜にして村を囲う城壁に勝るとも劣らない壁を造った。
曰く、見たことも無い兵器を幾つも造り出し村を要塞化した。
曰く、女神に力を与えられ、女神の願いを叶える為にこの世界に遣わされた、女神の使途。
その者の名は ″魔導師クロゥ″
「ふん!ばかばかしい!」
「しかし現に、村の周りに高い壁が出来ているのは確認されております…」
「ならばそのクロゥとかいう者を、ここに連れて来るのだ!どんな手段を使っても構わん!」
我は、もしもその話しが本当だった時の事を考える。
その様な力が手に入れば、城壁の拡張や軍備を増強をし、周囲の魔物を殲滅した後は領土の拡大を行い。
行く行くは巨大王国の国王として、栄華を極める事も夢ではないかもしれない。
数日後、魔導師クロゥの身柄を確保したと連絡が入る。
喜び勇んで待っていると現れたのは、怪しい雰囲気をした白いマントを纏った男であった。
いきなり爆弾を爆発させ、屈強な兵士に囲まれても、男は常に笑顔を浮かべていた。
内心では何か得体の知れない物を感じていたが、多くの兵士達に守られているので、身の安全は確保されていると高を括っていた。
目の前の男だけではない、魔物に対しても、高く分厚い壁を持ち、大きな軍事力を持って幾度となく敵を退けてきた自負がある。
だからその光景を見ても信じられなかった、自分であれば四獣帝すら退けられると思っていたのだから。
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閃光と爆音が収まると同時に、一人の兵士が転がり込むように謁見の間に飛び込んできた。
「敵襲!敵襲!巨大な魔物が城壁を破り街なかに侵入!真っ直ぐ王城へ進んでいます!」
「「「なっ!?」」」
「ちっ」
その報告を聞き、呆けているヤツらを尻目に謁見の間を出ると、大急ぎでイリナの居る部屋へと走る。
「イリナ無事か!?」
名前を呼びながら部屋へ入ると、勢いよくイリナが胸の中に飛び込んできた。
イリナの頭を撫でながら部屋の中を見回すと、兵士が3人ほど倒れていた。
「大丈夫か?怪我は無いか?コイツらヤっとくか?」
「(ふるふる)大丈夫…連れて行かれそうになった…から…眠らせた」
倒れている兵士に黒い感情を抱いているとイリナに止められたので、怪我などが無いか確認すると、連れ立って王城を足早に出る。
外はまさにパニック状態、人々は逃げ惑い、女子供は泣き叫び、兵士は怒号を上げていた。
時折、閃光と轟音が降り注ぐなか、なるべく王城から遠く、高い建物に登った。
「ああ、これはダメだな…」
「…(ぷるぷる)」
そこに見えたのは、まさに絶望と言うに相応しいモノであった。