外れ者
先日始めて評価をいただいたようで、本当にありがとうございます!小説を書くのは初めてですのであんまり面白くはないかと思いますが、こうして読んでいただいているのだと思うととても励みになります。
精進いたしますね。
元々、そういう風潮が嫌いだった。人付き合いに興味もなかった。だからあの時も断った、それだけ。
「お前が牡丹か。期待してるぞ、よろしく」
愛宕権現とは八大天狗と呼ばれる、所謂大妖怪の一角を占める天狗の大御所の内の一人であるが、当時私が入学した際はその孫にあたる跡取りが学園内天狗界の総まとめをやっていた。
初日、当然のようにそういった風に声をかけられた私は、かつて学園に通っていた我が父からこの風習を聞いていただけにげんなりとした気持ちでその跡取り息子を見つめていた。
「期待しているとは、どういった意味合いでとらえれば?」
グループに入らないことは、入学前から決めていた。大した理由もない、ただ自分の身を守るだけの強さは身に着けている自信があったし、他人相手に媚びを売る生活などまっぴらごめんと思ったから。
予想外の返答だったのだろう、その彼、一宕はちょっと目を見開いてからすっと鋭く私を見下ろした。
「言葉通りの意味だ。確かお前の父、東三もここの出身であったと聞いている__分からないはずがないだろう」
「そうかもしれませんね。……それで分からないはずがないとして、敢えて聞いてるとするならば__それがどういう意味だか、汲んでいただけますよね?」
楯突きたいわけではない、ただ平穏な日々が欲しいだけ。そう言う意味を込めて頭を下げる。
その行為は、屈することとは違う。強いものに敬意を見せるという、それだけ。その強さが生まれつきであれなんであれ、相手が強者であれば敬意を払え__それは礼儀だ。それは小さなころからそうやって、父に繰り返し教えられてきた。
首筋あたりに、強い視線がジッと注がれているのが分かった。ふっとそれが反れたと思うと同時に一宕が口を開く。
「いいだろう、好きにしなさい」
それだけ言うと、彼はくるりと踵を返してその場を去った。その声に怒気はなく、面白いやつだと言外に言われたような気さえした。
彼は確かに高慢であったが、今思えば、いわばリーズナブルな高慢であった。元来天狗というのが高慢な生き物であることを考えれば、彼のその対応は天狗にしては上出来であったと言えるだろう。
かくいう私もそのように彼を批評できる立場ではないのだから、ある程度はこういう、天狗らしい高慢さを持っているのである。
__しかしその夜、寮に戻った私が入学以前からの知人であり同じタイミングで入学した弥一も狐のグループへの加入を断ったと聞いた時、この私でもそれなりに驚いたものであった。
余談だが、初級クラスではどんな生徒もBランク以上にはあがれない。そのため当時はまだ私も弥一も初級クラスのトップ、Cランクに所属していた。部屋では相部屋相手に気兼ねがあるというので寮の談話室でソファに腰を掛けながら弥一と初日の感想交換会をしていた私は、なんでもないことのように狐グループに入らなかったと告げる弥一に驚いて目を見開いた。
「なんでまたそんな思い切ったことを……。君は私と違ってそういう対人関係もソツなくこなせるんだから、その中で適当にやっておけば楽出来たろうに」
あはは、と控えめに笑って彼は首を傾げた。
「でもさ、私、人に頼み事するのとか苦手だし。多分入っても私が他の子たちの面倒見るだけで終わっちゃいそうだなぁと思ってね」
それに私だって自分の身くらい自分で守れるよ、と、そう言って事もなげに彼は肩を竦めた。
確かに一理あるかもしれない、理屈ではそう思った。実際、弥一は平安時代から続く名家の出であるし他の妖怪に襲われる心配はまずないと考えていい。それに彼のいう通り、強い癖に他人に対して驕ることを知らない彼には、下位の妖怪たちを守ってやることはあっても他の高位のように彼らを使うことはできないだろう。それは容易に想像がつく。
けれども、そんな単純な利害だけでグループ加入の拒否なんて、やりづらいなんてものじゃなかったはずだ。
入学したらどこかしらのグループでそこでの利益を得ながら生きる。そういうシステムが組みあがった中では、なんていうかこう、社会的重圧というか、そういうものも確かにあるのだ。だが、
「それにさ、牡丹だって人嫌いってだけで断ってるんだし、私と大差ないよねぇ」
にっこりとそう言われては確かに反論する術もない。私は、久しく忘れていたこの友人の、時々見せる頑固な一面に苦笑するよりほかになかった。
これがそう、私と弥一がいわゆる「外れ者」になった経緯の概略である。
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