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境界  作者: 半透明の空白
2/11

烏天狗かく語りき

そんなわけで昨日から「境界」の連載をさせていただいております、半透明の空白と申します。

日本文化が好きでこんなものをついつい書き始めてしまった次第でありますが、何の因果かイギリス在住だったりします。ので、投稿するときいっつも時差を気にして計算してます。

主人公牡丹がロンドンに出入りしているのもそんな関係があったりするんですね……。ちなみに、イギリスー日本間の時差は冬が9時間、サマータイムが始まると8時間になります。作中の季節はまだ決めていませんが、大体そのあたりでイメージしてもらえるとありがたいかと思います。


それでは第2話、お楽しみください!


 私は名を牡丹という。今年の冬で357歳の誕生日を向かえるといえばもう分かるだろうけれども、人間ではない。

 ところで、人間以外の生き物が人間のごとき繊細微妙な心を持たないと思い込むのは人間の驕りである。そうしてそんな人間どもは得てして了見が狭いと思い込むのが天狗の驕りであり、そんな天狗も人間とさして変わりはあるまいとまとめて意識の屑籠に放り込んでしまった烏天狗が私であった。

 現世では京都とロンドンにアパートを借りており、週末はロンドンのカジノで夜を明かすのが趣味。そんなごくごく普通のどこにでもいる烏天狗。それが私、牡丹である。


 ところで余談ではあるが、自己紹介の度に烏天狗の数え方は「一人」とすべきか「一羽」とすべきかいつも悩んでしまう。「羽が生えているんだから『一羽』じゃないか」と思っていたのだけれども、羽が生えているからと言ってキリスト教徒は天使さまを「一羽二羽」とは数えないからそう単純なものでもないらしい。


 しかしそんなこと今はどうでもよい。どうでも良いと分かっておきながらいちいち気にかけては話を逸らしてしまうから、いつも話したいことに辿りつけなくて困ってしまう。しかしかの発明の才エジソンも子供のころから些細なことを気にして馬鹿にされていたと聞くし、某有名刑事ドラマの主人公である「杉〇右京」さんもよく「細かいことが気になってしまうのが僕の悪い癖で云々」などと言って事件をあざやかに解決へと導いている。かくしてみるならば、私のこの細かいところが気になってしまう右京病とも呼ぶべきこの病は、案外ポジティブに捉えてしかるべきものであるかもしれない。


 ともあれ要点は、私がどこにでもいる普通の烏天狗であるというただそれだけ。烏天狗などというとどうも珍しい、神様かなんぞに選ばれた生き物のように聞こえて仕方がないが、そう思うなら実際この身に生まれてみればいい。100年も経たぬうちに、ああ烏天狗も大したことはないななんて悟りを得られるようになるだろう。

 確かに現世で天狗というのは珍しい存在かもしれない。しかし、それは我々が目立たないように人間のふりをして生きているから人間の目からはちょっと区別がつけられないというだけの話であって、実際、現世で生きる天狗なんてさして珍しいものでもないのである。ついでに言うなら、人間のふりをして現世に混じって暮らしているのは何も天狗に限った話ではない。そこらをちょっと探してみれば、狸や狐、いわゆる人間に「妖」とか「神様」なんて呼ばれる生き物はざらにいる。

 (かくり)()を訪ねてみれば、むしろ人間の方が珍しいくらいだ。それはもちろん、幽世がこういった神や妖怪といった生き物たちのための、いわば「現世(うつしよ)」とは対を成す存在であるということを考えれば当然なのだけど。


 しかし烏天狗の私の存在がさして突飛なものではないように、この幽世という世の中もそうそう奇天烈なものでもなかったりする。私は週の大半をいやいや幽世で過ごしているのだが、そこで何をしているのかといえば人間の子と同じように学校に通っているだけである。ちなみに356歳というのはまだまだほんの若造で、人間の年齢にすればだいたい16~7歳にあたるのだ。ただし念のために付け加えておくと、天狗の身体は人より強いから、この年齢であればもうお酒もたばこも一向差支えはない。

 これは種族や本人の持って生まれた妖力によるので一概に言えることではないが、幽世の生き物というのは全体として人間よりも長く生きる。例えば天狗であれば、80歳くらいで大体小学生くらいなイメージだ。ロリババアとはまさにこのことであるが、こういうことを言うとまた大御所に「お前はまた人間どものそんな奇妙な流行り言葉ばかりつかいおって」と小言が飛んでくるので口を慎む。我ら天狗も人間たちの言論の自由とやらを見習うべきではあるまいか。


 ロンドンからひょいと便利な空間転移を利用して幽世の寮に帰ってきた私は、溜息を吐いて机の上に広げた課題を見つめた。こちらの世界にも学生らしくそれなりに課題というものが存在するのであるが、これが中々クセモノだったりするのである。決して手の施しようがないというほど難しくはないのだが、きちんとやろうとすれば時間と手数がかかってどうにも面倒くさい。

 普段は課題などため込む性質ではないのだけれど、今週末はどうもカジノでの夜遊びがすぎてしまったようである。数時間前、日本時間の16時過ぎにようやく帰ってきて、シャワーを浴びて夕飯を食べたらもう19時をすぎてしまった。

 ノンストップで気合いを入れれば、日付が変わる前にはベッドに入れるだろうが……。


「あーあ、睡眠は一日7時間はとりたい健康嗜好なんだけどなぁ」


 そんな独り言を呟いてみる。しかしそんなことが課題の足しになるはずもないので私は諦めてペンを握る。まあ、なんとかなるだろうと腹を決めた私がベッドに入ったのは、深夜の1時をまわった頃だった。


 〇

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