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トクとの別れ

「西口!西口ってどっちだ!」俺は走りながら叫ぶ。

「タカさん、こっちだ!西口って書いてある。」トクが指差す。


行き交う人を掻き分け、階段を駆け下りた。

右に小さな通用門があり、ドアの上にプレートが掛かっている。


「西口」


ここだ!

ドアをあけると眼の前にエンジンがかかったままの車両が置いてあった。

三人は思わず立ち止まる。


「こいつはすげぇや・・・」


真っ黒なセダン?いやRV。俺の背丈ほどある車体に大きな車輪。

処理隊の車くらいならそのまま踏みつけて進みそうな迫力だ。


「前はあぶない、二人とも後ろに乗ってくれ」俺は運転席に飛び乗った。

トクは言われるまま後部ドアから雪崩れ込むように車に飛び混んでいる。


「チョーさん、後ろだ!」

しかしチョーさんは助手席に乗り込む。


「チョーさんなにやってんの!だから危ないって!相手は武器持ってんだぞ!」

チョーさんはシートベルトをしめながら呟いた。

「目は沢山あったほうが良いでしょう。ナビくらいできますよ。それに愛車の敵討ちもしたいし。」


「だから、あんたは生き返るんだろ!危ないって!」


チョーさんは一瞬手を止め、私の目を見る。

「年長者の言うことは聞いたほうが良いと思いますよ。」


一瞬間が開いた。


「あー分かった分かった。どうなっても知らんからな!

トクっ!頭さげとけ!」


ギアを入れる。

車はその巨体に似つかわしくない加速で走りだした。


ピー


遠くで笛の鳴る音が聞こえる。

処理隊もこちらの動きに感づいたようだ。


正門が見えてきた。処理隊は出口に車でバリケードを作り、その前に数十人がこちらに銃を構えている。


ぱんぱん!


銃を撃つ音が聞こえる。

それとレーザー光線のようなものもこちらに向けられている。

「チョーさん、あれが御札を無効にする光だ。気をつけて!」


チョーさんは御札の入った内ポケットを守るように胸を手で抑えた。

「さてタカさん、どう突破しますか?」

「そりゃー正面突破したいところだが、このまま突っ込めば相手に死人が出てしまう。」

「いやいや相手も死神でしょ。このくらいでは死なないと思いますよ。」


チョーさんと目を合わせる。


「行きますか!」

「行くでしょう!」

「よっしゃ!」

ど真ん中に向かってアクセルを踏む。


カンカンカンカンと車体になにか当たる音がする。

きっと銃弾みたいなものだろう。

しかしこの車の中にいるうちは安全だ。


「タカさん右っ!」

「え!」思わず右にハンドルを切る。


「なんで?」

「だってこっちの車のほうが柔らかそうですもん」


どーんという音とともに処理隊の車が真っ二つに裂け、大きくはじけ飛んだ。

そのまま参道を駆け抜ける。


「ね、年長者の言うことは聞いたほうが良いでしょ、あ、左後ろにハエがくっついてますよ。」


バックミラーを見ると左後ろにピッタリと処理隊の車がはりついている。


「おりゃ!」

思いっきり左にハンドルを切りながら急ブレーキをかける。

どん!大きな音がしたかと思うと後ろの車がバックミラーから消えた。


次の瞬間、二つ折りになった車がひっくり返りながら目の前に落ちてきた。


「ね」

チョーさんが得意げに目を向ける。


さっき来た道を猛スピードで駆け戻る。

バックミラーを見る限り追いかけてくる処理隊は見当たらない。


しかし安心はできない。すぐに追いついてくるだろう。

夕日に向かって、駆け戻る。


後ろを気にしながら俺はチョーさんに話しかけた。

「チョーさん、あんたの家が一番近い。まずはあんたを戻す。そのあとトクを戻すからな。

おい、チョーさん、聞こえてるか?

とりあえずチョーさんの家に行くぞ」


チョーさんはちょっと間をおいてゆっくりと話しだした。


「いや、先にトク君を返しに行きましょう」


「あんた何言ってんだ、トクを返してまた戻ってくるんか!それにもう葬儀始まってたやんか。遺体焼かれるぞ!」

「いえ、先にトク君を返しましょう。」

「何!」


「トク君は死にたくて死んだんじゃないし、まず生き返って欲しいと私は思います。

自分は自殺したんだからダメでも文句言えません。

二人でいくより三人のほうが安心でしょ?

トク君が生還するところも見てみたいし。

それに・・・」

「それに?」俺はチョーさんを見つめた。

「タカさん、気づきませんか?

私はさっきから思っているのですが、私達は試されているのではないかと思ってるんです。」


試されている?

誰に?死神?神官?

確かにそうだ。


「しかし試されているとしてもあんたが後って話にはならんだろう。」

「タカさん、年長者の話は聞くもんですよ。」

「あーあ、わかりましたよ。先に行けばいいんでしょ。」

俺はアクセルを踏み続けた。


「トク、とりあえずお前さんが落ちた所に案内してくれ。

まだ死体があったらラッキーだ。」


とはいえ、トクが死んでからそうとうな日数が経っている。

どう考えても死体は無いはずだが、死の国入り口のおっちゃんの言葉がひっかかる。


〜あんたたちが言う時間ってもんは、それほど絶対ではないんですよねぇ〜


「ま、とにかく行ってみろっつうから行ってみるか。」

俺はアクセルをすこしだけ多めに踏んだ。


周りを気にするが処理隊の姿はまったく見えない。なんでだろう。

「あー多分ですね。家に寄ってるんだと思いますよ。」

チョーさんが呟く。


そうか!普通に考えればまずチョーさんの家に行くと思うはずだ。

だから追撃がないのか。

しかし、チョーさん、それが分かっていてあえてトクを先にしたのか?


「だからですね。相手ももう気づいているはずだからちゃっちゃと終わらせましょう。」


遠くに街の明かりが見えてきた。


街はとっくに夜になっていた。

俺たちは車と人混みが溢れる国道から、一歩入った小道に車を進めた。

そこは繁華街ではあるが明るく活気のある路地だ。

カラオケや居酒屋が立ち並んでいるが、多くのサラリーマンが多く歩いていて治安も悪そうではない。


「トク、どこだ。」

「あ、あそこの角をまがったマンションです。」

ん、あそこか・・・


その時


どん!


鈍い音がした。


「キャー」悲鳴が聞こえた。

人々がざわめき一斉にマンションに駆け寄った。野次馬で黒山の人だかりになっている。


何だ!今?トクが今落ちたところなのか?


「じゃ、チョーさん、タカさん、僕‘いき’ますね。

あ、行くじゃなくて生きるのほうですよ」

ニコリと笑うと、トクが座席から飛び降りた。

チョーさんが手を伸ばし、しっかりと握手した。

「トクさん、ありがとう。」

「え、チョーさん、僕は何もできませんでしたよ。」

「いや、お礼を言わせてください。ありがとう。」

「こちらこそ、チョーさん、それとタカさん、ありがとう」


トクは駆け出し、少し進んだところでこちらに振り向き一礼したあと、死体のある野次馬の中にかけ出した。


俺とチョーさんも体を乗り出して様子を伺う。

一瞬間を起き・・・


わぁーー


恐怖の悲鳴が上がり、人々が逃げ出した。

その円の中心に誰か立っている。そこには生還したトクがいた。


トクはマンションを見上げている。

筋肉質の体育会系の若者だ。

しかし、雰囲気は紛れもなくトクだ。


トクが見上げる視線の先には恐怖におののいて下を覗き込む女性がいる。


トクが大きく息を吸い込み一瞬間をおいた。


「す、好きだ〜!」


トクの叫び声がビルの谷間にこだました。



「ちょっと笑っちゃうな」俺が呟く。

「トク君らしいですよ」チョーさんも呟く。


もうトクは大丈夫だろう。

フラれるか?まあそうだろうなぁ。でもあいつはすごく強くなった。

これから彼には幸せな人生が待っているんだろう。


「さ、次はあんたの番だ」

悲鳴と逃げ惑う人たちを尻目に、次の目的地へと走りだした。



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