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死の国支局

車で処理隊に突っ込んでいく。

処理隊は蜘蛛の子を散らすように道を開けた。


「行けぇ!」


マンションの敷地を抜けながら右に曲がる。

キキキッ!


わずかなスキール音を残し張り付くように曲がっていく。

「俺、こんなに運転上手かったっけ?」まるで車に意思があるようになめらかに曲がっていく。


あまり広いとは言えない国道に飛び込んで、ルームミラーを見る。

そこにはトクの顔が大きく映しだされていた。

「トク!邪魔なんだよ!」

「そんなこと言われても〜」


窓から顔を出し後ろを見ると、3台ほどの黒塗りの車が追いかけてくる。

「チョーさん、逃げ切れますかね。」

「逃げ切れますとも。こいつはやりますよ。」

いつもの楽観視だが、この言葉は信用できる。

「だけどこっちは定員オーバーだからな。」

そう言いかけた時、脇道から黒塗りの車が飛び出してきた。

やばい!


間一髪で車の間をすり抜ける。


「マジか!俺、本当に運転上手いぞ!」

しかし、喜んでいる暇は無い。後ろの車が執拗に追いかけてくる。


カーチェイスは延々と続くが、この車なかなか速い。それにうまく運転できている。

しかし処理隊も諦めない。


一時間ほど走ったろうか。チョーさんが叫んだ。

「タカさんマズイです。水温計も油温計もレッドゾーン寸前です!すこしペース落とさないとエンジン壊れます」


いそいでメーターを見る。たしかにやばそうな値を指している。

こちらはスポーツカーだとは言え、小排気量の軽量マシンだ。

処理体の大排気量セダンとくらべると長期戦は不利だ。

それにチョーさんが耐久性を無視した改造をしている。

しかも乗っているのは定員オーバーの三人だ。


くそっ!ここでアクセルを緩めたら追いつかれる。

しかしこのままではエンジンぶっ飛んでしまう。そうなればもう終わりだ。


「タカさんマズイって!」チョーさんが叫ぶ。

その声が事態の深刻さを表している。

どうしようもない。車を捨てて逃げるか。いや無理だ。もう終わりだ。

くそう、万事休す。俺はゆっくりアクセルをゆるめた。・・


その時。


グオン!


「えっ?」

一瞬エンジンが吠えた。


ギュイーン!

「な、な、なんだ!」


車がすごい加速を始める。


「タカさんダメだって!」チョーさんが叫ぶ。

「いや、俺じゃない。アクセル踏んでない!」


勝手に車が走ってる!


回転数の警告灯が赤く灯る。

それでも加速をやめない。


ぶっ壊れたか?


しかし、「死の国の入り口」まではもう少しだ。


回転計はレッドゾーンを示し、油温計も水温計も針を振り切っている。

しかし、車は一向に速度を緩める気配はない。


おいおいそんな速度じゃ俺曲がれないよ。


車はついて来いとばかりに速度を上げる。


エンジンルームから「シュー」と何かが漏れる音が聞こえ始めた。

メーター周りにある警告灯が次々と点滅していく。


「壊れる〜!」チョーさんが叫ぶ!


ダメか!いやあの角を右に曲がればお寺だ!持つか!


最後の角を曲がった。


「見えた!」

お寺の門だ!その先の砂利の広場が見える。


その時


ドン!


大きな音がして車が宙に舞った。

エンジンが爆発したのだ。


スローモーションのように車はゆっくりと左に回りながら宙を舞った。

一瞬の静寂の後、大きな音とともに車は天井から地面に激突すると、ひっくり返ったまま滑っていく。

天井から火花を飛ばしながらそれでも勢いは衰えない。

もう少しでお寺だ!


ギギギー


鈍い音を立てて門をくぐったところでようやく車は停止した。

エンジンからキンキンと音がしている。車は完全に死んだようだ。


車から這い出すと黒塗りの車がこちらに迫ってくる。


ああ、もう終わりだ。逃げる気力もない。


迫り来る車と処理隊の大群を見て俺は覚悟を決めた。




キキ〜


門の前で黒塗りの車が急ブレーキで止まった。

処理隊がぞろぞろと降りてきて門の前に並ぶ。

しかしこちらに入ってこようとはしない。


また静寂が戻ってきた。


「なんで襲ってこないんだ・・・」

カラスの鳴き声が処理隊との間を通りぬけ、お寺の境内に広がった。


「はいはい、そこ入っちゃだめよー。管轄外ですからねー」

後ろから大きな声が聞こえた。

振り向くと初老の公務員風の男性が拡声器を持って叫んでいる。

白いしわくちゃのワイシャツに黒い袖カバー。田舎の役場にいそうなおっちゃんだ。


おっちゃんは拡声器を下ろし、俺たちに近寄ってきた。

「はいはい、死の国の入り口支局の担当員です、あんたたちやっちゃったねー」



俺たちは狭めの部屋に通された。

「困るんだよねー」そう言いながら初老のおっちゃんは目の前の席に腰掛ける。

机に置かれたプレートには「死の国入国監査官」と書かれていた。


俺たち三人はうなだれたまま、丸椅子に腰掛けている。


おっちゃんは面倒くさそうに話しを続ける。

「あんたたちみたいなのは本当、こまるんだよねー あ、神官から話しはきいていますけどね。」

おっちゃんは横においてある急須から自分の湯のみにお茶を継ぎ足しながら話しを進める。

どうやら俺たちにお茶を振る舞う気はなさそうだ。

「予定外に勝手に死なれてこんな大騒ぎおこしてねぇ、こっちにも計画ってもんがあってねぇ・・・」


俺は口をはさんだ。

「おいおい、こっちは死に物狂いでここまで来たんだぜ。あんた助けてくれるんだろ。」

「いやねぇ、おたくら処理隊とあんだけやらかしてるからねぇ。現に引き渡し要求もきてるんですよ。はー困った困った。

それに決定的なのがあの車だねぇ。所有物とはいえ、純な魂をあんなにしちゃったからねぇ」

「おい、順な魂って何だ?俺たちはこいつの車に乗ってきただけじゃないか。」

「はぁ?幽霊が俗世のものを操れるとでも思ってるの?そりゃおめでたい方々ですなぁ。みなさんが乗ってきたのは車の魂でしょ。」

「魂って・・・車は機械だろ」

「物でも愛着を持って大事にすれば魂が宿って意思を持つって習わなかった?」

「意思・・・ ってことは俺が運転してるんじゃなくて車が自分の意思で走ってたってことか?」

「当たり前でしょ。その純な魂をあんたたちは消してしまったんですよ。

まあ、それが車の意思でもあったんでしょうけど。」


そうか、あの神がかり的な運転も、エンジン爆発の危険を冒しての加速もすべて車の意思だったのか。


「まあ、よっぽど大切にかわいがっていたんでしょうねぇ。普通、物の魂はあそこまではやらんですよ。」

おっちゃんは呆れたように言った。


「で、俺たちをどうする気だい。」

ゴクリとつばを飲み、おっちゃんの言葉を待った。


おっちゃんはじろりと俺たちを睨みつけたあと、お茶をこくりと飲んで説明を始めた。

「いやね、正直あんたたちは受け入れたくないんですよね。かといって処理隊に引き渡すのも面白く無い。

でね、とっとと出て行ってくれると助かるんですよね。

あ、これはあくまでお願いね。強制力はないですよ。

でもね、引き換えっていうわけでは無いですが出て行くんなら良い物を渡しますよ。」

おっちゃんは引き出しから木の札のようなものを出した。

表に筆書きで何か書いてある。

「これこれ、生還の御札ね。これもって自分の肉体にダイビングすれば生き返りますよ。

ただし、まだ肉体があればだけどね。

まあ、どうしてもって言うんであれば死の国への手続きをやってもいいけど、ま、その辺は悟ってくださいよ。」

おっちゃんは三枚の御札をからんと目の前に投げた。


「え、これで僕、生き返れるんですか!」トクが突然声をあげた。

「ぼ、僕は彼女に告白したいんです!一度でいいんです。」


「まあ、そうやねぇ。処理隊に処理されずにたどり着いて、そんでまだ肉体が残っていればですけどね。

あ、肉体がなかったからといって戻ってきてももう受け入れはしませんよ。

とはいえ戻ってくる前に処理されちゃうと思いますけどね。

どうします?」


一瞬、時間が止まった。


「生きます!」

トクとチョーさんが同時に声を上げた。


「お、おいおい、トクはまだしもチョーさんって今の生活が嫌で自殺したんじゃなかったっけ?」

しかし、落ち着きはらった声でチョーさんが言う。

「いえ、もう一度やりなおしてみたい。もう一度でよいから家族を抱きしめたいんです。

それにまだ家には私の遺体も残っています。」

予定外だ。俺は慌てて俺はトクに話しを振る。


「そうそう、遺体ってことになると、トクお前の体はもう焼かれちまってると思うぞ!」


おっちゃんが手を上げながら口を挟む。

「やれやれ、まあ無理もないが、あんたたちが言う時間ってもんは、それほど絶対ではないんですよねぇ。」

「はあ?それはどう言う意味だ。俺に分かるように説明してくれ。」俺は詰め寄った。

「まあ、行けばわかりますよ。それより早くしないと本当に体は焼かれちゃいますよ。」


「僕は行くよ」トクが言う。

「私も行きます」チョーさんも頷く。


「で、タカさんはどうするんですか?」トクが聞いてきた。


俺?自分のことは考えてなかった。

別に生き返りたいわけではない。


しかしこの二人・・・

とても体まで辿り着きそうにない。


トクが生き返りたい気持ちはよくわかるし、チョーさんの気持ちもわかる。

この二人を生き返らせてやりたいと思った。


まあ、俺はいいじゃないか。処理隊に処理されたって。

もともと死の国なんて知らなかったんだから。


「じゃ、俺も行くよ。あんたたち二人だけだと処理隊の餌食だからな。」


おちゃんがタイミングを見計らったように閉めに入った。

「どうやら結論が出たようですな。では御札をお渡しします。

あ、処理隊は御札の効力をなくす銃を持ってます。光を御札に当てられないように注意してくださいね、使えなくなっちゃいますから。

ではご幸運を。」

「ちょっと待ってくれ、ここで追い出されても外には処理隊が待っている。俺たちは瞬殺だ。なんか武器とか空飛ぶ何かとか貸してはくれないのか?」


おっちゃんは呆れたように両手を広げた。

「まあ、いい加減にしてくださいよ。そこまでは面倒見れません。また処理隊に苦情言われますしね。私も生活があるんですよ。とっとと出ていってもらえませんかね。」


死神から聞いた話しとは大分違うぞ。保護派じゃなかったのか?


「じゃいいよ、こっちでなんとでもするよ。もう頼まん!」

俺は勢い良く席を立った。後の二人も私に続いて部屋を出る。


「なんだあのオヤジ!全然話しがちがうじゃないか」ドアを出たところで俺は呟いた。

その時。

「おーい、事務員さん、お客さん帰ったよ。」

出てきた部屋からおっちゃんの大きな声が聞こえる。

事務員を呼んでいるようだ。

「あー外に止めてる社有車だけどねー、あれ鍵がついたままだから鍵抜いといてねー。でないと盗まれちゃうでしょ。あの車は根性あって相当な破壊力だからね。もし盗まれでもしたら処理隊でも敵わないでしょ。事務員さん、かたづけといてね。」

大きな声が聞こえた。


そっか車だ!俺たちは走りだした。


「あー、西口の横に停めてある黒い車だからねー」

おっちゃんの声が聞こえた。


しかし、その時おっちゃんがにこりと笑ったことは俺に分かるはずもない。


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