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それぞれの生活

処理隊も街で巻いた後は出会うことはなかった。

誰が言い出したわけではないが、俺たちは山道経由で死の国への入り口に向かい、かなりの時間一言も話さずひたすら歩き続けた。

ふと気づけば回りが暗くなっている。


想像していたものとあまりにも違う死後の世界、現実的であることがかえって受け入れがたい。

夢を見ていたのではないかとさえ思えてくるが、目の前にはチョーさんとトクがいる。

中途半端なオカルトチックが事態を余計にややこしくしている。


「ちょっと休むか」

そういって適当な窪地に座り込んだ。


疲れも眠さも空腹も感じないから、本来休憩は不要なのかもしれない。

しかし、ちょっと落ち着きたいし、心を整理したい。

それに幽霊になっても、真っ暗な夜の森は怖い。

そう思い枯れ枝に火をつけたところだ。


森の夜はひんやりとした空気が流れていた。

三人はじっと焚き火の日を眺めている。

ゆらゆらとゆれる炎を見ていると、心がやすらいでくるのがわかる。

幽霊になってもメンタルは変わらないんだな・・・


「そうそう、トク、お前さんが追いかけ回していた彼女ってどんな女の子なんだ?」

特に興味があるわけではないのだが、沈黙に耐えきれずに話しかけてみた。


「それは可愛い娘ですよ!銀河一の女性です!」

トクの顔に明るさが戻った。

「銀河一はすごいなぁ、何歳ぐらいの娘なんだ」

「そうですねー神官さんと同じくらいかな?」


え、神官?驚いた俺は言葉を続ける。


「神官と同じくらいだって?お前相当なロリコンか?」

「タカさんいやだなぁ、20代前半っつうことですよ!」

「いや、神官は小学生くらいだろ」

「なーんだ、タカさんのほうがロリコンなんじゃないんですか?いや、そっちも僕はストライクですけどね!」


どこをどう見たら神官が20代に見えるんだ。あきれたやつだ。

トクと話をしていると妙に疲れる。

しかし、今はこれも良いものだ。


今度はチョーさんに話を振ってみる。


「チョーさん、ご家族ってどんなんなんだい?子供とかいるんだろ?ちょっと聞かせてくれよ」

「はあ、私の家族ですか?まあ良いですけど・・・

家内とは峠の走り屋を見に行った時に出会ったんですよね。」


「え、チョーさん峠とか見に行ってたんだ!意外だな!」

「はい、学生のころは流行ってたというのもありまして、車が好きでした・・・でも運転は下手くそですよ。

有名な峠があったので同級生につれられて見に行ったんですけど、その時に家内と出会ったんです。」


「で、恋に落ちたって言う訳だな。どんな奥さんなんだ、教えてくれよ。」

「はい、恋愛などしたことのない私には輝いて見えました。私は声をかけることはできなかったのですが、友人が盛り上げてしまって・・・若気のいたりです。」


トクが食いついてきた。

「で、で、どんな人なんですか!可愛い人ですか!」

「はい、その時は可愛かったですね。

目が大きくて、羽根のようにスレンダーでふわふわと浮いているような人でした。

彼女が笑うと世界がバラ色に見えましたよ。

はぁ、あの時は私もまともな精神状態ではありませんでしたからね。」


「おいチョーさん、まともな精神状態ではないってどういうことだい?」

俺は聞き返した。

「はい、結婚して冷静になると全然違っていたのです。

よく見ると、スレンダーではなく、がりがりのやせっぽち。

大きな目はいつも私を睨んでいるし、ちょうど般若のお面のようだと気づいたんですよね。

娘もそうです。あ、子供は一人で、今は大学生なんですけどね。

生まれた時は可愛かったですよ。

でも成長とともに家内と同じ人間になりました。

今風といえばそうかもしれませんが、見るからに冷酷で笑顔も見せない娘です。

優しさというものが見た目にもない娘です。」


「えらい言いようだなぁ、まあ、自殺に追い込む家族だからそんなもんかもな。」


「あ、写真がたしかございます。見ますか?」

チョーさんが財布から写真を取り出した。

これほど家族のことを悪く言っているのに家族写真を肌身離さず持っているというのはどういうことだろう。

疑問に思いながらもチョーさんから写真を受け取った。


そこには優しそうな目の大きい女性と、明るさ満点の娘、それとその横で幸せそうな笑顔を見せる男性が写っていた。


「え、これ、この男は誰だい?」

「やだなータカさん、私ですよ。」

「え?これがチョーさん?なんか印象違うけど・・・」

「はい、以前に撮った写真ですから、印象変わったかもしれません。」


そこに見えるのは、円満で幸せそうな家族以外の何者でもない。


「ね、タカさん、家内も娘も般若みたいな顔してるでしょ」

「いや、写真ではすごく優しそうな笑顔の奥さんだよ。

娘さんも素直そうな優しい笑顔じゃないか。」

「あー写真じゃ分からないのかもしれませんね。実物は酷いんですよ。」


そうかなぁ・・・


チョーさんが言うには、結婚後に冷静になった途端、奥さんの姿が一変したとのこと。

自分を気遣ってくれていると思っていた言動もすべて当て付けや嫌がらせだということに気づいて家にいるのがイヤになったとのこと。

娘さんも奥さんと結託してチョーさんを仲間外れにし、バカにしていたと・・


会社でも仕事がうまく行かず、また同僚からも仲間はずれにされ、上司からは叱られてばかり。

何をしてもダメ出しばかりで、たまに優しい言葉をかけられても目が笑っていて自分を虐めることが趣味な上司だそうな。

その上、難しい仕事ばかりやらされてとうとう嫌気がさしたらしい。


が、だ、写真に写っているチョーさんと言われる男性と二人の女性は幸せそうな笑顔の家族だ。


そうなのか?見た目だけではわからないものなんだろう。



どれだけの話をしただろう。どうでも良い過去の話をしているうちに少しずつ空が明るくなってきた。


「さあ、ぼちぼち出発だ。」

俺は勢いよく立ち上がった。


「はぁ、いつになったら入り口にたどり着くんだろう・・・」

トクがうなだれて呟く。こいつはネガティブの塊だ。

「いえいえ、一つずつ努力をしていればなんとかしてもらえますよ」

チョーさんは楽観視の塊だ。

しかし行動が伴わないのが問題だ。


いつのまにか二人とも俺をリーダーとして認めてくれている。

しかし俺にとってはお荷物を背負わされている気分だ。


トクが諦めたように呟いた。

「あー車でもあればあっという間なんだけどなぁ・・・」

俺は動きを止めた。

「え、今なんて言った!」

「いや、車があれば・・・」

そうだ、何で気づかなかったんだろう。


「それだ!車だ!車で行こう!」

俺は興奮気味に叫んだ。


二人はぽかんと私の顔を見つめている。

「タカさん、そうはおっしゃいますが、幽霊の私達に実在する車なんて運転できないでしょう」

「いや、あんたたちは知らないかもしれないが、けっこう機械は使えるんだぜ!俺は死んだ朝にパソコンを使っている。車も動かせるはずだ!」

俄然希望が湧いてきた。


「よし、とりあえず中古車センターあたりを狙おう!動く車があるはずだ!」

しかしいつものようにチョーさんが水を差す。

「盗むのですか?それは犯罪です。そのようなことは慎むべきかと・・・」

「そんなこと言っている場合か!あんた抹殺されたいのか。」

「しかたありませんねぇ、ならば私の車を使いますか?ちゃんと動かせるんであればですが・・・」


???


「えーっとチョーさんの車って・・・」

「はい、私の自宅はすぐそこです。当然ながら車もあります。ローン残ってますけど・・・」


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